第74話 迷惑料

 用事を済ませようということで商業ギルドに足を運んだ。今日は一人だ。

 通されたのは前回と同じ部屋。室内にいるのもアーサーとクトルの二人だ。


「それで結論は?」


 尋ねると上質の布が差し出された。それを捲ると一枚のコインが。白色に輝くこれが白金貨か? 見たのが初めてだから分からないな。


「白金貨一枚です。どうぞお納め下さい」


 俺はそれを見て、アーサーの方にそれを布ごと差し出した。

 アーサーは困った顔でこちらを見ている。


「これはあの村の復興資金として活用してくれ。商業ギルドの責任で、あそこの村人なのか領主なのか分からないが、しっかりと話をして有効的に使ってくれればいい」

「それだけで良いのですか?」

「正しく使ってくれればいい。もちろん、どのように使ったかを聞きに来るかもしれないから、記録は残しておいてくれ。はっきり言って、ギルド職員もあまり信用出来ないからな」


 釘だけは刺しておく。中抜きなどする者もいるかもしれないからな。

 思い出すのは初めて受け取った金貨二枚のこと。真相は謎だけど、ないとも言えないしな。


「分かりました。その辺りは徹底させて貰います」

「ああ、このお金はアウローラ商会が復興資金として援助したと大々的に宣言してくれていいぞ。特に渋ることなく支払ってくれたようだしな」


 値切り交渉でもしてくると思っていたが、一括して支払ってくれたし。

 それに変に追い詰めるのも危険かもしれない。


「分かりました。本部にもそのように報告させていただきます」

「ならそれで結構。俺からの用はこれで終わりだ」


 俺は立ち上がり、何か言いたげな二人を残して商業ギルドを後にした。

 次はレイラとの待ち合わせ場所である冒険者ギルドに行った。


「待たせたか?」

「大丈夫ですわ。それで商業ギルドの方はどうでしたの?」

「昨日話した通りにしたよ」

「そうですの。最初迷惑料をと聞かされた時は驚きましたが、私利私欲のためじゃないと分かって安心しましたわ」

「個人で貰うならいくら何でも白金貨一枚なんて請求しないよ」

「けどお金を稼がないとなのですよね?」


 確かにな。まさか金貨五〇〇枚もするとは思わなかったからな。

 調べた相場だと金貨五〇から一〇〇枚もあれば買えると思ってたんだけどな。現に最初に出て来た奴隷は、高くても金貨五〇枚だったし。


「ですが護衛を買うのに、そんな高額な方を買わなくてもと思いますの? 何か拘りがあるのですの?」


 拘りじゃないんだよな。ただ単に買わないといけない子が、金貨五〇〇枚したってだけで。


「とりあえずどんな依頼があるか見たい。薬草の群生地とか何処にあるか調べられたら調べたい」


 並んで冒険者ギルドに入ると、昼過ぎのためか比較的空いている。

 何処の冒険者ギルドでも、良い依頼を取るなら朝一じゃないと難しいのは変わらないようだ。

 依頼を見ると、何故か警備系の仕事が多い。降臨祭に向けて人が多く集まるため、色々と事件などがおきやすいとのことだ。


「これと言って討伐の依頼もありませんわ。あ、採取依頼はそこそこあるようですわ」


 相場的に普通だな。これなら自分で採取してポーションを作って売った方が儲けられる。

 採取依頼だと頑張っても金貨数枚にしかならなかったしな。


「悪いが採取出来る場所だけ聞いて来て貰ってもいいか?」

「了解ですわ」


 レイラが受付の方に歩いていったので、もう少し依頼を見ることにした。

 討伐依頼はゴブリンとウルフが多いな。高ランク冒険者向けでタイガーウルフがあるな。共和国方面の街道で目撃情報あり、か。

 あとはキラービーの討伐と、ハチミツ採取か。ハチミツは色々な用途で使えるようだしな。

 一攫千金を狙えそうな依頼は……ドラゴン討伐? 流石ファンタジー。いるんだな。ドラゴンの被害があったわけでなく、素材が欲しいって奴か。ドラゴン一体で白金貨五枚、と。依頼主は錬金術ギルドか。


「何を見ているんですの?」


 肩口から覗き込むようにレイラが言ってきた。顔が近い、近い。


「ドラゴンの討伐依頼を見ていた」

「あ~、これ。大きな冒険者ギルドだと、どこにでも貼ってありますわ。ただ実際にドラゴンが討伐されたらオークションにかけられますわ」

「そうなのか?」

「はい、ですの。この報酬だと、ミニか亜種のドラゴンなら儲けが出るかも? と言ったレベルですわ」

「なるほどな。レイラはドラゴンって見たことあるのか?」

「私はないですわ。ただダンジョンの深層部で見たという記録はありましたわね。本当かどうかは分かりませんが」


 ダンジョンにはドラゴンがいるのか。ドラゴン階層とかあったりするんだろうか?


「とりあえず薬草関係の話は聞いてきましたわ。ここだと少し問題があるかもですので、一度ヨルちゃんのお家に戻りますわ」


 確かに部外者のために聞いたとなると、外聞が悪いな。

 俺はレイラと連れ立って戻ることにした。


「ソラは降臨祭までの間はどうしますの?」

「とりあえず薬草採取だな。あとはそうだな、もしよかったら少し稽古を付けてくれないか?」

「稽古ですの?」

「ああ、もう少し剣を使った戦い方を学びたい。その点レイラは剣の扱いが上手いだろう?」

「教えられるほどの腕ではありませんが、模擬戦をするのはいいかもしれませんわ。私だけでなく他の子とも戦えば良い勉強になると思いますわ。それに私たちも違う方と戦うのは良い経験になるので歓迎ですわ」

「なら時間が空いた時に頼むよ。課題もやらないとなんだろ?」

「本当に。あれさえなければ、と思わずにはいられませんわ」


 なんでも長期で学園を休むため、課題をいくつも出されたらしい。学生も大変だな。うん、本当大変だった。

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