第105話 閑話・5
「私はもう駄目~」
「何を言っているの、諦めないで」
「だけどこうも歩き続けると流石に足が限界」
「それはそうだけど……仕方ないよ。あまり馬車が通ってないんだから」
「う~、この国はおかしい! 色々とおかしい! 体を鍛えるために馬車の利用は控えろ、とか」
「それには同意だけど、その国のルールだから仕方ないよ」
「しかも回らないといけない町は多いし。ギルドの仕事が多いからお金は貯まってくれるのは嬉しいけど」
「次の国で楽出来ると思って頑張るしかないよ」
「そうだ。いっそ馬車買ったらどう?」
「操縦出来るの? 目を逸らさないで!」
「う~、セラがいれば~」
「確かにセラちゃんなら出来そう」
「だよね。セラは器用だか器用じゃないのか、分からない子だったからなぁ」
「お互い得意不得意が分かれてたし、ね」
「エリス姉は何でも出来たけどな~」
「お姉ちゃんは凄かったから」
「お、お姉ちゃん自慢?」
「客観的に見てもお姉ちゃんは凄かったです」
「確かに。二人とも無事だったらいいのにね」
「お守りには反応あるし……」
「うん、そうだね。ごめん。変なこと言った」
「ううん、私も少し不安だったから」
「私たちが旅立って、もう三年になるもんね。この国で四つ目。なのに手掛かり一つないなんて。弱気になるのも仕方ない、かな」
「…………」
「やめやめ、悪い方に考えちゃうから今日はもう寝よう。明日には次の町に着くから、町を回って、美味しいもの食べてまたがんばろう、ね」
「うん、なら先に寝ていいよ。私が見張りをするから」
「それならお願い。おやすみね」
「うん、おやすみなさい」
「は~、もう食べられない」
「食べすぎだよ」
「良いじゃない。食べずにはいられないんだから」
「それはそうだけど……」
「もういいの? あんまり食べてなかったけど」
「お肉が多くて」
「美味しくていいじゃない」
「美味しいけど、もう少しバランス良くお野菜が欲しい」
「我が儘だな~」
「そんなんだと太っちゃうよ」
「その分私は動くから問題ないよ。けどここも空振りだったかぁ」
「次は獣王国の首都だし、そっちに期待しようよ」
「だね。それに運が良いことに馬車の予約が取れたしね。って、なんか浮かない顔だね」
「うん、獣王国の乗合馬車は初めて見たけど、本当にあれに乗るのかな、って」
「あ~、まさか馬じゃなくて獣馬にひかせるとは思ってなかったよね」
「乗り心地、大丈夫かな?」
「乗ってみないことにはね。ただかなり早いって話だし、時間の短縮が出来ていいと思うよ」
「……なんて、昨日言ってたよね?」
「はい、スイマセン。これは最悪」
「体痛い。あと吐きそうです」
「我慢よ! 乙女として大事なモノを失うよ」
「うう、ありがとう。背中さすってくれて」
「これじゃご飯は軽く食べるだけにしておいた方が良さそうね」
「他の人たちは平気そうなのに……」
「あ~、さっき聞いたら最初は辛かったって。慣れだよ、慣れ。って笑いながら言われた」
「そうなんだ……」
「慣れるまで乗りたいとは思わないけど、確かに早いね」
「うん、早いね」
「私たち頑張ったよね?」
「うん、頑張ったと思う」
「……現実から目を逸らしても仕方ないか」
「うん、もしかして奴隷にはなってないのかな?」
「けど帝国が亜人をただで解き放つとは思えないし」
「そうだけど。あとは、もう誰かに買われているって可能性もあるんだよ」
「それは分かってる。だから奴隷商で確認して、売られていたらその買った人を特定しようとしてるんじゃない。って、ごめん。クリスにあたっても仕方ないのに」
「ううん、いいよ。それよりも今日はどうするの? 宿をとりに行く? ギルドに行く?」
「先にギルドに行こうか。依頼も見ておきたいし」
「うん」
「って、あんまり依頼ないね。首都だからもっと多いと思ったのに」
「ギルドに人もあまりいないし、もしかして依頼を受けてでてるのかも」
「その可能性が高いか。受付でカード提示して情報だけでも今日は聞いておこうか。すいません」
「はい、何でしょうか?」
「この街に初めて来たの。周囲の情報とかあれば知っておきたいんですが」
「畏まりました。ギルドカードはお持ちですか?」
「はい」
「ランクC冒険者。ルリカ様です、ね?……」
「ん? 何?」
「……そちらにいるのはクリス様ですか?」
「あ、はい」
「一応カードの確認よろしいですか?」
「はい」
「確認しました。お二人宛てに伝言を授かっていました。こちらです、あ、サインよろしいですか? はい、ありがとうございました」
「誰だろう?」
「あ、もしかしてソラだったり? クリスのこと心配したんじゃないかな~」
「も~、そういうのはいいです。手紙は……先に宿を探そうよ」
「そうだね。けど、どうしよっか。良い依頼もないし、街を見て回るにしてもね」
「あ、教えて貰った宿ここみたいよ」
「なかなか良さそうね。っと、三泊でお願いします」
「は~、ベッドが気持ち良いです」
「それには同感。それで手紙は誰から?」
「ちょっと待ってね……えっ」
「どうしたの?」
「これ……モリガンって」
「モリガン? モリガンお婆ちゃん! って、お婆ちゃんはもう亡くなってるよ」
「うん、そうだよね」
「それで中身は?」
「んと……ね。嘘……」
「何々?」
「エーファ魔導国家。マジョリカで会おう……」
「何それ」
「……セラ……って」
「えっ。何言ってるの」
「分からないよ。でもここに書いてあるの」
「……本当だ」
「本人かな?」
「分かんないな。けど、モリガンお婆ちゃんの名前にセラだと、可能性はあるかも?」
「どうしよう」
「いいんじゃない。どうせ次はエーファ魔導国家に行く予定なんだし。通り道だよ、通り道」
「そうだよ、ね」
「……馬車があるか明日確認しよっか……」
「……うん、そうだね」
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