第106話 テンス村
途中までは順調に進めた。そう、途中までは。
雨が降ったため進むことはやめて、その場に留まることにした。
魔法で雨を弾くことは可能だったが、
土魔法で小屋を作成する。大きさはだいたい六畳ぐらい。調理場に寝床、お風呂と詰めに詰めたから正直狭い。けど、物があるわけでもないので一人で生活するには困らない。
やることは主に魔法の検証と錬金術と料理だけだし。うん、暇を持て余しています。
苦労したのは空気の循環。最初そのまま料理をしたら室内が大変なことになったが、風魔法で外に逃がすことで事なきを得た。お風呂の準備もかなりスムーズに出来るようになったとだけ言っておこう。
結局三日間足止めを食い、その間に雨の中も進んだヒカリたちに追い越された。これはもう追い付けないだろうな。
雨の止んだ翌日は、まだ地面が乾ききってなかったがそのまま進んだ。森の中で日光が遮られているから、すぐには乾かないと思ったからだ。結局森を抜けるまで泥濘に足をとられながら進んだため、この二日間は一日の歩く距離を大して稼げなかった。
森を抜けたらテンス村まであと少し。近付いていくと街道も見えてくる。馬車の姿もちらほら見かける。
途中、MAPにヒカリたちを捉えることが出来たが、既に村の中にいるようだ。ドレットさんもいる?
村に到着して中に入ろうとしたら不審者を見る目をされた。見覚えのない人だから新たに派遣された人かな。軽装備で荷物らしい荷物も持たずに歩いてきたらそう思われても仕方ないのかもしれない。
門番にギルドカードを見せていると、奥の方から見知った顔が。ただ門番とやりとりをしているから我慢しているようだ。
通行許可がおりて村の中に入ると、待ってたとばかりに飛び付いてきた。
「主、心配した」
「そっか。ヒカリたちは無事着いていたようで安心したぞ。ドレットさんもまだ滞在してるようだが、どうなっている?」
「奴隷を売ってた」
首都メッサからレント方面に逃げた商隊の数は多く、レントで溢れた人たちはそのまま野営で留まる者とロイエを目指す者でさらに別れた。その数は減ったとはいえまだまだ多く、建て直し中のテンス村で迎え入れるには数が多過ぎた。
それでも補給しないと先に進むことが出来ない。少しでもいいから村で休みたい。と、ちょっとした争いに発展したが、その中でハウラ奴隷商は優遇された。文句を言う者もいたが、村長自らやってきて頭を下げたことで、他の商隊は伝手を持っていたと勝手に解釈した。真実は別にあるのだが。
そんなことがあって縁が出来、人手不足の村としては、労働として奴隷を買うかどうかの会議と交渉が行われているそうだ。買うだけの資金はあるが、奴隷を雇うことに慎重派と村の復興を急ぎたい復興推進派で議論が繰り広げられているとのことだ。
「これはソラ様」
なんかほくほく顔だな。
「約束通り三人を運んでくれて助かった。ありがとう」
「いえいえ、こちらも報酬を頂いていますし。それに良い取引が出来たので、こちらとしても良い旅になりました」
どうやら奴隷の売買が成立したようだ。
「それでソラ様。小耳に挟んだのですが、ソラ様は馬車を探しているとか?」
ヒカリを見たが首を傾げられた。
「ああ、セラから話を聞きまして。それで今回奴隷が多く売れたので、次の町に行くのに馬車一台で済みそうなのです。それでどうかと思いまして。あ、もちろん料金の方は勉強させて貰います」
実際に馬車を見せて貰って、金額を聞いた。
「それは安すぎないか?」
「アイテム袋など色々頂いていますから。それに維持費も考えれば十分こちらにも利がありますので」
裏があるのか好意からなのか判断が付かない申し出だ。後者と受け取るか。馬車の状態を見る限り悪くないし、大きさ的にも問題ない。
「主、馬車買うの?」
買おうと口を開こうとする寸前ヒカリが聞いてきた。
「馬車の方が楽だろ?」
「けど主、歩くの好き」
好きと嫌いで言えば好きな方だ。経験値も稼ぐことが出来るし。
けど俺の感覚で歩くとヒカリたちの体が心配だ。特に疲労具合が分からないから。
「だから主が歩くなら、頑張る」
そんな両の拳を握って力強く言わなくてもいいんだけど。
「主様、もしボクたちのことを考えてだったら、今回は止めておいた方が良い」
考えていたらセラとミアもやってきた。
「馬車は移動が楽になるけど、魔物の襲撃を受けた時とか人数が少ないと守るのが大変さ。魔物に襲われた時用に使う馬専用の気付け薬があるらしいけど、馬への負担が大きいらしいし」
セラの言葉にドレットも頷いている。
「ミア、君はどう思う?」
「私は、ソラ様に従います」
それが一番困るけど、奴隷だから意見を言うのを控えているのかもしれない。
「主様、この先ミアを連れて行くなら、やっぱり馬車は止めた方がいい。意地悪から言っているんじゃなくて、少し体力を付けさせた方がミアのためさ」
それはその通りだ。
仮にダンジョンに付いて来るなんてなった場合、馬車で移動なんて無理だろう。頼れるのは自分の足だけだ。
「すまない。今回は購入を見送らせて貰うことにする」
「いえいえ、村長からも売買の打診を受けているので、そちらに売らせて貰うので問題ありません」
流石商売人と褒めるべきか。
「そうか。なら最後に一つ頼みたいことがあるがいいか?」
「私で出来ることなら構いませんよ」
「人を探している。奴隷、ではあると思うが、もう誰かの手に渡っているかもしれない。探しているのはエルフ、名前はエリスという。何か分かったら、冒険者ギルドにセラ宛に伝言を頼む。もしくは俺がまだ商業ギルドの一員だったら、そちらに伝言でも構わない。一応これは依頼料だ。あ、可能なら定期的に、三十日に一度ぐらい調べた結果を送ってくれると助かる」
「エルフですか? 私もこの商売は長いですが、エルフは扱ったことがありません。そもそもエルフは目立つのに、その情報すらありませんが……」
俺は金貨一〇枚をさらに渡した。
ドレットの後方に控えていたセラは、その名前を聞いて驚きの表情を浮かべていた。
「そうなのか。なら出来る限りで頼む。どんなに小さな噂でも構わないから」
そんな事情があるとは知らなかった。確かにいくつか回った奴隷商で、エルフを見たことは一度もなかったような気がする。
ドレットは頷き、もう一度頭を下げて立ち去って行った。
「それでミアたちは今までどうしてたんだ?」
「ミア姉はお手伝い?」
「何故疑問形なんだ?」
「戦力外だから」
ヒカリの言葉にミアが肩を落としている。
話を詳しく聞いてみると……なるほど。確かに戦力外だ。頑張っている、頑張っているけど、足を引っ張っていた。周りの女性陣は必死に働くその姿を、生暖かい目で優しく見守ってくれていたようだ。
話していると、村娘の一人がこちらに近付いてきた。見覚えがあるな、ロードを倒したあとに保護した子だ。辛いことがあったはずなのに、笑顔で話しかけてきた。
一人が気付くとわらわらと寄って来た。一応命の恩人の一人として感謝されているようだ。村を発つ時にも散々礼を言われたのにな。
俺は代表者、村長に挨拶したいと案内を頼んだ。
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