第69話 アウローラ商会

 商業ギルドの手配された早馬の馬車で、聖都メッサに移動することになった。

 普通に使う場合は、移動する時間が短く済む分、料金も割高になるため急ぐ人か裕福な者以外はあまり馴染みがない。もちろん俺も初めて利用する。

 その馬車が計三台、列を作って走っている。

 荷台の作りが特殊らしく、揺れも殆どない。殆どないといっても、普通の馬車と比べてだが。どういう作りになってるんだ? あとで聞いてみようかな。企業秘密かもしれないけど。

 一台目にはロックたち三人と、商業ギルドが手配した護衛と料理人が。

 二台目には俺とヒカリ、レイラたちパーティーが。俺は前の馬車に乗ると答えたら、何故か却下された。

 三台目にはステート、エンリケをはじめとした例の商人たちが乗っている。牢屋仕様の馬車で、罪人扱いなので待遇は悪い。御者の隣には衛士も乗っている。心なしか揺れも酷い。

 本来なら七日かかる旅程が、三日に短縮された。

 降臨祭までは余裕があるから別に急がなくてもと思ったが、罪人たちを早めに聖都にある商業ギルドに搬送したいという狙いがあったようだ。

 牢屋を見ると、皆顔色は悪かった。同情の余地はないが。

 旅は快適で、料理人の作る料理は絶品だった。調理用の魔道具があるのは知っていたけど、はじめて扱っているのを見た。ただ魔石を燃料として使用するのと、魔道具自体がまだ量産されていないため、買うと普通に高いとのこと。

 魔力練習用で魔力を籠められる魔石を作ったが、あの魔力が自然に抜けないように作ったら燃料として使えないだろうか? イメージとしては充電池だ。

 移動中は主に学園の話を聞いたり、夜はロックたちやレイラたちの冒険譚を聞いて過ごし、短い旅はあっという間に終わった。

 聖都に到着すると早速商業ギルドに向かった。

 聖都の街並みは碁盤の目のようになっていて、区画がきれいに整えられている。建物も基本的に白色に統一されている。東西南北と中央にそれぞれ大きな教会が建っているのも印象的だ。

 何故五カ所に建てられているか聞いたら、信者が多くいるため、一カ所だとミサの日に建物に入れない人が出るからとの答えが返ってきた。

 商業ギルドに入ると、会議室に通された。そこには聖都の商業ギルドマスターであるアーサーと、聖都にお店を構えるアウローラ商会の店長クトルがいた。


「この度は家の者がご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」


 アーサーの言葉にクトルも一緒に頭を下げる。


「あの者たちはギルド資格を剝奪はくだつし、然るべき罰を与えたいと思います。またこのような事が起こらないように徹底させます」

「そもそも何故あのようなことが起こったんだ?」


 ロックがあの時の対応を思い出したのか、少し苛立ちながら尋ねた。


「私どもの商会が原因かと思います。立場を利用して無理を通そうとしたのでは、と思っています」


 アウローラ商会は国を跨いでお店を構えている。尚且つ商業ギルドに支払う登録料も多いため、それなりの発言力がある。それを悪用したのではないかと言う。

 俺は登録料を最低限の支払いで済ませていたけれど、払う人は多くを払っているようだ。正直想像出来ない。


「それは、他にもその権利を悪用している事案があるかもしれないということですの?」


 レイラの言葉に、申し訳なさそうに頷く。

 少なくとも末端の一人がこのような事を起こしたのだ、それが常態化している可能性があると言う。


「一度全ての関係者に聞き取りをして、不正をしていないかをチェックさせてもらいます。これはこの国以外で活動している者にも適用されます」


 綺麗ごとのようにしか聞こえない。そもそもその正否はどう判断するつもりなのだろうか? この国なら最悪真偽官で確認出来るが、他の国でも真偽官のような職の人がいるのだろうか?


「納得出来ませんか?」


 難しい顔をしていたからか、クトルが尋ねてきた。

 もちろん納得出来ない。違うな、信用ならないと言った方が正しいか。


「聞き取りをして、その者がもし嘘を言っていたらどうする? ギルド員との癒着もあるかもしれない。その点はギルマスはどう考えている?」

「確かにその見直しは必要になる。現に、立場あるギルドマスターの一人がそうだったのだからな」


 レイラやロックたちの立場からすると、商業ギルドの問題は商業ギルドでしっかり対処してくれと言ったところなんだろうな。

 だがこのままだと何も分からないまま幕引きの可能性もある。何故なら調査しましたと言われても、こちらには確認する手段がないのだから。


「ならこちらから要求、提案してもいいか?」

「なんでしょう」

「まず一つ。アウローラ商会は罰金を商業ギルドに支払うこと。それに伴い、登録料を多く支払うと受けることの出来る恩恵を、向こう一〇年受けることが出来ないようにしてくれ」

「そ、それは!」

「また、それによりアウローラ商会から抜ける商人がいるかもしれない。その商人たちも個人もしくは他の商会に移ったとしても、一〇年間は恩恵を受けることが出来ないように手続きをしてくれ。その際、何故そのような処置をとったかを、ギルド員全員に伝えること」


 アーサーが何事か言おうとしたが無視して言葉を続けた。


「そしてアウローラ商会には、今回俺たちに迷惑をかけたということで、迷惑料として白金貨一枚を要求する」

「し、白金貨……いくら何でもそれは暴利だ!」

「そうか? それぐらいのことを、あの、エンリケって奴らはしたぞ? 不当な依頼や、理不尽な行動。何より俺たちを貶めようとした。生温いと思うが?」

「…………」

「言葉だけじゃ分からないんだよ。俺は商人だからな。カタチで支払って貰わないことには信用出来ない。そもそもこちらに真偽官を呼ぶという知識がなかったら、犯罪者にされていた。そういうことを、あんたら商会は今まで平気でやってきたんじゃないのか?」

「……本部に相談させてください」

「俺もいつまでこの国にいるか分からないからな」

「なら、二日。否、三日後にまた商業ギルドに来てください。それまでに返答を用意します」


 話し合いが終わり、俺たちは一度商業ギルドを出た。

 ロックたちとはここで別れた。なんでも知り合いに会いに行くらしい。


「ソラ君、ほどほどにな」


 と、苦笑しながら雑踏の中に消えていった。

 あっさりした別れだけど、冒険者らしいといえば冒険者らしいのかもしれない。


「あの、良かったら家に来ませんか?」


 レイラたちとも別れようと思ったら、ヨルから提案された。この時期は宿をとるのも大変で、もしかしたら宿をとれないかもと言われた。

 少し迷ったが今回はその言葉に甘えることにした。


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