第100話 聖都騒乱・20
「全てを捧げ、貴方に仕えることを誓います」
何ですかその言葉は。突然のことで驚きますよ。
ミアとの契約が終わった。
え~、何故このような契約に?
契約内容はミアに任せた。一時的なことになるだろうし、緩くて大丈夫だと伝えたはずが何故こうなった。
借金奴隷。全ての権利を奴隷主に譲渡することを誓う。これは一番重い誓約で、それこそ生殺与奪の権利さえ渡すという意味がある。
「私は三度、ソラ、ソラ様に助けられました。だから今度は私がこの命を捧げます」
凄く重い返答が。そこまで気にしなくても良いのに。
ドレットを見たら、凄い思い詰めていて断れる雰囲気じゃなかったと耳打ちされた。契約期間も決められていて、最低でも十年は奴隷契約を解除出来ないと言われた。
それは可愛い子とそんな契約出来たら嬉しく思うが、罪悪感が物凄く強い。
「とりあえず立ち位置はこれから相談な。それじゃ悪いが髪を切らせてもらう」
先延ばしですよ。まだ冷静になれないな。
「それと一時的に瞳の色と髪の毛の色を変えさせてもらうがいいか?」
詳しい内容も聞かずに即答で頷かれたな。
俺は錬金術で作っていた染色剤の一つを黒に指定し直し、それを振りかける。
ミアの髪の毛の色が金色から黒色に変わっていく。
さらにカラーコンタクトを用意し、それを目に付けさせる。
コンタクトは慣れるまで付けるのに怖さを感じたりするが、ミアは
「これならヒカリと姉妹だと言っても大丈夫そう、かな?」
二人を並べて見比べるが、可愛さが倍増されただけだな! と、変なテンションになってる。
ついでに黒髪黒目は目立つから、少しやることが残っている俺も髪の毛を金に染めてオッドアイのコンタクトを装着。鏡で見たが違和感しかないな。似合ってない。
意見を求めようとしたらミアには顔を背けられました。ヒカリは格好良いと褒めてくれたけど、本当ですか? セラは半ば呆れた感じで見てきたが何故だ? もちろん仮面をしてると目立つので仮面は外していますよ。
「それで主様、あれはどうするの」
お持ち帰りした暗殺者な。肩口で揃えられた髪の毛に、ミアのカットした髪を重ねて錬金術を発動。ついで素材となる皮を錬金術で加工、マスクを作る。見本が目の前にあるから精巧に作れたな。それを気を失っている女に付ければミアの完成だ。
疲れるほどの魔力を消費したわけじゃないのに、手が汗で濡れている。
「ソラ様、大丈夫ですか?」
目の前のミアもどきに驚いたようだったけど、俺を見て心配そうに寄ってくる。
ヒカリも何故か服を掴んで心配そうに見上げてくる。
「主様、酷い顔だよ。顔色も悪いし」
指摘されて気付く。手も震えている。
「やろうとしていることは分かるさ。そんなものを作ったんだ。ミアの代わりにそれを仕立て上げて身代わりにするんだろう」
その通りだ。生きている以上追っ手は止まらない。だから俺も死を偽造して、今を生きている。前回と明確に違うことは一つ、多くの者の前で死を演出しないと駄目な点。だから死ぬ予定、殺す人を用意しないといけない。
「主様は、今まで人を殺したことがないだろう?」
確信してるのだろう。言い切られた。ま、事実だしな。魔物の多くは手にかけてきたが、人を殺したことは一度もない。忌避感が強いから。違うな、怖いんだ。そう、怖いんだと思う。
「ソラ様無理しなくても」
「主、無理なら私がやるよ」
「主様、そういう汚れ仕事は命じればいいんだよ」
三者三葉の言葉。一言命じれば嫌な顔一つしないで実行してくれるだろう。
だけど結局、間接的にしても殺してるのには変わりない。それに、このプランを実行出来るのは俺しかいない。
何より、ミアを見る。彼女は覚悟を決めた。なら俺も覚悟を決める。
この世界は人の命が軽い。そんなのは言い訳だ。だけどこの先、同じような状況が訪れるかもしれない。なら、大切なものを守るために、親しいものを守るために、躊躇する訳にはいかない。
慣れる必要はないと思う。だけど急を要する時に戸惑い、仲間が傷付くのは嫌だ。
本当に、我が儘だ。俺の心には、まだまだこんなにも多くの感情、欲望が眠っていたんだな。
「大丈夫、俺がやるよ」
女の拘束を解いてミアの服を着させる。用意が出来たら覚醒させる。
文句を言われる前に闇魔法を使う。闇魔法は直接的な攻撃魔法が少ないかわりに、精神に働く系統の魔法が多い。
使うのは催眠魔法。女に自分がミアだと思いこませる。
抵抗されたが魔力を多く籠めて無理やり従わせる。
「君の名前は?」
「ミア」
「普段何をしている?」
「聖女として神聖魔法を使ったり、教会の手伝いをしています」
複雑なやりとりは無理だが、必要最低限の返答が出来ればいいとしよう。
「ソラ様、準備は終わりましたか? こちらはいつでも出発出来ますよ」
「ええ、では三人は任せます。ドレットさんはドレークさんのいるイドルまで行きますか?」
「その予定ですが、食糧問題もあるのでどうなるかはわかりません」
「ならテンス村までこの子たちを運んでください。ヒカリ、向こうに着いたらエルクにスタンピードのことを話して滞在させてもらえ。もしドレットさんたちもそこに留まるようなら、便宜を図って貰えるように頼むんだ」
「それは大丈夫なのですか?」
「ちょっとした縁があるので大丈夫だと思う。そこで合流しよう。セラはミアたちを頼んだぞ」
俺は偽聖女を抱え奴隷商を出る。フードで顔を隠し、人気のないところに捨てる。偽造用の血を巻くのも忘れない。ちょうど家に逃げ込もうとして倒れた感じに仕立て上げた。
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