第72話 ハウラ奴隷商会
あの後ヨルから物凄く謝られた。
大事な娘が数年ぶりに帰宅したら、見知らぬ男を連れてきたのだから男親としては普通の反応なのか?
ちなみにおっさん、ダンは教会からやってきた司祭の手で引き取られていった。
降臨祭の準備途中だったのに、ヨルの帰宅を聞いて飛び出していったらしい。
枢機卿ってかなりの重要職だよね? そんなんで大丈夫か?
夜になってもダンは結局戻ってこなかった。
穏やかな時間を過ごすことができたとだけ言っておこう。
その翌日は皆揃って聖都を歩いた。
ヨル、というよりもユリが案内をしてくれた。
最初お姉ちゃんべったりだったが、年が近いからかヒカリとも打ち解けた。
ヒカリは結構感情が表に出なくてぶっきらぼうだから大丈夫かと心配だったけれども、ユリが楽しそうに話しかけているので問題はなさそうだ。別れは確実に訪れるが、せめてその間まで仲良くしてくれたらと思う。
ユリは冒険者にも興味があるらしく、武器防具屋にも案内してくれて、レイラたちは装備を新調していった。どうもヨルの手紙が原因のようだ。
もちろん俺たちも装備を新調した。金貨が数枚飛んだけど、それで安全が買えるなら安いものだ。必要経費というやつだ。
ついでに普通の服屋にも寄って貰った。基本旅用の服なので、今日のように町で過ごすための服がない。俺は気にしないが、ヒカリも女の子だからたまには着飾るのもいいと思った。
ユリが率先して服を選んでくれたので、お礼にユリに服を買ってあげたら、何故かレイラたちの分まで買うことになった。解せぬ。
女性との買い物は色々と大変だと聞いていたが、これが理由か? 傍から見たら女性に囲まれてリア充っぽく見えるから、その代償を支払っていると思えばいいのか?
正直周囲の男からの視線が痛い。だが甘んじて受けるしかない。
きっと俺が彼らなら同じように見ただろうしな。だが一言言わせてもらえば、優越感なんてないんだからね!
と、現実逃避をしても仕方がないので現実に戻ろう。着飾ったヒカリの魅力は倍以上になった。心なしか嬉しそうに見える。
その視線をテーブルの上に戻すと、そこには甘味、スイーツ、甘味、スイーツと所せましにこれでもかと並んでいる。大事なことなので何度も繰り返した。
俺の目の前にはコーヒーに似た飲み物が一つ。色合いは同じだが、深みがちょっと足りないような気がする。
一口啜る傍ら、女性陣はお喋りしながら楽しそうにパクパクと食べていく。ヒカリも気に入ったのか、次々と器を空にしていっている。その小さな体の何処に消えていってるんだと思うほど食べている。
ユリも遠慮なく食べてるな。最初は遠慮していたが、一口食べたらそれがなくなった。
ここは聖都でも人気のスイーツ店という話だったし、店に入るために行列にも並びましたよ。多くの女性に囲まれてな!
救いは男が他にもいたということだ。きっとお財布要員として連れて来られたに違いない。顔引きつっていますよ? 俺ももしかしたらあんなかもしれないな。同志よ。言葉を交わすことはないが強く生きよう、お互いに。
帰るときにはお土産として、さらにケーキを購入。まだ食べるのかと思ったら、ルーさんとメイドさんたちの分らしい。流石にそれはレイラが支払ってくれた。
だってお店で食べた分だけで、そこそこ、否、かなり良い服が一着買えちゃうほどだったよ。
次の日はヒカリと二人でハウラ奴隷商会に行くことにした。場所は商業ギルドを訪れた日に聞いていたから分かる。他の町と同じように、中心部から離れた場所に店を構えているようだ。
「主、見つかるといいね」
ヒカリよ、それをフラグという。
だが昨日俺はかなりのお布施を支払った(服屋とスイーツ店で)、だから良いことがあるはずだ(あってもいいはずだ)。
「これはこれは旦那様。今日はどのような者をお探しで?」
低姿勢で話しかけてきたのは、猫背で怪しげな笑みを浮かべた男だった。名をドレット。前に会ったドレークの実の兄だと言う。うん、あまり似てないな。
「ドレークに聞いてここに来てくれたのですか。それでは少し勉強させて貰いますよ」
それが本当なら嬉しいな。
「俺たちは行商のようなことをしていて各地を転々としている。近頃物騒になってきたからな、護衛として使える奴隷を探しているがいるか?」
「そうですね。では準備をしてきますので少々お待ちください」
連れて来られたのは全部で八人。男の比率の方が多いな。元冒険者が多く、他は警備兵だったり衛兵だったりするようだ。安定した収入を得られる職業の人が何故かと思ったら、ギャンブルだったり身を崩して治療薬の支払いが出来なかったりと、色々な理由があった。
人物鑑定をしたら、そこまでレベルが高くないことも分かった。ヒカリの半分に達していない。ちなみに今のヒカリのレベルは41だ。
「他にはいないのか? 獣人やエルフは戦闘力が高いと聞くが」
「そう、ですね。いるにはいるのですが、少々問題がありまして……」
悩んだ末、ある一室に通された。
「彼女は二十日ほど前にあるルートを通じてこちらに来ました。我々が買い求めたと言うよりも、知り合いに押し付けられたというのが正しいのですが。どうにも扱いが難しく、先の場所でも色々と問題を起こしたようです」
そこは厳重に管理された、一言でいうなら牢屋。生活出来るように最低限の家具はあるが、決して快適だとは言えそうもない。ただ清潔感だけは損なわれていない。
部屋の前に来ると、ベッドに座っていたそれは威圧的に睨んできた。身動きすると、ジャラジャラと鎖の音が鳴る。
先ほど見た奴隷とは迫力が全然違う。
ヒカリが不意に手を握ってきた。
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