第107話 告白・1

 村長に挨拶に行ったら歓迎されて、宿の一室を無償で提供された。提供されたが、ベッドは三つしかないのだが? 気を遣われたのか。

 ベッドに腰を下ろす。隣にはヒカリが座り、正面のベッドにはミアとセラが座る。ミアは村の娘さんと話した時からふくれっ面だ。仕事の邪魔をしたのを怒っているのか?


「無事合流出来て良かった。旅の間は何か問題があったか?」

「……主様、特になかったよ。魔物に襲われることもなかったし、他の奴隷とも険悪にはならなかったさ」


 なら一安心か。


「それで今後のことを色々決めたいと思う。と、言っても、行き先はもう決めてる。悪いが希望があっても聞き入れられないぞ?」

「主に付いていく」

「ソラ様に従います」

「主様に決定権がある」


 ん~、堅苦しい。もっとフレンドリーでいいんだけどな。奴隷だからというのもあるが、特にミアは違和感がな。そもそも選択肢がないまま奴隷にした感じだし。


「なあミア。そのソラ様は止めないか?」

「ソラ様はソラ様。私は奴隷だから」


 思い込みが激しいのか、命を狙われたのがそれほどショックだったのか。


「俺としては前みたいに普通に話しかけてくれた方がいいんだが。そもそも奴隷にしたのは、あくまで聖都から脱出するのに良い手だと思ったからなんだからさ」

「そうかもしれません。だけど私は命を何度も救われましたから」

「別に何度も救った覚えがないんだが……」


 反論したら、ネックレスを差し出された。見覚えがあるものだ。


「私はあの時、きっと死んでいました。今があるのはソラ様のお陰です」


 宝石と見間違うほどの鮮やかな青の魔石は、ひび割れている。

 お守りとして渡したからな。何か勘付いたのかもしれない。実際、結界術を付与しておいたし。それが壊れているということは、そういうことなんだろう。

 ただしっかり作ったつもりだったけど、あの時のミアは負傷していた。スキルの時とは違って条件があるのか、それとも俺の作り方が悪かったのか、研究が必要だ。


「なら命令だ。ソラ様と、変な敬語禁止な。俺は今のミアよりも、前のミアの方が好きだったし。話しやすかったからな」

「で、でも……分かりました」


 顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 すぐには無理だが徐々に戻って欲しいものだ。

 これで問題が一つ解消された、はず!

 で、次の問題はセラか。色々と聞きたそうにしてるな。尻尾がそわそわしている。


「それで次の行き先だが、エーファ魔導国家。マギアス魔法学園のあるマジョリカの町を目指す」


 お~、ヒカリの目が光った。けど学園に通うかは未定だよ?


「何故マジョリカに向かうかだが、それはセラに関係がある。あ~、ダンジョンに行きたいというのもあったけど」


 魔石が、上質の魔石が欲しい。錬金術で快適な生活を送るために。


「そうだな。色々と聞きたいこともありそうだし」


 俺はサイレンスをかけて防音を施す。


「順を追って説明する。ただし一つだけ命令を出す。今から話すことは他言無用。誰にも話すことは許さない。俺が許可を出した場合を除いて。いいな? あと、質問は話を全部終わってから受け付ける」


 三人が頷いたのを見て話しを続ける。

 まず、俺がエレージア王国によって異世界から召喚された勇者の一人であること。ただし戦う力を持っていなかったから召喚主たちに追い出されたこと。

 冒険者となってこの世界で生きることを決めたこと。そこでルリカとクリスという二人の少女と出会い、冒険者の心得を教えて貰い、彼女たちの目的を聞いたこと。

 ヒカリと会って、魔人と会ったこと。

 レイラたちと会って、一緒にオークロードを退治したこと。

 聖都でミアとセラに会って現在に至るまでを簡潔に説明した。


「正直信じられないです。異世界人とか、はじめて聞きました」

「ボクはお婆から異世界からの迷い人が稀にいるという話は聞いたことがあったよ。けど主様がそうだったとは驚き」

「主は異世界人、それは確か」

「ヒカリちゃんも間者なんて、大変だったんですね」

「あんまり覚えてない。それに主に会えたからいい」


 ヒカリは隷属の仮面の影響か。多くの記憶を失っている感じだからな。


「それよりもルリカとクリスに会ったって本当? 元気にしてる?」


 なんか年相応というか、言葉から棘が抜けた感じか? ちょっと他人行儀だったのが解消された気がするし。突然の変貌に戸惑うな、主に俺が。


「二人とも元気だった。ルリカは元気が有り余ってる感じで、クリスがそれに振り回されてる感じかな? ただセラと、エリスを探すんだって、冒険者になって国を跨いで活動しているみたいだった。ある意味、この世界の歩き方を教えてくれた先生だな」

「そっか、そうなんだ」


 安心したように頷いた。もしかしたらセラも、離れ離れになった友人のことを心配してたのかもしれない。


「そういえば、セラはお守りは持ってないのか? あれがあればその人が生きているとか、なんとなく感じることが出来るとか言ってたが」

「……ボクはそれ、無くしちゃったから。黒い森で一度死ぬほどの重傷を負った時に。あと、たぶんそれを確認するには魔力が必要だと思う。ボクは獣人で、そもそも魔力が弱いから持ってても確認出来たか分からない。そもそもそういう使い方があるっていうのも、今初めて聞いたし」


 なるほど。手元にないなら安否が分からないか。そもそも使い方を知らないなら確認しようがない。

 ならクリスとルリカは何故知ってたんだろう? というか、セラはなくして手元にないと言うのに、何故生きていると勘違いしたのか? 分からないことだらけだな。


「ソラは、その、魔王を倒して元の世界に戻ってしまうの?」

「それはない。ああ、正確には、俺は魔王に危害を与えることが出来ない」

「どういうことです?」

「俺の心臓には制約の呪いの楔が刺さっている。魔人に会ったって話しただろ? そこで俺は生き延びるために制約を結んだ。魔王に害を為すことを禁止する、っていう内容のな」

「そんなに強い相手だったのかい?」

「手も足も出なかった。強かった」


 ヒカリもぼんやりと覚えていたのか、体を震わせている。


「ただ、話す分にはそれほど悪い奴って感じじゃなかったな。話は通じたし。ただ、目的のためなら容赦がないって感じだった」


 ミアが顔を歪める。問答無用で殺されそうになったみたいだしな。


「人と同じさ。人だって悪人もいれば善人もいる。魔人にも個性があるんだろう、きっと」

「うん、そう。そうだよね」

「ま、だから魔王と戦うことはないし、今のところ帰る方法も分からない。だからこの世界で、安心安全に快適に暮らせるのを目標にしてるわけ」


 なんか変な顔されたな。別におかしなこと言ってないよな?

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