第116話 守護の剣
資料室を出ると、ギルド内は喧噪に包まれていた。
「主様、あれは」
音の発生源を見ると、見知った者がいた。会いたい相手ではないけど。
サイテで会った光剣の四人組が騒ぎを起こしている。
声高に叫んでいるのは、運搬員の勧誘? その態度は高圧的で頼んでいるというよりも、命令していると言った感じだ。絡まれている者も反論しているが、会話が嚙み合っていない。一方的に自分たちがいかに優れているかを述べ、従うのが当たり前といった感じで話をしている。
周囲で見守る者たちも良い顔はしてないけど、率先して止めようとはしない。関わりたくないといった感じだ。
「断る理由が分からないな? むしろ感謝するがいい。俺たちと一緒に行けるんだ。ダンジョン踏破の栄光を味わえるんだ」
「まったくだ。ただ荷物を運ぶだけでそのおこぼれにあずかれるんだ。楽な仕事だろ?」
言いたい放題だな。ギルドの職員は止めないのだろうか? それともここでは、こんな光景が日常茶飯事なのだろうか?
「君たちは、この街は初めてかな?」
その時ギルドの入り口から、ゆっくりと近付く者がいた。白一色の装備に身を包み、その胸元には剣と盾のエンブレムが付いている。
「何だお前は。俺たちはこいつに話してるんだよ」
話を遮られたのが気に入らないのか、新たな
「ここには一応決まりがあってね。仲間を募りたいならギルドに頼むがいい。そうすればそこの募集掲示板に載せてくれるよ」
「そんなの分かってるんだよ。だが俺たちには関係ないだろ? そんなルールなんてよ。なあ」
仲間に同意を求めてるな。周囲の者たちは呆れた目で見ているんだが。
「それとも何か。兄ちゃんがそいつに変わって荷物持ちをしてくれるのか?」
「ん~、生憎と僕は既に所属先が決まっていてね。その申し出には応えられないな」
「ハン、弱そうな兄ちゃんを雇うぐらいだ。大したことないだろうな」
その一言に場の空気が変わった、ような気がする。
馬鹿笑いする光剣の面々は気付いていないが、周囲で見守る者たちが一斉に息を呑んだ。
「ん? 何だ? 文句があるのか?」
馬鹿にした男が近付いたその時、手が伸びて頭を掴む。
男の悲鳴が室内に響いた。
それは一瞬の出来事、間合い入ったと思った瞬間には男の頭が鷲掴みされていた。男は拘束から逃げるように男の腕を掴むがビクともしない。仲間たちも助けようと動き出したが、一歩踏み出した時に一睨みされて動きを止めた。
「僕のことを悪く言うのはいい。だが、仲間を侮辱することは許さない」
男が必死の抵抗で藻掻くがそれを許さない。男の顔が真っ赤になり、真っ白になり、真っ青になり徐々に動きが弱くなっていく。
「アッシュ、何をしている?」
「隊長!」
手の中でぐったりしていた男が放り投げられた。
声のした方を見ると、同じようなエンブレムを付けた中年の男が立っていた。
「アッシュ、何をしている?」
もう一度同じ問が掛けられた。
「すいません……」
頭を下げて謝罪だけをしている。言い訳は一言として言わない。
「まあいい、お前たちはここが初めてか?」
問い掛けられた三人が頷く。今度は素直に。
アッシュが放った威圧感とは比べ物にならないほどの濃密な殺気。それが一瞬だけ放たれたな。それを感じ入るだけの技量は持っていたということか。
「ルールが守れないならここを去れ。一度は許す。二度目はない」
それだけ言って、ギルドの受付に声を掛けると、奥の部屋に消えていった。アッシュもその後に続いた。
それとは逆に、光剣は倒れた一人を回収して逃げるようにギルドを去って行った。
それを咎める者も、気に留める者も最早いなかった。
「なあ、今のは誰だ?」
近くにいた一人に尋ねた。
「何だ兄ちゃん。見ない顔だし、ここは初めてか?」
「ああ、昨日この街に来たところだ」
「なるほどな。あれはマジョリカ最大のクラン、守護の剣だ」
「クラン?」
「なんだそれも知らないのか」
「ああ、前いた国では聞いたことがなかったからな」
「外国から来たのか。国によっちゃあるとこと、ないとこがあるらしいしな。クランは簡単に言えばパーティーの拡大版だな。同じような志を持った者たちや、目的を持った者が集まって結成されている集団だ」
ここでも外国なんて言葉使うんだな。とか、関係ないことに感心してしまった。
「で、今のが守護の剣の一応ナンバーワンと、ツーだ。しかし、二人揃ってギルドのお偉いさんに呼ばれたってことは、また何かあるのかもしれないな」
不穏なことを言ってるな。俺は礼を言うと、三人を連れてギルドを出た。
お昼は屋台の匂いで目が覚めたヒカリの要望を聞いて、屋台で食べることにした。ダンジョンで珍しい魔物が出るからなのか、食べたことのないものもあったな。これって魚か? スープの白い果肉を食べた食感が白身の魚に似ている。また一つダンジョンに潜る理由が出来たか?
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