第119話 マジョリカ・5

「それでは鍵がこちらになります。期間はいかがいたしますか?」

「ひとまず二十日で頼む。あと、もし期日に支払いに来れない場合は、ひとまず自動更新で二十日延長で頼む。カードでも大丈夫か?」

「はい、問題ありません。ですが更新に来られない理由があるのですか?」

「もしかしたらダンジョンに潜ってるかもだからな、まだどうなるかは未定だが」

「分かりました。それではそのように契約を組ませていただきます。ただし百日以内に一度は必ず顔を出して下さい。本人が無理な場合は代理の者でも構いません。その場合は委任状など、代理と分かるものも持たせて下さい。その手続きがない場合は強制的に解約となります」


 四部屋付きの借家を借りることにした。二十日で金貨一枚か。俺たちだけなら宿で泊る方が安い計算だが仕方ない。


「それじゃ行くぞ」


 声を掛けると幼子に驚かれた。今はミアの陰に隠れてこっちを伺っている。少女の方は困った顔のまま、素直に付いて来る。

 ひとまず借家でやることは掃除。の前にお風呂だな。俺はヒカリとセラに服を買いに行ってもらい、ミアには二人をお風呂に入れて貰った。その前にお風呂を掃除してしっかり沸かしましたよ、俺が。ミアは慣れた手付きで子供たちの服を脱がしていく。見てたら怒られました。

 俺はその間出来ることをする。台所回りの確認と部屋の掃除。家具は備え付きのものもあるけど、足りないものもある。ベッドが足りない。これは元々分かっていたから明日買いに行けばいい。

 掃除をしているとヒカリたちが戻って来たから風呂場の位置を伝える。

 戻ってきたヒカリは慣れた手付きで掃除をしている。体が覚えているみたいで、自分で不思議がっている。

 お風呂から出て来た二人は見違えっていた。ぼさぼさだった髪の毛は整えられ、顔も綺麗になっている。服はちょっとサイズが合ってないが仕方ない。


「俺はソラと言う。こちらがヒカリ、そしてセラだ」


 ミアのことは大丈夫だろう。大丈夫だよね?

 俺は膝を付き、目線を合わせて自己紹介する。子供と話す時はその方がいいと、聞いたことがあるような、ないような。仮面があるから目線が合うことはないんだが……。


「あ、あの、私はエルザ。この子はアルト」

「二人は姉弟なのか?」

「ううん、違う。違います。けど、昔から良く一緒にいたから……」

「そうか。話はミアから聞いたか?」

「はい、聞きました」

「最初から全て出来るとは思っていない。ミアも出来ないしな」


 エルザは顔を上げてミアを見た。ミアは恥ずかしいのか顔を背けた。これから一緒に生活するんだから、すぐに化けの皮ははがれると思いますよ?


「だからゆっくり覚えていけばいい。アルトもまだ小さい、エルザよりもやれることは少ないかもしれない。出来なくても怒りはしないが、やれないからと諦めて欲しくはない。頑張れるか?」


 アルトは俺の目を見て、正確には仮面だが、しっかり頷いた。

 あとで聞いたら二人の年齢は、八歳と五歳だと聞いた。年齢にしては小さくないかと思ったけど、ミアからも平均よりも小さいと思うと言われた。栄養がしっかり取れてなかったのが原因だろう。実際服から伸びた手と足は細い。強く触ると折れてしまいそうだった。

 ミアに指示を出して、二人に部屋の掃除を頼んだ。掃き掃除と拭き掃除を頼む。セラにも残りの部屋を頼んだ。俺は風呂の水を抜き、入れ直す。魔法でですけどね。沸かすのは入る前でいいのでひとまずそのままにする。

 借家には小さな庭がついているが、長いこと放置されているのか、その前に借りていた人が気にしない性質たちだったのか、雑草が伸び放題だ。これは明日の仕事に残しておくことにするか。一日で終わる量でもなさそうだし。

 掃除がある程度終わったら休憩して買い物。借家で使う用の鍋やお皿、フォークが必要だと気付いたからだ。ついで布団類と予備の服も必要だな。掃除をしたら結構汚れたから。

 ひとまず今は浄化魔法できれいにした。

 買い物を終えて戻ってくると、家の前には見知った顔が。


「ソラ、何処に行ってたんですの! 探すのに苦労しましたわ」

「お姉様、お静かに。ご近所迷惑になります」


 騒がしいレイラに冷静なケーシーといった感じか。


「良くここが分かったな」

「宿に行ったら引き払ったと聞きましたわ。それで借家のことを思い出して、商業ギルドに行ってここを教えて貰いましたの」


 良く教えて貰えたな。そういうのは気軽に教えていい情報なのか?


「立ち話もなんだ。とりあえず中に入るか」


 俺は二人を誘って家の中に入る。荷物の整理はミアたちに任せる。


「あ、あの。あの二人は誰ですの?」


 気になっていたのか、座るなり聞いてきた。

 俺は二人がこの家に来た経緯を説明する。正確にはあの二人がいたから、この家を借りたとも言うのだが。


「そうですの。ミアは何処へ行ってもミアですわね」


 何処か優し気な視線でエルザとアルトを見ている。しかしすぐに姿勢を正し聞いてきた。


「ソラはダンジョンに挑戦するって話してましたわね。その間、あの二人はどうするのですの? 今まで二人で生活していたとはいえ、心配ではありませんの」


 それはレイラの言う通りなんだよな。ミアに頼めば残ると言うと思うけど、ダンジョンで経験を積んで貰いたい。自衛できるだけの力とか、魔法の扱い方とか、色々と覚えて貰いたいことが多い。何よりレベルを上げて貰いたい。

 本人もその気の用ではあるようだし。


「私、面倒を見られる方に心当たりがありますわ。良かったら頼みますわよ?」


 ここは素直に頼んでおくか。自分で探すにしても伝手がないから商業ギルドに相談することになるだろうし。見ず知らずの人に頼むよりは、レイラの知り合いの方が信用できる。


「分かった。お願いするよ。それで、給金はいくらぐらいかも聞いておいてくれると助かるんだが」

「水臭いですわ。私とソラの仲ではありませんの。命を助けて貰った恩があるのでいりませんわ」


 助けた覚えはないんだが?

 払うと言ったら拒否された。ケーシーに助けを求めたら、諦めて下さいと言われた。それほど大それたことをしたとは思えないけど、それでレイラが満足するならと、今回は任せることにした。何故か頑ななレイラに、抵抗しても無駄だと思ったからだ。

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