第83話 聖都騒乱・8

 真夜中に唐突に目を覚ました。

 この感じ、結界が消失した。正確な時間が分からないけど、だいたい八時間ぐらい持ったのか?

 まとめると普通に結界術を発動。MPの三分の一を消費して二時間。魔力を籠めてMPの五分の二を使って結界術を発動すると四時間。MPを二分の一使って結界術を発動すると八時間といったところか。

 この先レベルが上がってMPの総量が増えたらまた変わるかもしれないけど、その時はまた検証すればいいだろう。

 ちなみにMPの自然回復量は、一時間で一〇分の一ほど。但しこれはしっかり休んでいる状態の回復量で、動いていると回復量が減るようだ。最も俺の場合は歩いている時は休んでいるのと同じ状態で回復する。

 俺は毛布にくるまり寝直すことにした。明日は明日で忙しくなりそうだしな。休んで体力の回復に努める。

 翌朝は起きて朝食を摂り、ミアの魔力の練習に付き合って、模擬戦を終えると自由時間の到来だ。

 今日はレイラたちにミアを任せることにした。

 明日はちょっと街の外に出ると言ってたし。降臨祭前に手頃な討伐依頼を受けることにしたらしい。

 一応レイラには、昨日尾行されたことを伝えておいた。

 出掛ける前にミアに声を掛け、ついでに結界術をMPの半分を使ってかけておいた。あくまで保険だ。

 本当はもう少しMPを使いたかったけど、これからの事を考えると使えなかった。

 何事もなければ良いけど、もしかしたら一悶着あるかもしれないから。

 俺はヒカリと一緒に街中に繰り出した。MAPには昨日捉えた間者の反応はない。

 ひとまずぶらぶらしながら消えたと思われる建物に向かう。

 何処に目があるか分からないから、真っ直ぐ向かわずにお店や露店を覗きながら向かう。建物に近付くに連れて店舗の姿が減ったら、今度は迷子になってる感じを装って辺りを見回しながら進んだ。もちろんわざとらしさを感じさせないのがポイントだ。……出来ていると思いたい。


「主、何処行くの?」


 ヒカリには街中を見て回りたいと伝えている。まだ、俺の能力を話すべきか悩んでいるためだ。


「せっかく時間があるからな。ちょっと色々と歩いてみたかったんだが、やっぱ目的もなく歩くのはつまらないか?」

「ううん、主となら大丈夫」


 ええ子だ。その分騙しているようで心が痛むが。

 そして件の建物の前に到着。周囲に溶け込み、特段変なところはない。一見して怪しいところはないけど、魔力察知で視てみると、この建物だけ異様な反応がある。

 俺は建物の前を素通りし、MAPで確認していた見張れる位置まで移動した。


「主どうしたの?」

「なんかあの建物……ちょっと灰色がかったやつな。前を通った時に変な魔力の流れのようなものを感じたんだ」


 俺が言うと、ヒカリもジッと見て、何かう~う~唸って首を傾けた。


「主、何も感じない」

「そうか? なら俺の勘違いだったかな」


 たわいもない話をしながら隠れて眺めていると、そこに見知った顔を見た、ような気がした。が、思い出せない。何処で見たっけかな。


「主、あれ追いかけてた人」


 ヒカリのその一言で思い出す。ミアを追いかけていた従者の一人だ。何処にでもいるような特徴のない顔だけど、確かにあの場にいた。言われて思い出した。

 その従者が、例の建物の中に消えた。


「あの建物は教会の関係者の物なのか……?」

「主、どうする?」

「ここに居るのはやばいかもな。このまま外壁目指して歩いて離れよう」

「……うん」


 俺たちはそのまま外壁目指して歩く。外壁まで来たら壁際を辿り、あの建物から大分離れた所で中心部目指して歩いて行く。外壁近くって治安が悪いイメージがあるけど、聖都はそんなことないようだ。

 MAPを見ている限り、まだ外に出てきていない。反応が消えたままだ。


「さて、どうしたものか」


 ヒカリが心配そうに見てくる。

 駄目だな。考え過ぎは良くない。シンプルに考えればいいんだ。分からないなら、知ってそうな人に聞けばいい。ここからなら、家に戻るよりも寄った方が早い。


「そういえば聖都まで来たのに、教会にはまだ一度も行ってなかったな。ちょっとどんな感じか見ていこうか」


 安心させるためにポンポンと頭を撫でる。

 ヒカリが手を出したのでその手を掴んで握る。

 不安そうな雰囲気が消えたな。

 俺たちはゆっくり歩きながら教会を目指した。

 途中お店や露店を冷やかすのも忘れない。屋台に寄って、ヒカリおススメの料理を堪能し、中央の教会に到着したのは日が空高くに昇った頃だった。


「当、教会に何か御用でしょうか?」


 入口で声を掛けられるとは思わなかった。イメージとしては出入り自由で、誰もが普通にお祈りを出来ると思っていた。あ、仮面が怪しかったのかもしれない。


「え、と。ダン枢機卿に会いたいのだが、可能だろうか?」


 どちらにしろおっさんを呼ぶのに信者に聞かないといけなかったから、都合が良いと思うことにした。


「猊下をですか? 失礼ですが、どのような御関係でしょうか?」

「ダン枢機卿の娘さん、ヨルお嬢様の知り合いですが。大切な話があると伝えて貰ってもいいですか? 緊急事態と念を押してくれると助かります」

「わ、分かりました。都合を聞いてきます」

「ああ、もし渋ったらヨルお嬢様が大変な事になると言ってくれ」


 なんか脅迫しているみたいだ。


「あ、そうでした、貴方のお名前は?」


 慌てて伝えに行こうとして、名前を聞いていないのに気付いた信者が尋ねて来た。


「ソラだ」


 適当に偽名を言おうか迷ったけど、素直に名前を言った。逆に嫌がらせで来ない可能性も考えたけど、そうなったら屋敷に戻って呼び出して貰えばいい。

 五分後、先ほどの信者が戻って来てある部屋に通された。


「猊下は後程来ます。少しお待ちください」


 ヒカリと並んでソファに座り、待つことになった。

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