第70話 閑話・3

「どうしたんだ急に呼び出して」

「少し不味いことになった」

「何があった?」

「レントのギルドマスターと、君のところの商人が拘束された」

「どういう経緯で拘束されたのだ?」

「詳しいことは分からないが、虚偽の報告をして、何らかの罪を押し付けようとしたらしい」

「それはギルドマスターと家の者が、か?」

「そうだ。しかも悪いことに真偽官が出張ってきたらしい」

「真偽官が? 何故そのようなことに」

「どうやらそこで枢機卿の娘がいたらしい。彼女の要請で真偽官が呼ばれた」

「……それで拘束されてこちらに連絡がきた、と」

「そうだ。ギルドとしてすぐに衛兵の派遣をしないといけないかもしれない。君も本部に連絡した方がいい」

「そうだな……」

「これはある意味いい機会ではないか?」

「不正を正す、か?」

「ああ、確かに目に余る行為は近年増えてきている。制度の問題か、それとも職員個人の問題か、それは分からないがな」

「確かにそれはあるかもしれないな。大きくなりすぎて、モラルが低下しているのかもしれない。しかもその事を、本部の連中は理解していない」

「報告すると苦情が飛んでくるか?」

「その可能性は高い。しかし年々この手の苦情は上がっているが何の対策もしていないかったから、良い薬になってくれればいいが」

「逆に失態として責任を追及されるか?」

「なくはないが、現実問題として真偽官が出て来たのだ。例え本部が動いてもくつがえすことは出来ないだろう」

「あとは穏便にいかに済ませるか、か」

「他国の冒険者と、最低ランクの商人か。上手いこと話しをもっていけたらいいんだがな」



「大変なことになったな」

「ああ、登録して日が浅いから知識もないと思っていたら、まさかあのような要求をされるとは」

「権利の無効と白金貨一枚、か」

「ああ、これを本部に報告して、尚且つ支払わせないといけないとか。頭が痛い」

「あの冒険者たちの入れ知恵だと思うか?」

「それはないだろう。少ししか会話を交わさなかったが、特にこのことで興味があるようには見えなかったからな」

「少し考えが甘かったか」

「だな。この要求を断ることになったらゾッとするな」

「アウローラだけの問題じゃないな。商業ギルドも打撃を受けること間違いないな。まあ、もっとも今もかなりの痛手を被っているが」

「否、少し前向きに考えよう。これはある意味チャンスだ」

「確かにその通りだが。出来るのか?」

「弱音を吐いてどうする。そもそもこれは商業ギルドの問題でもあるんだぞ」

「利益を追求する商人の性、か。確かに最初に掲げた理念とは乖離かいりしているな」

「それにもしこれを断ったら、あの冒険者たちの口から話が広がる恐れがある。それなら自ら過ちを認め、率先して変わっていく姿を見せた方が、いいような気がする。もっとも家はそれでも被害が大きくなるだろうがな」

「分かった。俺も覚悟を決める。各国のギルドマスターに連絡して、現状を説明する。黙殺しろと言っても無理だろう。それに、あの者を葬り去るのは難しいだろう」

「ロード討伐か」

「ああ、知り合いのAランク冒険者に聞いたよ。ネームドモンスターと一対一で戦うことになった場合、どうするかってな」

「何て答えた」

「逃げるってな。ただの上位種だったら魔物次第で戦ってもいいが、ネームドは駄目らしい」

「笑うしかないか? それを倒す商人がいるって」

「得体が知れないな。それにギルド資格を剥奪したら、他のギルドに移籍して終わりだろう」

「今度は冒険者、か」

「それに彼の者が商業ギルドに卸したポーションも気になる。入手経路は分からなかったが、かなりの高品質だったらしい。今後入手出来るかは不明だが、その伝手を失うわけにはいかない」

「魔人の目撃だったか?」

「ああ。かなり王国は混乱したらしいからな」

「戦うための有効な道具、か。国から集めるように命じられる時が来るかもしれないと」

「本格的に黒の森侵攻が始まれば可能性としてあるだろうな。今は王国と帝国の両国が防波堤となって戦っているが、いよいよとなったら連合軍が結成されるかもしれない」

「頭が痛くなるような、話ばかりだな」

「全くだ」

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