第113話 再会・2
待ち合わせをすると、結構ずれたりする。時計とかないから仕方ないんだが。
朝食を食べ終えて、休む暇もなく宿を後にする。俺たち以外にも同じように宿を後にする者は多い。
露店の準備を始めている通りをゆっくり進む。朝の慌ただしい時間は特に忙しいようで、怒号が聞こえたりもする。
門を出て邪魔にならないところで固まって待つ。周囲を見渡したけど、まだレイラたちは来てないようだ。何処に泊っているか分からないけど、朝食が同じ時間だとすれば、歩いてここまで来るなら時間がかかるだろうしな。比較的西門に近い宿に泊まっていたから。
「主様、来たようだよ」
朝が早いとはいえ、交通量は多い。商隊も待っている間に五組ほど出て行った。
俺を見た一行は、少し複雑そうな表情を浮かべていた。レイラは割り切った感じだったが、喧嘩別れしたわけではないけど、ミアのことで気まずさがあるんだろう。
「さあ、ここにいると邪魔になりますわ。文句は歩きながら言えばいいですわ」
文句を言う前提は困るんだがな。苦笑して歩き出す。
ミアは恥ずかしいのか、顔を合わせ辛いのかフードを深く被っている。
「それじゃ出発するぞ」
何故か俺の号令で歩き出す一行。
しばらく無言が続く。近くを馬車が通り過ぎているから、流石に誰も口を開かない。重苦しいような空気だ。ミアはフード越しでも分かるほどオロオロしてる。ヒカリとセラは通常運転だ。
周りの景色は麦畑が広がっていて長閑なんだけどな。仕方ないか。ミアの精神衛生上これ以上引き延ばすと悪くなりそうだし、種明かしをするか。
小休憩を提案し、六人と向き合う。
「久しぶり、だな」
ぎこちない頷きだ。
「スタンピードはもういいのか?」
「被害らしい被害は冒険者以外にはありませんわ。聖都の近くまで押し寄せられましたが、防衛してるうちに勢いがなくなり自然消滅した感じでしたの」
暴走が収まったということか?
教会と、ギルドの発表では、元々魔人に操られていたため、魔人が去ったためにその命令が解除されて収まったのではないかという見解らしい。本来なら一度スタンピードが始まったら、それこそ全てがなくなるまで収まることがないのが普通らしい。
「なので結局あれから六日で鎮静化されましたの。一応念のため数日様子を見てきましたが、特に魔物の動きはありませんでしたわ。ただ、被害らしい被害が出なかったから別の問題が起こりましたの」
「そうです師匠。スタンピードが大したことないと知った信者や一般の人たちが、ミアを殺したことに不満をぶつけ始めたんですよ」
「もしかしたら魔人は、そこまで考えてスタンピードの規模をコントロールしたのかもですわ。不満を教会に向けさせるために」
「なるほどな」
同意はするけど、それは飛躍しすぎだと思う。たまたまじゃないのか?
「それにしてもここまで来るのが早かったな」
「色々あってソラが街を出てから十日後ぐらいには出発しましたわ。ただ馬車をヨルちゃんのお父様が用意してくれて、かなり速度の出る奴でしたの。国境都市まででしたが、かなりの時間短縮されましたわ」
疲れましたけど、と言った。
「そっか。まあ皆が無事で安心したよ。それじゃこっちの話だが……サイレンス」
イメージとして周囲を一つの部屋として想像し、囲うようにサイレンスをかける。こちらの音が外には漏れないが、外からの音は聞こえるように調整する。何気に近頃出番のある魔法で、使い方が上手くなったような気がする。
一応街道から少し離れているけど、時々荷馬車が通り過ぎていくから念のため。
「これ以上放っておくとミアが大変なことになりそうだからな」
俺の言葉に、レイラたち六人が変な顔をした。何言ってるんだこいつ、みたいな目で見て来てますね皆さん。
「順を追って話すほどでもないんだが、ミアは死んでないよ。ここにいるし」
振り返り背中を押してやる。
「お久しぶりです、皆さん」
ミアが恥ずかしそうに、困ったようにフードを脱いで挨拶する。ちなみに昨夜、ミアは死んでると思われてるとは伝えておいた。
「え、え、ミア様!」
トリーシャが一番驚いているな。他の五人は反応出来ずに、ポカンとミアを見ているだけだ。
「ど、どういうことですの!?」
流石は年の功。レイラも早々に復帰して詰め寄ってくる。胸倉を掴むのは止めて欲しいです。あと顔が近いです。
ミアが間に入って引き剥がしてくれた。おお、ありがとう。けど振り返った顔は目が笑ってませんね。はい、しっかり説明させて貰います。
「順を追って説明するよ。まず魔人の狙い、は後で分かったことだけど、ミアが命を狙われているというのはダンのおっさんと合流した時に聞いた。それで身代わりを仕立てて、ミアを死んだことにしようと思って実行した」
「ならミアさんとして死んだのは誰ですの?」
「ミアの命を狙った殺し屋だな。たぶん」
鑑定したら暗殺者ってなってたからな。悪いことをしてたんだろう。
「そうです。師匠、お父さんもミア様と認識してました。どうやって誤認させたのですか?」
「錬金術で変装させたとしか言いようがないな。一応大多数にミアと誤認させて、あとはバレないように焼失させたんだよ。死体を調べられたら分かってしまうからな」
「なら、そう説明してくだされば良かったのですわ」
「ダンのおっさんに説明するのもそうだが、これは知ってる人間が少ない方がいいからな。少なくとも、生きていると知られればまたミアが狙われる可能性があるだろ?それにダンのおっさんは何だかんだと人が良いだろ? 今教会がどうなってるか分からないが、見兼ねてポロっと言うことだってありえそうだから」
その言葉に皆が押し黙る。
聖都で起こった出来事を、詳しく聞き及んでいたんだろう。
「あと、今は一応俺の奴隷になってるが、これは色々あったからだ。そう、色々と。聖都から脱出する手段として一番良かったと思ったんだがな……」
まさか奴隷契約にあんな落とし穴があったなんて。俺に不利益があるわけではないんだが。
「だから、ま。ミアは無事だが、聖女であることは他言無用だ。レイラたちに話したのは、しばらくマジョリカに滞在するつもりだからってのもある」
主にヨルを見て強めに言う。
「分かりました師匠。お父様にも話しません」
話したあとのことを想像したのか、神妙に頷いてくれた。信じているからな?
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