エーファ魔導国家編

第108話 国境都市サイテ・1

 テンス村から出発したのは、三人と再会してから三日後だった。歓迎を受けて色々話を聞かれたからだ。あとは聖都から歩いて来たと言ったら、かなり体を心配されたのもある。

 テンス村から隣のロイエまでは、予定より一日遅れて到着した。

 馬車ならもう少し早く到着出来たけど、仕方がない。

 一度ミアが辛くても我慢したため、マメを潰してしまい速度が遅くなったのが原因の一つだ。回復魔法で治療は出来たあとはペースが戻ったが。

 物凄く謝ってきたけど、無理をしないようにと声を掛けるのに留まった。

 ヒカリが我慢して歩いて、以前迷惑を掛けたことを話して聞かせているからだ。俺が口を出すよりも説得力がある。

 気を付けているつもりだったけど、ミアの体力と歩いた経験が予想以上になかったことが分かっただけでも良いとするか。

 セラには悪いが、慣れるまではこのペースで歩いて行くしかない。

 町で一泊して、西側の街道に出て国境都市サイテを目指す。食料の調達も忘れない。

 街道には他の人がいないからかのんびり出来る。警戒はMAPを使ってしているから万全。少なくともMAP内には魔物はいない。


「あっちで悪い冒険者たちがウルフに懲らしめられていた」


 ヒカリが指差す方向は、確かウルフに夜襲された商人と冒険者一行がいたあたりか。

 それを興味深そうにミアが聞いている。

 暇だからお喋りをするのは仕方ないのかもしれない。

 右手の遠くに森が見えているけど、まだ距離はある。

 順調に歩いても今のペースだと十日前後かかるという話だったし。時間的には午前中に三時間、お昼を挟んで午後は二時間から三時間といったところか。

 起伏がないから負担は少ないと思うけど、それでも代わり映えしない景色を眺めながらだと、本当に先に進んでいるのか不安になってくるんだよな。

 夜は少し街道から離れた場所で野営の準備をする。

 見張りは二人ずつ組んで交代で行った。見張りをする時だけは、もう少し人が欲しいなと思ってしまう。並列思考を駆使して見張れば寝ながらでも可能かもだけど、自分だけズルをするのも抵抗を覚える。

 ただでさえ歩くのも楽をしているようなものなのに。

 夕食後少しまったりした時間を過ごしている時に、少し他愛もない話をしたあとに、ここ数日で感じたことを口にした。


「なあ、一緒に旅をしてから思ってたんだが、何か焦ってないか?」


 合流した後、ミアは献身的に色々手伝いをしてくれる。最初物珍しくて興味を持ったからなのかと思ったが違う。真剣に取り組んでいるというよりも、必死に覚えようとしているように見えた。


「……何も出来ないから。だから出来るようになりたくて……」

「別にそんなことないだろう?」

「村でお手伝いしても上手く出来なかった。旅の途中も、料理とかしようとして失敗ばかり。だから……」


 悔しそうに口を結んでいる。

 確かに村娘だったから、もう少し日常のことが出来るかと思っていたが、聖女としての生活が長くて、色々と忘れてしまったようだ。


「主、ミア姉は主のために頑張ってる」


 ミアを見ると、困ったような恥ずかしいような表情を浮かべている。

 ヒカリは表現がある意味ストレートだからな。言葉足らずとも言うが。


「別に無理しなくていい。なんて言えば無理してないってミアは言いそうだけどな。最初から何でも出来る奴なんていないんだ。少しずつ思い出したり、覚えていけばいい」

「けどソラは何でも出来るし、料理とか魔法とか」

「魔法はスキルのお陰だしな。料理は……向こうの世界にいた時からやっていたから、経験の差だよ。ミアだって練習していけば出来るようになるさ」


 頭を撫でてやる。瞳と髪の毛の色はロイエを出た後で元に戻してある。髪の毛の長さは……育毛剤のような促進剤でも開発したら戻るなんてことはあるのか?

 作れるようなら、もしかしたら売れるかもしれないな。作り方が分からないけど。


「ソラ、また変なことを考えてませんか?」


 そんなことはありませんよ。


「話はその辺で今日は休もう。明日はサイテに到着出来ると思うし」


 話を切り上げて見張り組と寝る組みに別れる。

 今日の当番はヒカリとか。ヒカリは異世界の料理に興味があるようで、警戒しながら良く異世界の料理に付いて聞いてくる。

 俺もそれほど詳しくないんだよな。記憶とテレビとネットの情報を頼りに、話して聞かせているけど、再現するのは……料理のスキル次第なのかな?



「主様、もうそろそろサイテに到着するよ」


 見張りでの会話があって、料理のことを考えていたら、いつの間にかサイテの町が大きく見えていた。考え事をしながら歩けるのは、並列思考の使い方に慣れてきたからなのだろうか?

 国境都市サイテ。国境都市の名の付く町は他にもいくつも存在し、中立の町として存在している。主に隣り合った国と国が良好だと構築される傾向がある。ないと一方の国が検問所のような砦を建てて、人の出入りを管理している。

 門番でいつもよりも少し厳しめのチェック。といっても主に俺だけが受けて、問題なく追加した。


「奴隷だとそんなチェックされないんだな」

「一々チェックしたら、奴隷商は大変だから。それに奴隷は、ある意味その理由が何であれ、身元がはっきりしているから。ただ重度の犯罪奴隷を多く扱っている奴隷商の入場は厳しいって話だよ」


 奴隷になるにも理由があるしな。犯罪を犯したとか、借金したとか。特殊奴隷はちょっと例外と言えるかもしれないが。


「主様どうする? 食料もあるしそのまま次の町まで行くかい?」

「情報収集もしたいし、ゆっくり今日は宿で休もう」

「それが良い。美味しいご当地料理を探す」


 ご当地料理という言葉は俺が教えました。口にしてたら、ヒカリが勝手に気に入って使ってるとも言うが。もちろん意味は教えましたよ。

 明日は冒険者ギルドに行って伝言と依頼を確認しようと思う。近くに森もあるし、日帰りで薬草採取が出来るようなら行ってみたい。なければ討伐依頼でもして、セラの三十日に一度の依頼を消化しておきたい。

 夜は宿の食堂で頂いた。奴隷だからか、可愛いからなのか目立ったが、気にしたら駄目だ。というか、同様の視線を今まで受けてきた。慣れたね。鋼の心を手に入れたさ……なんて嘘です。慣れていません。

 むしろ彼女たちの方が肝が据わっている。特にヒカリは既に料理しか目に入ってないな。美味しそうに頬張るその姿に癒されます。

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