第109話 国境都市サイテ・2
サイテの特徴として、宿が多い。旅の人が寄って、そのまま次の国へ向かうための中継地点としての役割を担っているからだろう。
だからだろうか? サイテに常駐している冒険者は少ない。そのため建物も他の町に比べると一回り小さい。
「小さい割には、依頼はそこそこあるんだな」
採取系は薬草というよりも、木の実などの食べ物系が多い。討伐は魔物の他に、普通に獣の駆除依頼もある。全て食料に直結しているようだ。農作業の手伝いなんてものもあるな。跡継ぎ募集とか、それはちょと違わないか? 嫁募集もあるし……。
「色々な依頼があるのね」
ミアさん。それ一般的な冒険者の依頼じゃないからね。たぶん……。
「主様、伝言を頼んできたよ。あと、森にウルフが出るそうなんだ。良かったらどうだって頼まれた」
「場所は分かってるのか?」
「比較的町に近いみたいで、十分日帰りできるみたいだよ」
「俺も薬草を探しながら行ってみるかな。ヒカリとミアは町でグルメ巡りでもするか?」
「私付いていきたい。足手まといになるかもだけど……」
最初の勢いがなくなって、最後は弱気になって小声だな。
ヒカリはミアを見て何度も頷いているな。
「なら皆で行ってみるか。森の中を歩くのもいい経験になるしな」
「うん、主は森歩き大好きだし」
まあ好きですよ。
「何だ外に出るのか?」
門番にギルドカードを提示する。森を散策しながらウルフを探すと言ったら驚かれたけど、セラの持つ武器を見て納得していた。両刃の斧って、威圧感半端ないしな。きっと凄腕の護衛と映ったに違いない。
「う~、歩きにくいです」
「木の根元は特に歩きにくいかな。根に引っかからないように注意するようにな」
ミアはおっかなびっくり歩いているな。下ばかり見てるから、他への注意が散漫になっている。ヒカリが上手く手を引っ張って、伸びた枝で頭を打ちつけないように回避している。こればかりは慣れるまで仕方ないか。俺も最初は良く転びそうになったしな。
俺はミアのことはひとまずヒカリに任せてMAPを使って索敵。魔物や動物は範囲内なら離れていても捉えることが出来るけど、薬草類は近付かないとヒットしないのが難点だな。だから毎回ギルドで詳しい位置を聞くんだが。
「ウルフの気配を感じたよ」
セラは短剣を抜き、周囲を警戒する。斧はどうしたって? 森の中で振り回すには邪魔だから俺が預かっている。
ミアが息を呑むのが分かった。ヒカリも短剣を抜き、ミアを守るように身構えた。
俺も愛用の剣を取り出して、いつでも対応出来るようにする。気配察知があるから不意をうたれることはないと思うが一応。ミアはスタッフを握りしめ、ガチガチになってるな。
セラを先頭に、ヒカリ、ミア、俺の順で慎重に森の中を歩く。本当ならセラもヒカリももっと早く歩けるんだろうけど、ミアのために速度を落としているみたいだ。
五分後、ウルフ四匹と遭遇。基本セラが処理をした、というか出番なんてなかった。最初の一匹は攻撃を待ってからの反撃。その鮮やかさに俺たちだけでなく、ウルフも一瞬動きを止めた。その隙を付くように近付き、全てのウルフを首元を斬りつける一撃で終わらせた。
そして今は木に吊るして血抜きをしている最中だ。ミアは木の根元でうずくまっている。声を掛けたが弱々しい反応が返ってきただけだ。
失敗したな。討伐系よりも採取系の依頼にすれば良かった。セラに声を掛けて薬草を探しに行くことを伝える。一時間以内に見つからなければ引き返せばいいしな。
俺はMAPで木のない開けた場所を探す。木が密集している場所は日の光が射しこまないから除外する。いくつかの場所を回り、薬草を採取する。生え放題だったな。薬草、あまり採りに来る人がいなさそうだ。遠慮なく採れるのは嬉しいが。
採取して戻ってきたら解体をしていた。ミアが二人に教えて貰いながら。危ない、あ~、見ててドキドキ、ハラハラさせられる。だ、大丈夫か? 手付きが怪しいぞ。
俺は近付き、その作業を黙って見る。凄い集中力だ。皮を剝ぎ終わると、今度は部位毎に肉を切り分けている。そんなに固い肉ではないが、慣れてないと力を使うからな。額には大粒の汗が浮かんでいる。
それから三十分ほどでウルフの解体は終了した。
「お疲れ様。解体をした感想は?」
声を掛けたら驚かれた。
「大変でした。冒険者は皆これをやってるの?」
「解体料を払えばギルドでもやってくれるよ。だからお金のない新人は自分でやる感じかな? ただ下手な解体だと値段が下がるから、そこは個人の判断だな」
「そっか。今度また解体してもいい?」
「いいよ。三体を納品して、一体は残しておこう。お肉はいくらあっても困らないからな」
ヒカリが大きく頷いている。
「せっかくだし、その肉を使ってお昼にしよう」
調理場は既に作成済み。野菜もカットしてあるから、あとは鍋に投入して煮込むだけ。スープは魔法で大豆を発酵させて味噌っぽいものを作ったのでそれを投入。味がだいぶ味噌汁に近付いてきた。だけどこの世界に来て米をまだ見たことないんだよな。麺はあるからいっそ味噌ラーメンを目指すか? けどこのままだと麺に負けるから味のアクセントを強くしないとか。
「美味しい……」
苦労して解体した肉というのもあってか、ミアが美味しそうにスープを食べていた。思わず出た言葉が、それを物語っていた。
その横顔を見ながら、この少女の強さには改めて驚かされた。
最初は死体を見て顔色を悪くしていたのに、しばらくしたらそれに向き合い解体をしていた。これが無理をしての行動でなければいいのだが。
しばらくは注意しておいた方が良いのかもしれない。
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