第123話 マジョリカダンジョン 3F・4F

 三階の途中まで進み。今日はここで野営することにした。場所は袋小路の突き当り。本来逃げ道がなくなるからあまり推奨されていないけど、パーティーの人数が少ないため、複数から襲われるリスクを考えるとまだ対応出来ると判断した結果だ。実際に交代で見張りをすると二人しか人員を割けない。一人だと何かあった時に対処出来ないことがあるかもだし。寝落ちだってあるかもしれない。

 また、試しに土魔法で陣地が出来るかやってみたら一応出来た。ダンジョンの床の土を使うことが出来ないから土を精製維持するのに余計に魔力を使うけど、防壁を構築することは可能だった。

 いっそ通路を壁で埋めてしまえばいいかと思ったら、通路一面を覆うとするとマナポーションを何本か飲まないと出来そうになかった。

 結局陣地を築けても大して防衛に役立つ規模のものは不可能だと分かり、諦めたわけですが。

 火を焚き、夕食を食べ終えると雑談することなく二人は就寝。長丁場だ。体を休めることも仕事になる。

 火のパチパチと鳴る音が、静まり返ったダンジョン内に響く、ように聞こえる。実際はそれほど大きな音ではないけど、静まり返っているから錯覚する。

 最初の見張りは俺とミア。一見バランスが悪い組み合わせに見えるけど、俺はズルをするからな。ミアが疲れて寝てもいいように、一緒の組みにした。


「どうだった? 今日一日ダンジョンを探索してみて」

「疲れた。だけど少しだけ、ほんの少しだけ自信を持つことができた、かな?」


 ゴブリンとウルフに関しては、一対一ならそれなりに戦えたしな。止めを刺すことはしてないけど、持ち堪えることが出来た。特にウルフのスピードに付いていくことが出来たのが自信につながったんだろうな。実際は、ヒカリやセラの方がウルフよりも早いから、それに慣れていたから対応出来たんだと思う。

 話していると、途中でウトウトし始めた。眠らないように頑張っているが舟を漕いでいる。あ、駄目そうだな。会話をして眠気を誤魔化していたけど、やがて会話が成り立たなくなってノックアウト。座ったまま寝ている。

 その状態だと変に体が疲れてしまうから横にしてやる。

 MAPを確認したけど、魔物の数が明らかに昼間よりも少ない。動かない者もいる。これは夜の時間帯になると、魔物も活動が収まるからだ。これがアンデッド系になると、逆に活発になるそうだ。ただ完全に活動を停止しているわけでもないので、最低限の警戒は必要になる。もしかしたら、時間の感覚を魔物の動きで普通の人は判断しているのかもしれない。昼間に狩っていて、数が少なくなっているのも影響しているかもしれないけど。

 俺は三階に踏み入れてからの戦闘を振り返る。

 三階に出現する魔物はゴブリン。稀にファイターとメイジが混じっている集団があるけど、基本的に狩り方は一階とあまり変わらない。注意する点はメイジがいる時に魔法をいかに使わせないか。ヒカリやセラの投擲攻撃でもいいけど、ここはミアのホーリーアローの練習のためにあえて禁止させている。

 現在メイジと四回遭遇したけど、ホーリーアローを撃てたのは一回だけ。正確にいうと魔法が完成してメイジに向かって飛んだのが一回ということだ。

 他は途中で集中が切れたり、魔物に攻撃されそうになって中断したりした結果だ。慣れれば即発動させることが出来る魔法も、今のミアでは難しい。トリーシャに教わっていたけど、上手いことコツを掴むことが出来ていない。魔力察知で視ると、魔力を上手くコントロール出来ていない感じか?

 落ち着いてやれば魔法の発動は普通に出来るから、あとは集中が乱されても大丈夫なように練習を繰り返すのみだ。一番の問題は発動までの時間か。

 一度ヒールやリカバリーのように無詠唱で使えないか聞いたけど、どうも無理らしい。理由は分からないけど、感覚的に今は無理だと分かるらしい。謎だ。



 翌朝、目を覚ましたミアに凄く謝られた。無理はするなと声を掛けておく。

 マジョリカまで来る旅でも野営の宿泊は何度もあったけど、道中はそれほど緊張感を持っての移動じゃなかった。

 けどダンジョン内は常にそういう訳にもいかず、ヒカリとセラが前にいるとはいえ肩の力を抜いて歩くのは難しい。一日中緊張感を持って歩くという経験が今までなかったし、そこに魔物との戦闘もあれば、ミアにしては気付かない間に疲労が溜まっていても不思議じゃない。

 ヒカリとセラもその辺りは予想通りだったようで、色々アドバイスをしているようだ。

 しばらくして四階への階段が見つかり、休憩を挟んで下りていく。

 四階はウルフの階層。二階との差は一度に遭遇するウルフの数だ。先の階では一回で遭遇する数が多くて二、三匹だったのが、今は五匹一組で行動しているのか、ほぼその数で遭遇する。たまに迷子になったのか、一匹で徘徊している姿を見た。もちろん五匹以上に襲われることもあった。

 とはいえ、苦戦するほどのことではない。むしろ二匹をわざと見逃して、ミアにけしかけてません? 助太刀しようとしたら止められた。目で訴えかけてきた、邪魔をしないように、と。

 俺はそれに従い、他に警戒しながらミアを見守る。結界魔法も、今は止めている。お守りに渡した付与したネックレスも砕けてしまっているけど、代わりも渡していない。セラに相談したら、甘えに繋がるから低層では余計な手出しはしない方が良いと提案された。防具もそれなりに良いものを選んでいるから、むしろ攻撃の衝撃を体で覚えさせるべきだと言う。うん、スパルタだ。

 実際ウルフの牙と爪では、ミアの防具を引き裂くことは出来ない。打撃の衝撃は伝わるようだけど。もちろん防具のないところに攻撃を受けたら、柔肌に傷は付くけど、それは注意しているのかしっかり防御している。

 ミアはスタッフを巧みに動かし、足を動かし、ウルフの動きを制限する。出来るだけ二匹と同時に戦わないように立ち回っている。決定打がないミアは、何度かウルフの攻撃をその身に受けるが怯まない。口をきつく結び、歯を食いしばっている。

 ウルフとの戦闘はそれから十分ほど続き、一匹はミアの振り回したスタッフがクリーンヒットして倒し、もう一匹は吹き飛ばしたところをヒカリが処理した。

 それを見たミアはハ~と息を吐きだし、しゃがみ込んだ。額に浮かんだ汗は、頬を照らして輝いている。やり切ったと浮かべるのは笑顔だ。ドキッとさせられた。

 二人が近付き、ミアを褒めている? 否、なんか駄目出しとかアドバイスしているな。ミアも真剣に聞いて頷いている。

 俺は上手い言葉が見つからず、「良く頑張った」とだけしか言えなかった。

 けどミアは凄く嬉しそうに、もう一度微笑んでくれた。

 その夜、五階へと続く階段を発見した。下りてきた階段から、比較的近いところにあったからだ。

 今日は降りずに、少し離れた場所に移動して野営の準備をした。階層をまたいで魔物が移動したという話は聞いたことがないらしいけど、冒険者がやってくるかもしれない。それを警戒した。

 本当は五階で登録して一度街に戻ることも考えたけど、予定よりも早く進めていることと、ダンジョンでの野営に慣れるためにダンジョン内で過ごすことを決めた。

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