第77話 聖都騒乱・3

「こんな時間に呼び出すとは、良い身分だな。私はこう見えて忙しい身なんだが」


 開口一番それですか。文句を言いたいのはこっちだ。

 それにいいのかその態度。娘さんがゴミを見るような目で睨んでいるぞ。

 それに忙しいと言いつつ、先日抜け出して来たよな? 仕事を放り出して。


「それで……」


 ここで初めて俺以外に人がいることに気付いたようだ。娘すら目に入ってなかったのか?

 少し離れたところに佇む集団を見て、眉を顰める。


「お久しぶりです、猊下げいか。私は聖女様付き筆頭従者を務めさせていただいているレグルスと申します」

「ふむ、その筆頭従者殿が我が家に何の用ですか?」


 チラリとこちらを見た。あまり大ぴらに話せないことなのかもな。


「お邪魔な様だから退散するとするか」

「主、デートの続きは?」

「今日は邪魔が入ったしここまでな。また今度行こうな」

「うん、けどギルドはいいの?」

「あ~、確かに。どうするか」

「失礼ですがソラ様。ギルドとは商業ギルドですか?」

「ええ、ちょっとポーションの買取価格を確認したかったんだけどな」

「それでしたら使いの者をだしましょうか?」

「いいのか?」

「はい、あとで人を手配するのでその者に要件をお伝えください」


 あとは大人たちに任せよう。俺とヒカリ、続いてヨルが立ち上がって部屋を出た。

 ヨルが部屋を出る時なんか驚いていたな。もしかして本当に気付いていなかったのか?


「師匠はこれからどうしますか?」


 結局呼び方を変えることは出来なかったな。


「主、外に出ないなら魔法の勉強したい」

「……とのことらしい」


 勉強したいか。そんな事考えたことなかったな。あの頃は、ただただ面倒臭いと思ってたし、進学するためだけに詰め込んだ記憶しか残っていない。

 その純粋な想いが眩しく見える。

 あ、けど魔法の勉強だったら楽しく出来るかもしれない。


「なら早速皆にも声を掛けますね。あ~、今日は何を学べるのでしょう」


 ここにも勉強大好きっ子がいたか。魔法関係限定かもだけど。

 その後はいつもの勉強部屋に集まり、魔力の籠め方中心に勉強を続ける。

 ヒカリは魔法は使えないが、魔石に魔力を流すことが出来るようになってきた。実戦で使うには時間がかかるため、まだまだ実用化は難しいようだが。


「お嬢様、こちらにソラ様はいらっしゃいますか?」


 控えめなノックのあとに、一人のメイドさんが訪れて来た。

 ロンドさんが手配してくれたのかな?

 俺は各種ポーションと、毒と麻痺の解毒薬を一本ずつ渡し、いくらで買取してくれるか価格を聞いてきてくれるよう頼んだ。


「あと、旦那様がソラ様に用があるとのことでした。先ほどの部屋まで足を運んで貰ってもよろしいでしょうか?」


 断るとメイドさんに迷惑が掛かりそうだから頷いた。


「ちょっと行ってくるよ」


 部屋に戻ると、男たちが難しい顔を突き合わせていた。


「何か用があるようだが?」

「ああ、詳しい話はレグルス殿に聞いた。聖女様の命を助けてくれたようで、教会を代表して礼を言わせてもらう。ありがとう」

「それをわざわざ言うために呼んだわけじゃないだろう?」

「そうだな」


 ダンはチラリとレグルスを見て、同意の頷きを確認したのか口を開いた。


「聖女様の件だが、数日我が家で保護することにした」

「それを決めるのは教会側だろ? 俺に話す理由はないと思うが?」

「確かにその通りだが、我が家に滞在してもらっている間。出来れば気にかけてやってほしい、というのがレグルス殿からの要望だ」

「恥ずかしながら、私たちは聖女様、ミア様が狙われた時に誰一人動くことができなかった。その点貴公は咄嗟にお守りしてくれた。その腕を見込んで頼みたい」

「そう言われてもな。責任重大すぎるだろ? それに助けられたのはたまたまだぞ?」


 何かあって責任をとれと言われたら、たまったものじゃない。

 面倒ごとは断るに限る。


「もちろん護衛の衛士は他にも付けさせてもらいます。それに猊下の家には、今、ご令嬢のご学友も滞在していると言う。出来れば同じような年頃の子たちと交流を持たせてあげたいのだ」


 言いたいことは分かる。イメージだが大事にされ過ぎて、息が詰まるような生活をしていたのかもしれないしな。立場があると、普通の生活も難しそうだし。うん、勝手な想像だけど。

 その割には深窓の令嬢とか、そんなイメージとは程遠いお転婆な感じだったけど。


「まぁ、とりあえず俺だけじゃなく、レイラたちにも事情を話して了解をとるんだな。少なくとも一緒に居れば、何かしらのリスクを負うことになるかもしれないし。あとは、それこそこの家から出ることが可能かどうかも決めておいた方だいいだろう」


 俺たちだってずっと家の中で過ごす訳じゃない。少なくともレイラたち、主にトリーシャは降臨祭を楽しみにしている。色々と外に出て見て回ることもあるだろう。

 レイラたちだって滅多に来ることが出来ない街に来ているのだ。何処か行きたいところがあるかもしれない。


「そうだな。ロンド、すまないが皆を呼んできてくれ」


 呼び集められた面々に説明するおっさんズ。あ~、けどこれ受けると金策が出来なくなるのか? それはそれで困るな。


「……事情は分かりましたわ。ただ私たちもやることがあるので、常に一緒にいることは出来ないと思いますの。また外出する際に付いて来たいと言われた場合はどうすれば良いのですの?」

「そこは出来るだけ要望に応えてやって欲しい」

「……それなら」

「これって、一緒にいる間は護衛料みたいのは発生するのか?」


 俺はレイラの言葉を制して尋ねた。

 お~、顔色が変わったな。けど、拘束されるから要求してもいいはずだ。俺個人も助かるし。


「……その分の支払いはすることを約束しよう」

「なら俺は問題ないな」

「……私たちも問題ありませんわ」


 レイラの言葉に、ブラッディーローズの面々も頷いた。


 

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