第95話 聖都騒乱・15
「主、どうしたの?」
屋敷に戻ってきてから考える。考えるが、分からないものは分からない。ここは相談するべきか? 三人寄れば文殊の知恵じゃないけど、何か分かるかもしれない。
ただ問題は、そうなると俺のスキル、能力を説明しないといけないこと。全てを話す必要はないけど、ある程度関係のあること、俺が出来ることを話さないといけなくなる。
何処まで話して大丈夫か、その線引きが難しいんだよな。もちろん、異世界召喚されたことは話せない?
……
…………
………………
……………………何のしがらみもなく、一人で静かに暮らしてればある意味こんなに悩まなくて済んだかもしれない。
けど、一人で生きていて、果たして俺は気が狂わずに生きていけたか。孤独に苛まれず、不安も感じずに過ごせたか。今になっては分からない。それだけ、この世界に来てから紡がれた絆のようなものに、救われた自分も確かにいると思う。
「主様、何だい?」
だからこそセラも買い取った。
「主、何?」
だからこそヒカリと一緒にいる。
「レイラたちが帰ってきたようだ。話はそこでするよ」
俺は立ち上がり、二人を促して客間に行く。
しばらくするとレイラたちが戻って来た。まずはどのように動くか確認したいな。
「レイラたちはこれからどう動く予定だ?」
ルーとユリも一緒に入って来たか。
レイラはソファに座ると二人を一度見たけど、そのまま口を開いた。
「教会から連絡があって、スタンピードの情報を国民に発表するそうですわ」
「地方から来た教会関係者はそのまま留まると思いますが、商隊の中には聖都から退避する者が出ると思います。南側と西側方面から降臨祭に合わせて来た一般の方や、低ランク冒険者の中にも退避する者が出るかもしれません」
ヨルが引き継いで予想を述べた。
「引き止めたりはしないのか?」
「それはないと思いますわ。スタンピードは短ければ数日で、長いと数週間の長期戦になる時がありますの。そうなると物資、特に食料の問題が出てきますの」
「人が少なくなればその分長く保つことが出来るか」
「その通りですわ。それに何かあった時に守る人が多いと、動きを制限される場合もありますの」
「なるほどな。それで教会? ギルド? の方針としてはどうスタンピードに対処するんだ」
討って出るのか迎え撃つのか。
「Bランク以上の一部の冒険者は森で迎撃するようですわ。地の利を生かせる方が多いようです。残りは防衛で迎え撃つ感じですわ。十字軍は遊撃というか、森と街の間に展開するのではという話ですわ」
「私たちは防衛の方で参加する予定です。ソラさんたちはどうするのですか?」
「俺たちは状況次第だな。それで一つ相談だが、悪いがルーさんとユリは席を外して貰ってもいいか?」
二人が席を立ち、部屋から出るのを確認する。
念のため防音対策でサイレンスを発動する。
「師匠、今魔法を使いました?」
心の中で唱えたから気付かれないと思ったけど、ヨルには分かったようだ。魔力の動きを感じたのか?
「ああ、部屋の音が漏れないような魔法を使った。空間魔法の応用だ」
「ルーさんたちに聞かせられない話ですの?」
「ああ、そうだな。まず一つ聞きたいことがあるんだが、隠蔽魔法というのは一般的なのか? 俺は今回はじめて聞いたが、ギルマスの口ぶりから知っている人も多そうな感じだったが」
「師匠、あまり一般的ではないですよ。あの場にいた多くが高ランク冒険者だったから、知っている人がそれなりにいたんだと思います」
特に質問もなく受け入れられてたから有名な魔法かと思ったが違うのか。
「なら、隠蔽魔法を使える者は珍しいということか?」
「それは分かりません。一部国が管理しているとか噂になったりする魔法ですので、何とも言えないところがあります。使えても黙っている人もいますので」
「なら、魔物が使えても不思議ではない魔法なのか?」
一番気になるところはそこだ。メイジ系の上位種もいるようだからゼロではないのかもしれないが。
「私は魔物が使っているのは見たことがありませんわ。ダンジョンが使うのは、何度か確認したことがりますの」
凄く嫌そうな顔をしたな。聞いてはいけない思い出? がありそうだ。
「セラはどうだ?」
「ボクも魔物が使っているのは見たことがないよ。そもそもボクは魔法を感知出来ないけど」
しかも大規模だもんな。作為的なものを感じるな。
「話を戻そう。順を追って話した方が良さそうだから最初から話すが」
注目を集まったのを確認して話を進める。無駄に勿体ぶったりしませんよ。
「まず始まりとなるのはミアの狙撃事件だ。俺は
「それは、その場にいても追跡できるスキル?」
タリアが興味深そうに聞いてきた。斥候で使えたら便利だと思ってそうだ。
「そんな万能なものじゃないけどな。距離とかの問題もあるし、使っている間は集中力が必要になるから消耗が激しく、長時間使い続けるのは難しいとかな」
ルイルイの使う術に似ているように説明する。本当は全くの別物だが。
と、話を戻そう。
「それで追跡したんだが、途中で相手の反応が消えた」
「前見に行った建物?」
「そうだ。で、そこでミアの付き人を目撃して、その者が件の建物に入るのを確認した。目視と
「それは隠蔽魔法が原因だと考えているの?」
「それは分からない。たぶん、そうだと思うが。一応ダンさんには報告だけはしておいたけどな」
「師匠はその建物に使われている魔法と、今回の魔物に使われていた隠蔽魔法が関係していると考えているのですか?」
どうだろう。分からないな。
あれ? そもそも俺は何を相談したかったんだ。
「主は、ミアを心配してるの?」
その言葉が、ストンと自分の中に落ちたような気がした。
そうか。一番モヤモヤしていたのは、不安に感じていた理由はそれか。
それなりに一緒に過ごした知り合いだ。このまま何かあったら寝覚めが悪い。
「そうだな。うん、そうだ。俺はミアが心配なんだと思う。だから一連のことが、ミアを害する何かに繋がるかを知りたいと思ったんだと思う」
「それは考え過ぎだと思います。ミア様は聖女ですが、政治的というか、そういう権力とは無縁な立ち位置のはずです。仮に教皇様よりも人気があっても、今後民衆に支持されても、何かを動かす力はないと思います」
「ヨルちゃんの言う通りかもしれませんわ。けど、実際問題として、ミアが命を狙われたのは疑いようのない事実ですわ。そこに教会関係者がいたとなると、一部に快く思っていない人たちがいるのかもですわ」
ヨルの言葉で少し安心し、レイラの言葉でそれが打ち消される。振り出しに戻ったような感じだ。
「ただそうなると、隠蔽魔法を使って魔物を呼び寄せたのは教会関係者となりますが、そのようなことをするメリットが分かりませんわ」
そうなると二つのことは別問題で、偶然隠蔽魔法が使われていたってだけなのかもしれない。
俺が変に考え過ぎていただけか。
「お父様に聞いた方が良いかもですね。何か調べが付いているかもしれませんし」
そうだな。それがいい。
レイラたちは少し休んで、装備を整えてギルドに向かった。
俺たちはダンに会いに、教会へと足を運んだ。
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