第73話 戦闘奴隷

 一目見て、元の部屋に戻ってきた。

 ヒカリはちょっと怯えていたが、俺はむしろ気になっていたことがある。

 ネ・コ・ミ・ミ! 

 どちらかというと犬派だと思っていたけど、猫もありだと思いました。

 じゃなくて、はじめて獣人を見た。本当にいたんだな。これぞファンタジーという奴か。これはエルフやドワーフに会う日も近いかもしれない。


「見ての通りでして。特に我々、ひと種を凄く恨んでいるようなのです」

「何があればあそこまで憎しみが増すんだ?」

「そうですね。私も人伝に聞いたのではっきりした事は分からないのですが、元々黒い森で戦闘奴隷として戦わされていたらしいのです」

「黒い森か……」

「はい、そこで奴隷になってから何年も戦い続け、生き延びてきたようです。しかも一緒に隊を組んでいったものは誰一人生きて帰ってこなかったらしいのです。それが何度も続くと、流石に不気味に思ったようなのです。ただ黒い森で生き残っていることもあって、その強さはAランク冒険者並、それ以上との話です」

「そこまで強いなら優遇されそうなものだが、奴隷だからそんなことはないのか?」

「そうですね。本来ならそうあってもおかしくないのですが、味方が全滅することと、彼女がいた国が帝国領だったこともあって待遇は悪かったようです」


 確か人間至上主義を掲げる国風だったか? 停戦協定が結ばれても迫害は変わらないということか。


「それで最終的にそれを快く思わなかった奴隷主の貴族様が、教育と称して危害を加えようとして、逆に手酷い反撃にあったようでして。例え奴隷主とはいえ、危害を加えようとするのは違反なので、自己責任となったらしいのですが」

「それなりの事件になったということか?」

「ええ、一時問題になったようです。それこそそれを理由に処刑でもしていたら、共和国が黙っていなかったでしょうね。なので混乱を避けるためにも、国外に、聖王国に送られて今に至るところです」


 共和国に送り返した方が問題が解決しそうなのに、それをしなかったのには何か理由があったのだろうか?


「なるほどな。もし彼女を購入するとなると、金額はどれぐらいになる?」

「そうですね。扱いは難しいかもですがその能力は高いので、金貨五〇〇枚になります、はい」

「金貨五〇〇枚か……」


 高いな。だがレベルを見た限りそれだけの価値はあるのかも。今まで人物鑑定で見た中でも、ダントツでレベルが高い。

 それに…………。


「今手持ちが足りないが、キープすることは可能か?」

「キープ?」

「ああ、予約というか、この日までにお金を貯められたら買いたいから、その日まで売らないで欲しいって契約が結べるかどうかだ」

「そうですね。その日までの、それこそ生活費を支払って下さるなら構いません。本来ならそのような約束はしないのですが、ドレークの紹介ということなので」


 その言葉が本当かどうかは分からないが、キープ出来るならしたいな。

 今の手持ちが搔き集めて金貨三〇〇枚ぐらい。残り金貨二〇〇枚を降臨祭が終わるまで貯めるとなると厳しいか? 薬草採取をしてポーションを量産したらどうだろうか?

 いっそ白金貨の請求が通ったらそれを……否、あれは例え手に入ったとしても手を付けるわけにはいかないか。

 色々考えたが、とりあえず二十日ほど売らないでおいてくれということで、その分の生活費を支払った。

 最後に一度話をしたいということで、ドレット抜きで話をさせてもらうことにした。


「ソラという。少し話がしたいがいいか?」

「…………」

「実は俺は行商のようなことをしていてな、前々から護衛が出来る者を探していた。そこで君が強いと言う話だったのでどうかと思ってね」

「なら他をあたりな。ここにも戦える奴隷はいたはずだ」

「確かに何人か見させてもらった。だけど駄目なんだよ。最低でも、上位種と戦って逃げられるぐらいの力は欲しい」

「上位種? 冒険者になって金でも稼ごうって話かい」

「まさか。ただ、こっちに来てから少なくとも上位種の噂を二回聞いたし、実際に一回は遭遇している。今はそれほど、ただ旅をするだけでも危険があるんだ。だから雇えるなら強いものを求めるのは普通だろう?」


 その言葉に彼女は黙った。何か考えているようだったが、答えはなかった。


「それに俺は国を跨いで行商をする予定だ。それこそ機会があれば、エルド共和国に寄ることがあるかもしれないぞ」


 ハッとなって顔を上げた彼女の瞳には、怒り以外の感情がはじめて見てとれたような気がする。その感情が何かは分からなかったが。


「そういうことだ。俺が買うことがあったら、そういう未来もあるということを覚えていてくれればいい。現実問題、まずは金をもう少し稼がないといけないんだがな」

「なら、金が用意出来てからいいな」


 ぶっきらぼうな言い方だが、最初の頃に比べて棘がない。チョロすぎでは?

 否、それほど彼女にとってエルド共和国の名は特別なのかもしれないな。


「期待に応えられるように頑張るとしよう。セラ、また来るよ」


 俺は最後に言葉をかけてドレットの元に戻った。

 背後で息を呑む音がしたが何かあったのだろうか?

 これから忙しくなるな。主に金稼ぎで。はぁ、なんか良い儲け話はないものかな。

 まずは帰って、レイラに相談だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る