第79話 聖都騒乱・5

「ソラ様、よろしいでしょうか?」


 ミアとの再会を済ませてなかばぐったりしていたところに、件のメイドさんが帰ってきた。

 申し訳なさそうな顔で、商業ギルドに行ったらギルド員でないと安い買取になってしまうと聞いたため、そのまま帰ってきたらしい。

 むしろ無駄足をさせてしまったこちらが申し訳ないと、謝りましたよ。

 明日あたり一人で行ってくるか。

 今はテーブルを囲んでお茶会。今回のゲスト? であるミアはぐったりしている。精神的にダメージを受けているようだ。

 その傍らでは普段物静かでおっとしているトリーシャが、嬉々として次々と質問をしている。誰もそれを助けようともしない。


「魔法の事を聞くヨルみたいだな」


 ついそんなことを呟いたら、ヨルから文句を言われた。

 けど他の四人は否定しませんでしたよ?

 ユリも興味があるのか、その反対側に座って耳を傾けている。

 一応聖女と言えば、普通の人がおいそれと会うことが出来ない身分の人らしいしな。神職の家の者としては光栄に思っているのかもしれない。

 ヨルからは残念ながら感じられないけど。

 俺は一口お茶を飲んで魔力察知を使用した。

 視た感じ、MPはまだ全回復していないかもしれないけど、それでも魔力量はそこそこありそうだ。低レベルだから魔力量が低いのかもと思ったけどそれは違うようだ。

 それなのにヒールとリカバリーを二つ使っただけで枯渇した。その前に既に使用していたのか?


「なあ、聖女様」

「……ミ、ミアで結構です。それで何ですか?」


 まだ少し声に堅さがあるな。

 警戒するように胸を隠すのはどうかと思いますが? 俺だって傷付く時は傷付きますよ。


「いくつか聞きたいことがあるがいいか?」


 俺の声音から何かを感じ取ったのか、居住まいを正した。


「ミアは俺の治療を神聖魔法でしてくれたようだが、今日は他にも使ったりしたのか?」

「いいえ、今日は使ったりしてません」

「なら神聖魔法は普段から使ったりするのか?」

「時々、怪我をした方が訪れた時に使うことがあります。多い時は一〇人ぐらい看たりします」


 聖女でもそういうことはするんだな。


「その時に今日みたいに倒れたりしたことはあるのか?」

「あ、ありません。それが何ですか?」


 なるほど。ますます分からん。


「何でそのような事を聞くのですか?」


 黙って考えていたら、不安そうな声が飛んできた。

 顔を上げると、心配そうな表情を浮かべて俺を見ている。


「あ~、魔力酔いを起こしたみたいだからな。ただ視た限り、魔力が少ないわけでもなさそうだから何故かと思ってな」

「そうですよね。普段から使っているようですし、何故魔力酔いの症状を起こしたんでしょうか?」


 話を聞いていたヨルも首を傾げる。神聖魔法の方が仮に魔力を消費するにしても、普段から使っているわけだしな。

 ミア自身も分からないようだし。

 魔法は使うと少しだけど魔力量が増えるというのを、クリスから聞いたような聞かなかったような。

 俺の場合はMPが上がらなかったけど、俺のステータスというか、レベルの上がり方は色々とおかしいからな。

 

「以前にも同じようなことになったことはあるのか?」

「以前……まだ子供の頃に、シロが、飼っていた子犬が怪我をした時に、無我夢中で使った時に倒れた事がありました」

「なら、今回使った時は?」

「そ、それは慌てましたよ。目の前であんなことがあれば……」


 目の前で矢が刺さった光景を見れば驚くか。しかし顔が赤くなる要素はなさそうだが? もしかして魔力酔いを起こしたことが恥ずかしいのか?

 俺は二つの話の共通点を探す。慌てていたか……感情が不安定な時に魔力のコントロールを失敗した?


「単純に魔力のコントロールに失敗したのが原因か? だったら普段は特に気にすることはないんじゃないかな。普通に使う分には今までも大丈夫だったらしいし」


 その言葉に皆納得したように頷いている。否、一人だけ納得してなさそうなのがいるな。


「あ、あの。それはまた倒れる可能性もあるということですか?」

「それはあるかもしれないな」

「どうにかなりませんか?」


 ないことはないな。


「単純にレベルを上げれば魔力量は増えるだろうな」

「レベル?」


 あれ? レベルって概念がないのか?


「あ~、魔物を倒すと何か成長するようでな。そうすると魔力量が増えたりするらしいんだ。レイラたちは分かるか?」

「確かに魔物を倒していると、強くなったような気になる時はありますわ」

「うん、いつもよりも体が軽くなったような時がある」

「魔法の威力が上がったり、たくさん使えるようになったりしますね」

「私も以前と比べて、魔法の継続時間が長くなっているような気がします。けどそれは魔法を使うことで成長したと思っていました」


 あの王城にいた奴らが、レベルの概念を知っていたから普通に知っていると思っていたけど一般的には違うのか?


「ミアは魔物と戦ったことはあるか? 戦う機会なんてあるのか?」

「ありません。騎士団に同行したことがありますが、後方で治療だけしていましたから。それ以外にその、魔力量を上げることは出来ませんか?」

「年を取ると体の成長と共にある程度増えるかもだけど……あとは訓練して上がるかどうかだな。個人差があるから必ず上がるとは限らないけど」


 どれも確実性があるわけじゃないんだよな。俺の勝手な想像だし。


「ならそれを教えて貰ってもいいですか?」

「レイラたちも時間があると訓練してるから教わればいいんじゃないか?」


 俺はちょっと試したいことがあるからな。そろそろ五代目を作成しないとだし。

 流石にあれは、人のいる所で作るわけにはいかない。


「お願いできますか?」

「もちろんです。ミア様、一緒に頑張りましょう」


 トリーシャがやる気だ。ヨルもその背後で笑顔だ。同好の士が増えて嬉しいのか?

 なんか同好会のノリだな。

 その騒がしい様子を眺めながらそんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る