第120話 マジョリカ・6
「本日よりお世話になります、タリヤと申します。レイラお、こほん。レイラより事情は伺っています。よろしくお願いします」
ロングのワンピースにエプロンを付けたメイド服を着こなした、
メイドさんのタリヤと冒険者のタリア、似た名前で間違えそうだ。なんて変なことを考えた。
「こちらこそよろしくお願いします」
なんか笑われた。
「ソラ様は雇い主様です。どうぞ普通にお話しください。レイラからも良くお話を聞いていますので」
一瞬ドキッとさせられる笑みだ。大人の色香というか、緊張するな。なんかレイラの目が険しいから気も抜けない。
「基本的にダンジョンに行っている間のお世話をお願い、頼む。それで俺たちがいる場合はどうする?」
「そうですね。レイラよりソラ様の料理は変わっていて美味しいと聞きます。可能なら教えて貰ってもよろしいですか? なのでここで寝泊まりをさせて貰えたらと思います」
部屋は四部屋。基本寝る場所だから問題ないか? だけど俺は部屋を少し広く使いたいんだよな。流石に皆のいる生活空間で錬金術を使う訳にもいかないし。
「私はエルザちゃんとアルト君と一緒の部屋で大丈夫です。その方が色々と教えるにも都合が良いと思いますし」
「分かった。ヒカリ、エルザとアルトを呼んできて貰ってもいいか?」
今はミアたちと草むしり中だからな。ミアたちに事情を話し、エルザとアルトに聞いた。ミアに懐いているから一緒の部屋がいいと言うなら考えるけど、エルザはタリヤに頭を下げてお願いしますと言っている。アルトは緊張しているのか、エルザの服を掴みながら、それでも同じように頭を下げている。
ついでに部屋の割り振りを決めたらこうなった。
俺。一人部屋。寂しくなんてないよ?
ヒカリとミア。何やらヒカリの話す戦い方の極意を真剣にミアが聞いている。けどあれは魔物との戦いじゃなくて、露店でいかに美味しいものを探すかの注意点のような気がする。ヒカリにとってはある意味戦いだが。
セラは俺と同じ一人部屋。ルリカとクリスと合流したら一緒の部屋で色々と話をすると良い。良くも悪くも、話したいことはあるだろうしな。それまでは一人。時々ヒカリの部屋にお泊りをするようだ。
合流した後、三人がどうするかはその時に話し合いをすればいいか。
タリヤとエルザ、アルト。エルザは早くもやる気だ。タリヤに折角だからメイド服を用意しますと言われたので任せた。
翌日何故かアルトもメイド服を着ていた。ここは突っ込むところか? それとも聞いてはいけないことか? 誰も気にしないのは何故だろう。俺がおかしいのか?
その日からタリヤによるエルザとアルトの教育が始まった。家事全般を中心に、空いた時間で読み書きの勉強を教えるそうだ。必要なのかなと思ったけど、食材の買い付けなどでお金の計算が出来ないと話にならないと言われて納得した。
「それでエルザたちが落ち着いたらダンジョンに行きたいと思う」
「私たちがいない時にセラの幼馴染が街に来たらどうするの?」
「ギルドに伝言を頼んで、この家の場所を教えておくよ。それに、お金を稼がないといけなくなったからな」
ここのところ出費が続いて手持ちが減ってきた。そこまで本気で攻略を考えていなかったけど、状況が変わった。もちろん無理はしないように気を付ける。
最前線を目指そうとは思わないけど、生活費及び将来に向けての貯蓄は大事だ。
理由を察したミアが申し訳なさそうにするが、これは俺も同意したことだしな。
あと、ルリカたちの現在位置を確認したが、まだここに到着するには時間が掛かりそうだったから問題ないだろう。強度に不安があるから何度も使えないのが残念だ。あと一回か二回は持ってくれると思うんだが……。
それから三日間は目の回る忙しさだった。
不足していた家財道具をさらに買い、家の環境を整えた。タリヤを中心に料理を教えたり、ギルドの資料室でダンジョンの十階までの出る魔物や採取できる素材を確認し、納品依頼のチェックを行った。夜は夜で錬金術を行い、ひとまずミアに代わりのネックレスを渡した。
どうやら前回の作成では、遠距離攻撃で結界が発動するようになっていたようだ。これは最初にミアが襲われた状況が、遠距離から襲撃されたからのようだ。無意識のうちに奇襲=遠距離攻撃なんて思い込んでいたのが原因だ。
なので今回は遠近両方で発動するように意識して設定した。ただし魔石の質が悪いため、完全に防ぐことは出来ないことは伝えてある。勢いを弱めてダメージを抑える程度にしかならないと。
ただこれに頼りきるのは危険だから、しっかり注意して立ち回るように伝えた。
他にも一応役に立ちそうな魔道具を作成した。そのため魔石が足りなくなったんだけど、これは必要だと思ったから優先した。
「それじゃ十日間ぐらいの予定でダンジョンに行ってくる。後は頼んだ」
エルザは頑張ってと拳を握りしめていた。アルトはまだ良く分かってないのか、手を振っていた。タリヤは行ってらっしゃいませと、いつもと変わらなかった。
朝早くからダンジョンに行くと、既に準備を終えた冒険者、探索者が多くいた。大きな荷物を持つ者もいれば、軽装で行くような者もいる。だいたい一〇人から二〇人ぐらいのパーティーか? 同じような装備で統一している集団もいる。
俺に続いて、ヒカリ、セラ、ミアと、職員の持つ宝玉にカードで触れる。
「四人のパーティーですね。パーティー名は……なしですか」
「決めないといけないのか?」
「あるとこちらも覚えやすいので助かりますが、絶対ではありません」
今度相談するか? ルリカたちと合流して、どうするかを決めてからでもいいか。もしかしたらセラとは、それで別れるかもしれないしな。
セラを先頭に、俺たちはダンジョンへと足を踏み入れる。入口をくぐった瞬間、何かの境界を越えたような、不思議な感覚を覚えた。
目の前は一転、怪しげな雰囲気な通路が真っ直ぐ伸びていた。
それは地獄への入り口か。それとも宝の眠る宝物庫か。不安を覚えると同時に、
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