第111話 ロキア

 予定から二日遅らせてサイテを出発した。理由は光剣と会いたくなかったから。セラも急ぎたい気持ちを我慢してくれた。

 その間もう一度ウルフ討伐の依頼を受け、あとは基本的に町での買い食いと、魔力の練習。ギルドの訓練場を借りての模擬戦を行った。模擬戦は主にミアの訓練のために行った。これから先も一緒に旅をし、ダンジョンにも潜るかもしれない以上、最低限の身を守る術は必要だと思ったからだ。

 そのミアは、今ぐったりしている。信者が見たら卒倒しそうな姿だ。注意するのは可愛そうなので、そのままにしている。筋肉痛で苦しんでいるからな。

 ただ歩き始めたら俺は心を鬼にする。

 ゆっくり休むのは夜だけにしてないと、流石に先に進めなくなるから。


「主、次はどんな町?」

「ロキアは農業の町みたいだな」

「農業? お野菜?」

「概ね間違いではないかな。ロキアの北側が穀倉地帯になってるみたいで、魔導国内の六割の食料をそこで作ってるらしい。穀倉地帯の中に村が点在してるって話だ」

「町の中に村があるの?」

「俺も詳しくは分からないんだがな。管理する土地が広すぎて、区画ごとに分けているとか言ってたかな? それで収穫された穀物、野菜がロキアに集まる感じで、ひとくくりに農業の町って言われてるみたいだ。北にある山から大きな川が流れてて、西側に直接食料を運べないらしい」


 橋でも架ければ良さそうだけど、川の規模とこの世界の技術力が不明だしな。魔法があるとはいえ、なかなか土木関係で魔法を使う人も少なそうだし。

 サイテを出発して二日目。右手に大きな木の柵が見えてきた。森と一キロほどの距離をとって、建てられている。見張り用の小屋らしきものもある。

 目につくのは麦か? それっぽいものが一面に見える。鑑定するとムギ科で名前が小麦か。イネ科ではないんだな。とか、どうでも良いことを思った。


「主、あれ食べれる?」

「そのままでは無理だな。加工すればパンとかになるんじゃないかな?」

「ふっくらしたパンが食べたい」

「白パンのことを言ってるのか?」

「うん、そう。黒いのは硬い」

「けどスープに付けて食べると軟らかくなるだろ?」

「なるけど、そんなに美味しくない」

 

 確かにあれは味を付けるというよりも、軟らかくするためにスープに浸すって感じだしな。もっと味の濃いスープとかを開発しないと駄目か。ちょっと野菜を購入して色々煮込んでみるか。産地が近いなら他と比べても安いはずだし。

 そんなことを考えながら長閑な風景を眺める。遠くで農作業をしている人の姿が見える。この世界の季節が未だ良く分からないな。

 この前聞いたら一年という周期があるそうで、一年は四百日とか言ってた。住んでいる場所で違いがあるけど、温かい周期もあれば、寒い周期もあるそうだ。

 時間の概念はあまりないらしく正確には分からないと、ミアたちは言っていた。

 基本日が昇ったら起きて、日が落ちたら寝るという生活らしいからな。ただ魔導国には時間を測定する魔道具があるという話だし、もしかしたら分かるかもしれない。

 ちなみに俺は体感で何分、何時間と感覚で話しているので正確性に欠けるな。あ、今度時計を錬金術で作れるか調べればいいのか? けど他の人が気にしてなければ、俺だけ分かっても意味ないんだよな……。


「主、また難しいこと考えてる」


 ヒカリが自分の眉間を指して主張してくる。


「悪い悪い、美味しい料理のレシピを考えてたんだ」

「主の世界の?」

「ああ、材料がこの世界にあるとは限らないから同じものは無理だけどな」

「頑張って開発する」


 食に貪欲なんだよな。けど、近頃ミアとセラも同じような感じになってる。

 疲労困憊で顔を下に向けていたミアがピクリと反応し、セラの尻尾もちょっと波打ってる。

 やっぱこういうのんびりした時間がいいよな。本当なら安全に過ごして、可愛いお嫁さんを探して、穏やかな余生を過ごせればいいんだけど。最低でもあとエリスを探さないとだし、あとは快適な生活をするための道具を作るために魔石もいるし、なかなか希望通りにはいかないな。

 ロキアに到着したのはそれから二日後だった。

 ここはフリーレン聖王国とルフレ竜王国と接している国境都市の合流地点になるため、町というよりも規模としては小さな街といった感じか?

 町の東西南北に大きな倉庫がいくつもある。あそこに一度収穫物を集めているのかもしれないな。

 門番にカードを出して町に入る時に、人が多く集まるから揉め事をあまり起こさないようにと注意された。誰も好き好んで揉め事を起こそうとは思わないけど、トラブルは勝手にやってくるからな。

 美味しい料理の出る宿を教えて貰って、宿の予約をする。ひとまず三日間だ。


「主、お店見に行こう」


 日がまだ高いし、近くを回る分にはいいか。ミアは動くのが辛そうだったから、セラが一緒に留守番をしてくれることになった。何故まだミアが辛そうなのか? 毎日模擬戦は欠かさなかったからです。努力の人だけど、無理はさせないようにしないとな。けどなかなか頑固なんだよな。


「ヒカリ、ちょっと商業ギルドに先に寄りたいがいいか?」


 手を取り商業ギルドに向かう。手を離して歩くとキョロキョロして逸れる可能性があるからな。MAPと気配察知があるからすぐ見付けることは可能だが。

 ギルドでお金を引き出す。手持ちの現金が少なくなってきたから。カードで支払えるお店もそれなりにあるけど、やっぱり現金対応のお店が圧倒的に多い。普段利用する安めの宿は現金払いだし。


「一つ聞きたいんだが、ポーションの買取価格は、この町で売るよりもマジョリカで売る方が高くなるか?」

「そうですね。品質の高いものに関しては変わらないと思います。低いものだとこちらの方が少し高くなります」

「それは何でだ?」

「マジョリカには魔法学園があるので、そこの学生さんが作るポーションが定期的に多く納品されるので安くなる傾向にあります」


 ダンジョンで使用する以上に供給が多いということかな?


「逆にここは国に入る人と出る人が多く訪れるので、それなりにここもポーションの需要があるんです」


 納得だな。


「ならこのポーションはいくらで買い取ってくれる?」


 三種のポーションを出して渡す。


「少しお待ちください……これは良質のポーションですね。出来れば定期的に卸して貰いたいぐらいです」

「見ての通りの旅の商人だからな。これも旅の途中で入手したものだから」

「そうですか。残念です。買取価格ですが、回復ポーション銀貨一〇枚、マナポーション金貨一枚、スタミナポーション銀貨一五枚になります」


 やっぱ場所によって価格は違うな。


「どうしました?」

「聖王国内で売った時と価格が違うものだから、やっぱ場所によっては違うんだな、と思って」

「そうでしたか。それではどうしますか?」

「各五〇本ずつあるがどうだ?」

「大丈夫です。一応確認させて貰ってもいいですか?」


 残りのポーションを渡すと、奥から人を呼んで確認している。


「問題ありません。では料金はカードに入金で構いませんか?」

「半分は現金で頼む。金貨と銀貨、銅貨を三等分にして」


 俺はカードを差し出した。

 ギルドを脱退させられても、カードに預けたお金の保証はされるらしいから半分はカードに預ける。

 ただ半分は現金で受け取り、アイテム袋経由でアイテムボックスに収納。何があってもいいように、分けておくのは必要だと思う。

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