第121話 マジョリカダンジョン 1F
「あっ……」
「主、どうしたの?」
「ああ、何でもない。ちょっといきなり景色が変わったから驚いた」
「確かにどうなっているんでしょう?」
ミアも不思議そうに壁をペタペタ触っている。罠があるかもだから注意しなさいとセラに怒られているな。十階まではないという話だけど、むやみに触らないように常に注意しておいた方がいい。
と、違う。俺が驚いたのはこれ。MAP機能。うん、某ゲームのようにしっかりとマッピングされてます。気配察知を使えばあら不思議。魔物の表示までされますよ。
いいのかこれで? イージーモードじゃないですか。ダンジョン無双ですか?
けどまだ入ったばかり。もしかしたらMAP機能が働かない階層だってあるかもしれない。
そもそも隊列はヒカリとセラを前衛。中衛をミア。後衛を俺が務めるから、行き先は二人が基本的に決めるから黙っていよう。出来るだけMAPを見ないように……なんて思っても見ちゃうよね!
「た、確か一階はゴブリンですよね」
「ミア、落ち着け。皆だっているんだ、肩の力を抜けといっても無理かもだが。今からそれだとすぐに消耗するぞ」
緊張しているな。スタッフをギュッと握っている。ヒカリに言われて大きく深呼吸している。もう少し仲間を頼ってくれればいいのに。
「うん、ありがとう。落ち着いた。大丈夫」
なんか自分に言い聞かせてる感じだけど、程よく力は抜けてるな。ヒカリもうんうんと頷いている。
俺はミアが落ち着いたのを確認して改めて周囲を見回した。
通路の造りは岩山の中の洞窟を連想させられる。ごつごつした見た目で、ぶつかると痛そうだ。確かこの壁、表面は削れるが破壊することが出来ないんだったか?
違う、確か自己修復するってあったな。ただ破壊するにしてもかなり威力のある攻撃じゃないと傷一つ付かないってあった。どの世界にも検証しなくては気が済まない者はいるようだ。
洞窟内にいるのに、明るいのも壁が光を放っているからみたいだし。不思議空間だな。
「主様、進むよ」
「ああ、低層は罠はないって話だけど一応注意な。魔物の不意打ちに気を付けてまずは二階を目指そう。ただゴブリンと遭遇したら一体を残して殲滅してくれ」
ミアと戦ってもらうためだ。ウルフは素早いから最初に戦うには大変だろうし、出来ればゴブリンで実戦経験を積ませたい。というのがセラの意見。ヒカリも同意していた。
運がいいのか悪いのか。進んだ先にゴブリンが三体いるな。位置は通路の半ばあたり。不意打ちをしようという頭はないのか? 普通だったら通路の物陰に隠れるだろう。それとも戦自慢か?
考えなしでした。遭遇した瞬間ヒカリとセラが強襲。瞬く間に二体がナイフと斧の錆となったな。
そしてそのまま通り抜けてゴブリンの背後へと回る。ゴブリンは前後をキョロキョロ。手に持つのは木の棒。仲間を瞬殺されて震えてる?
コマンド。逃げる。しかしゴブリンは回り込まれて逃げられなかった。通路を挟んで退路を断ってるしな。
そんな心境だろう。けどミアも一杯一杯っぽいんだよな。
「ミア、落ち着け。ヒカリやセラとの模擬戦を思い出せ」
「ひ、ひゃい」
声が裏返ってますよ。勇者だったら緊張を紛らわせるために胸の一つでも揉むor触りでもするんだろうか? 普通にセクハラだな。説教コースどころか最悪口を利いてくれなくなるかもしれない。
奴隷だからそんなことないって? 気持ちの問題ですよ気持ちの。って何か思考が変な方向にいってるな。むしろ落ち着くのは俺か。
けどこのままだといつまで立っても戦いが始まらないな。ゴブリンもなんか戸惑っているし。
俺は無難にミアの背中を軽く押した。心を鬼にしてですよ。
ミアが一歩踏み出すと、ゴブリンも臨戦態勢に入った。
「大丈夫。いつも通り戦えばミアなら楽勝だよ。何かあったら守るから安心して」
危なかったら結界魔法をしっかり使いますよ。魔力を多めに籠めて。
ミアも覚悟を決めたのか、自分から二歩目を踏み出した。
それが開始の合図。ゴングは鳴らないけど。
ゴブリンが走り飛び掛かり、飛び掛かり、あっさり撃破。あ、なんかミアが一番驚いている。
ゴブリンの一撃を躱し、カウンターでスタッフの一撃がヒットした。
悶絶しているゴブリンはヒカリが無慈悲に止めを刺した。
「どうだった?」
「え、と。その、良く、分かりませんでした」
傍から見た以上に、本人は必死だったようだ。実感もまだ湧いてないようだ。
「ミア、いつも通りの動きだったよ。それがいつも出来るようになれば問題ないさ」
「うん、ミア姉鮮やかだった。自信持つといい」
二人は手放しで褒めてる。それを受けてミアの硬い表情もやわらいだ。ホッと一安心といったところか。ある意味見ているこっちの方が緊張していたからな。
戦いが終わったら素材の回収。といってもゴブリンには素材がないから魔石と討伐した証明となる右耳を回収。討伐しても報酬は出ないが、実績としてカウントされてランクアップに必要なポイントに加算される。
冒険者なのはセラだけだから、必要なのはセラだけとも言うが。この場合、関係ないものが一緒にいる時はどのように判断するんだろうな。
ダンジョン内では、魔石を回収して、死体から半径十メートル離れた状態で十分ほど経つと、魔物の死体は勝手に分解されて消える。一説にはダンジョンが吸収していると言われている。
そのため欲しい素材がある場合は、魔石を抜かないようにするか、常に傍らに誰か待機させるか、死体を直接ダンジョンに触れさせないようにする必要があるらしい。
もちろん例外もあるため、それが全てではない。魔物が装備していた武器も消えるようだし。
「勝手に消えるなんて不思議な光景だな」
俺たちは死体が消えるのを確認して先に進む。一日で何処まで進めるか。まだまだダンジョン探索は始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます