第81話 聖都騒乱・6
翌朝ミアに頼まれて魔力の練習をしたけど、やはり駄目だった。
気落ちする姿が少し痛々しい。そこまで落ち込まなくても大丈夫だと言いたい。
商業ギルドに行く前に、日課の模擬戦。気分転換にどうかと誘ってみたら付いてきた。
正直無様な姿を晒すことになるから来て欲しくなかったけど、案の定手も足も出なかった。ボロボロだな。けど基礎が大分付いてきたような気がする。そう思いたい。
「本当にソラにも出来ないことがあるんだ」
「世の中そんなもんさ。得手不得手はあるし、最初から全てを出来るような奴なんていない。俺もこっちに来てから色々試して、そしてどうにか生き残ってこれた感じだしな。だからミアもすぐに結果が出なくても、焦る必要なんてないんだからな」
何でもありなら勝てるかもだけど、それだと訓練にならない。教わりたいのは剣術の基礎だから。
自分とレイラたちに浄化魔法を掛けた。この家にはお風呂の設備はあるけど、流石に昼間から利用するのも大変だからな。主に諸々の準備が。
水を準備してお湯を沸かす。魔石を利用しているから一般的な家よりも楽みたいだけど、魔石は消耗品みたいだからな。
ボタン一つで全てが準備されたあの世界とは違う。
水魔法と火魔法を併用すれば風呂の準備が出来るか? 今から外に出るから流石に試そうとは思わないけど、今度やらせて試させて貰うのもいいかもしれない。
彼女たちの予定を聞くと、レイラ、ケーシー、ヨル、トリーシャの四人は冒険者ギルドに行くそうだ。模擬戦だけだと体が鈍るから程よい依頼がないか見に行くらしい。
タリアとルイルイの二人は留守番とのこと。何かやることがあるという話だった。目が死んでいたから勉強か?
俺とヒカリと、ミアの三人はひとまず商業ギルドへ。白ローブの聖女スタイルだと目立つので、ヨルから借りた町娘風の服で一緒に行くことに。
「着慣れてない感じだな」
「……基本的に教会で用意して貰ったローブ姿だったから仕方ないじゃない」
「なるほどな。ま、これから慣れていけばいいんじゃないか?」
変な事を言っただろうか? 目を見開いて驚いている。
「主、早く行こう」
ミアと話していたらヒカリに促された。
分かっているぞ? 商業ギルドでの用事を早く済ませて、例のスイーツ店にまた行きたいんだろう。
あの時は幸せそうに笑顔を浮かべていたからな、また行くのも悪くない。
俺は家を出る前に気付かれないように結界術を発動させた。対象はミア。これで一度は攻撃を防げる。MAPや気配察知を使って警戒もするけど、咄嗟の奇襲を受けると後手に回る可能性もある。
あとは結界術の持続時間の再確認。あれからレベルも上がったし、効果が色々変わっているかもしれない。結界術を発動しているから大丈夫だと思っていたら、急に解除されたなんてあったら危険過ぎる。
商業ギルドに向かい、ギルドカードを提示してポーションの査定をしてもらう。結果はイドルで査定して貰ったのと同じ値段だった。
買取価格は一律なのか? けどそうすると道具屋の値段が高い理由が分からない。
「どうしますか?」
と、聞かれたので売るのは止めた。
これなら道具屋で交渉した方が良いかもしれない。
「悪いけど道具屋に寄ってもいいか?」
二人の了承を得て向かう。
場所は前回来た中でそこそこ高く売っていた道具屋だ。
置いてあるポーションの品質も良く、目利きがしっかりしてそうだったので選んだ。年老いた店主は職人といった感じで、貫禄を感じたしな。もちろん俺が勝手にそう思っただけだけど。見た目は大事だよな。
「このポーションを売りたいんだが、いくらぐらいになるか査定して教えて貰うことは可能か?」
五種類のポーションをご主人の前に出す。
ご主人はルーペのようなものを取り出しポーションを調べている。あれで何を調べているんだろう?
下手に口を挟んで邪魔をすると悪いので黙って待っていると、一つ、二つと順に見ていく。時々唸り声を上げて、じっくりと見ているからか時間がかかる。
あ、ヒカリがちょっと飽きてきているな。ミアは物珍しそうに店内を見ている。
「うむ、小僧。このポーションどこで手に入れた?」
全てを見終わると、まず聞かれた。
もちろん旅先で出会った商人から売って貰ったという、いつものフレーズで答えた。
「そうか。ポーションの査定といったな。これだけじゃろうか? それとも数があるのか?」
「一応各ポーション五〇本ずつある」
「そうか。品質は全て同じじゃろうか? 一本あたりポーション銀貨七枚、マナポーション銀貨八〇枚、スタミナポーション銀貨二〇枚、毒解毒薬金貨一枚、麻痺解毒薬銀貨七〇枚でどうだ?」
マナポーション以外は二倍か。むしろ貰い過ぎかと思ったけど、お金はいくらあっても困らない。
「ああ、それで頼む」
俺はアイテムボックスからポーションを取り出して渡す。一応店主は一本一本確認している。今度は時間を掛けずにずんずん視ている。
「大丈夫そうじゃの。なら代金だ。金貨一三五枚と銀貨五〇枚か、多いな……カードはあるか?」
「ああ、商業ギルドのカードだがいいか?」
「なんじゃお主、商業ギルド所属か。ワシのところじゃなくて商業ギルドで売ればよかろうに」
「あ~、なんか安かったからここに来たんだ」
「そうなのか? ふむ、まぁワシは満足いく取引が出来たから文句がないがの」
入金確認を終えたので、一つ気になったことを聞いた。
「なあ、毒と麻痺の解毒薬なんだが、何故そんなに高く買い取ってくれたんだ?」
なんか呆れた顔をされたな。
「なんじゃ知らんのか。解毒薬は、というかポーションが品質によって効き目が違うのは知っておるか?」
「ああ」
「で、じゃ。毒や麻痺にも強弱がある。例えば弱い魔物の毒には品質の低い解毒薬でも回復は可能じゃ。じゃが強い魔物になると効果がなくなる。じゃから解毒薬の品質は、ある意味ポーション以上に大事になってくる」
「なるほど。それで高かったのか。勉強になった」
俺はアイテムボックスから銀貨一〇枚を取り出し差し出した。
「なんじゃこれは?」
「授業料。俺にとってその情報、知識は何物にも代えられない価値があったからな」
「小僧が生意気な。受け取れんわ」
見た目通り頑固な爺さんだ。
「納得いかんというならそうじゃな、この金でそっちの嬢ちゃんたちに美味しいものでも食べさせてやるのがよかろう。飽いておるぞ」
「……分かった。そうさせてもらうよ」
「じいじ、良い仕事した」
俺は苦笑をし、ヒカリは絶賛した。
銀貨一〇枚か……あっという間に消える未来しか見えないな。
礼を述べて店を出ると、ヒカリに手を引かれてスイーツ店に向かう。足取り軽そうだな。
お、と。結界が消えたな。およそ二時間ぐらいか? 今度は少し魔力を籠めて使ってみるか。
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