第82話 聖都騒乱・7

 スイーツは別腹。それは世界が違っても変わらないらしい。改めてその認識を強めた。

 現実に戻ろう。ヒカリは前回同様良く食べたけど、ミアも物凄い食い付いた。一口食べては顔を蕩けさせて、一口食べては幸せそうに噛みしめている。色々な種類を食べたいのか、ヒカリと一つのケーキをシェアしている。

 楽しそうに食べている姿を見るのはいいけど、スイーツの甘さで酔いそうだ。

 お土産と合わせて結構な額を使った。金貨が飛ぶことはなかったけど。店員さんが何か言いたげに見ているけど、原因を作ったのは俺じゃありませんよ? 

 元々この世界のスイーツは贅沢品だけど、決して二人の食べた量だけでそれだけお金が掛かったわけではありません。お土産でかなりの数を買ったからです。二人の名誉のために一応補足しておきます。って、誰に言ってるんだ。

 仲良くケーキを食べたからか、二人の距離が急に縮まったような気がする。ヒカリはミアと手を繋いで歩いている。ミアも楽しそうに笑って話している。

 気分転換になったようだな。

 ん? MAPに反応があった。これはミアを狙撃した奴のものだ。

 ヒカリもピクリと不自然な動きをした。何かを察したのかもしれない。

 その反応はある程度近付いてくると、付かず離れずといった感じで付いてきている。そっちを見る訳にもいかずにMAPに注意したら、立ち止まったヒカリに衝突しそうになった。

 見るとヒカリはミアの方を見上げている。ミアは一軒のお店の方を見ている。

 視線を追うと洋服屋だった。


「どうした?」

「ううん。何でもない。早く帰りましょう」


 ぎこちない笑顔だな。先ほどまで素直にスイーツを頬張っていた者と同一人物とは思えないほどの変わりようだ。

 立場か。自由人の俺には想像出来ない生活なんだろうな。教会、宗教なんて向こうでも無縁な生活だったし。


「そっか。悪いがもうちょっとだけ付き合って貰ってもいいか? ちょっと服を見たい」

「い、いいけど」

「ならそこの店に入ろうぜ」


 ヒカリが意を酌んでミアを引っ張っていく。ミアは何か悩んでいたけど、抵抗しないで従って歩く。


「それでどんな服を買うの?」

「あ~、ミアは降臨祭は何度も参加してるのか?」

「ええ、街中に出ることはありませんが、遠目に眺めたりはしてましたよ」

「そっか。降臨祭って何か特別な服を着たりするのか? え~と、女性ならドレスとか? 男性ならお堅そうな服とか?」


 なんか笑われた。


「街の方はそんな肩が凝りそうな服は着ませんよ。殆どの方が普通の服だと思いますよ」

「今の服でも問題ないか?」


 俺とヒカリの服を指して聞く。


「大丈夫だと思いますよ。教会に招かれるような方たちは、それなりの服装で参加されますが。ソラたちはそれで良いと思います」

「そっか。なら安心だな。と、せっかく服屋に来たんだ。ミアも何着か見てみたらどうだ? 借り物だと落ち着かないだろう? 俺も以前借りたことがあったけど、汚したら、とか。破いたら、とか。考えて落ち着かなかったことがあったよ」


 借りるような友達なんていなかったから想像ですけどね!

 最初遠慮していたミアだったけど、やがて洋服をおっかなびっくり選び始めた。ヒカリが傍らに付いて行っているから後は任せよう。

 と、思っていたら、これはどうか、あれはどうかと意見を求められた。

 時間の経過と共に遠慮はなくなり、一着選んでは悩み、色はどうかと悩み、年相応な少女の姿に見えた。

 しかしセンス皆無の俺に意見を求めるのはどうかと思うぞ? え、そういうのは関係ない。自分の気に入ったものを買ってくれればと言ったら、そうじゃないと言われて、大いに頭を悩ませて服を選んだ。褒めるための語彙力の乏しさに、何故かダメージを受けた。

 満足して店を出ようとしたところで、結界が消えたのを感じた。

 時間はだいたい四時間か。女性の買い物って、時間が掛かるんだな……。彼女持ちのクラスメイトが、自慢しながら遠い目をしていたのを不意に思い出した。

 今度は先ほどよりも多く魔力を籠めて結界術を発動させた。あとは屋敷に戻るだけだけど、せっかくなので検証。

 そういえば昼食がケーキになったな。とどうでもいいことを考えながら店を後にした。

 ミアが嬉しそうに洋服の入った袋を抱えている。荷物になるからアイテムボックスで持っていくよと声を掛けたら拒否されましたよ。

 追跡者は結局、一定の距離を保ったまま付いて来るだけで何も仕掛けてこなかった。屋敷に戻ってからもしばらく観察していたようだったけど、やがて離れていった。

 俺はその者がどこに戻るのかをMAPを注意して見て追っていたため、食事中に変な返事を繰り返して皆に心配された。

 ある建物に入った瞬間、突然反応が消えたので驚いた。が、件の建物の位置だけはマークしておいた。結構外周部に近い建物だな。距離はあるけど、街をフラフラした甲斐あってかMAP登録が終わっていたのが功を奏した。

 あ、ちなみにお土産は喜ばれました。メイドさんたちにも好評だったようで、すれ違う時にその都度お礼を言われた。

 夜は夜で色々と忙しかった。

 ヨルに頼んでお風呂を魔法で用意出来るか試させて貰ったり、ミアの魔力訓練に付き合ったりと、濃密な時間を過ごせたと思う。

 風呂に関してはまだまだ改善が必要だけど、旅の途中で利用する分には使えそうだ。ミアも何かを掴みかけてるっぽいけど、まだまだ魔力を流すには至っていない。

 今日はベッドで一人寂しく丸くなる。否、これが本来の姿だな。

 ヒカリはミアと今日は一緒らしい。随分一日で仲良くなったようだ。

 明日もやることが色々あるな。

 特に金貨を残り六〇枚と少し稼がないといけない。

 またどっかの道具屋にでも行ってみるかな……。

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