第61話 魔力講座・1

 女性が増えたため、宿屋が華やかになった。

 村の男たちもお礼にと率先して見張りなどの手伝いをしてくれる。大変そうだが、やる気に満ち満ちている。

 気の所為か乗合馬車の男たちもテキパキと働いている。

 火事場泥棒じゃないが、必要な資材を探しに家々を回っている。もちろんオークや他の魔物がいないのを十分に確認し、決められた時間で活動している。今の生活がどれぐらい続くか分からないためだ。


「え~、では魔力についての勉強会をしたいと思います」


 今いるのはブラッディーローズとヒカリに割り振られた部屋の一室。

 ヨルの積極的なアプローチに根負けし、今に至る。話を聞いてみたら魔法が好き過ぎて、魔導国家にある魔法学園に入学したほどらしい。

 学園に行く際家でかなり激しくやりあったらしいとは、トリーシャ談。

 ちなみにレイラたちはマギアス魔法学園の在校生になるらしい。

 今回は、降臨祭に参加したいというトリーシャの希望を受けてやってきたとのことだ。

 ヨルも最初は渋ったが、親友のトリーシャのために帰郷することにしたみたいだ。

 それで今気になるのが、俺の魔法の使い方らしい。ヨルの話によると俺の魔法の使い方は一般的ではないとのこと。興奮して何を言ってるのか分からなかったため、レイラに翻訳を頼んだほどだ。

 それで俺の知っている魔力について話すことになり、それならと他の面々も聞きたいとなり現在に至るわけだ。


「俺もほぼ独学だから感覚的なところになるからな、上手く伝わらなくても文句は受け付けないぞ」


 と、予防線を引くのは忘れない。


「まず俺が習った魔法だが、まず詠唱をして、それが終わったら魔法名を唱えて魔法を発動させる」


 正確には俺が習ったんじゃなくて、聞いた話になるのだが。


「はいです。そこは私たちも変わりません!」


 即答が返ってきましたよ。ヨルには一度話したからか。


「それで俺が使ってる魔法なんだが、考え方としては詠唱をすることで魔力が発生し、その魔力を魔法名を唱えることで魔法に変換している、と想像してくれ」

「なんだか難しいですわ」

「そうか? 説明が下手で悪いな」


 仕方ないので図にしたら、少しは伝わったようだ。


「それで俺が魔法で壁を作ったり強化しているのは、この詠唱で発生する魔力を魔法に変換しないで物体に流してるからなんだ」

「……魔力を流す⁇」

「出来ないか?」

「考えたこともなかったです」


 ヨルが驚きの表情を浮かべ、他の五人も分からないと言う。

 学園でもそういうことは教わってないらしい。

 そもそも魔法は詠唱から発動までが一つのプロセスらしいしな。


「イメージとしてやれそうか?」


 と、いうことで六人は早速試している。


「主、私もやりたい」


 ヒカリは前々から魔法を使いたいって言ってたからな。ただヒカリの魔力量は……前の時よりも上がっている?

 魔力察知で以前調べた時よりも大きく感じる。レベルが上がったからか?

 けど俺だと基本的なことを教えられないし、出来れば魔法のことを良く分かっている人から基本的なことを学んだ方が良いんだよな。


「どっかで魔法のことを学べるとこがあればいいんだけどな」

「それなら是非マギアス魔法学園に来てください!」


 俺の呟きにヨルが即座に反応した。


「聖王国内にはないのか?」

「正直微妙ですね。一段も二段も三段も劣ります」

「けど学園に通うとなると入学する条件とかあるんじゃないか?」

「試験は基本的な学科試験です。実技もありますが、そっちが優秀だと学費が安くなった気がします」

「そうですわね。元々魔法を学園で学ぶことが目的なのですから、最初から使える人なんて滅多にいませんわ」

「けど魔法とかって、スキルを習得して使えるようになるんじゃないのか?」

「確かにエーファ魔導国家以外の国だとそういう認識かもですわ」

「違うと?」

「はい、魔法は基礎を学べばある程度の方が使えるようになるというのが、魔導国家の長年の研究で分かっていることです。ただ必ずしも習得できるとは限りませんが」

「そっか。なら機会があったら寄ってみるのもありかもな」

「うん」


 ただそこで一年も、二年を過ごすわけにもいかない。けど目的を達成することが出来たらのんびりと通うのもありかもしれないな。


「ん~、さっぱり出来ませんわ。なんかコツとかありませんの?」


 最初に音を上げたのはレイラだった。

 お姉さん然としたしっかり者だが、実は堪え性がないのか?


「レイラはもっと頑張った方がいいぞ。これを使えるようになったら、戦闘力が格段にあがるだろうからな」

「どういうことですの?」


 食い付いた。

 実演した方が分かりやすいか。


「ちょっとレイラの剣を貸してくれるか」


 アイテムボックスから回収しておいたオークの武器を取り出す。業物ではないが、オークが使ってただけあって肉厚だ。


「例えばこのミスリルの剣でこれを斬れると思うか?」


 ミスリルの剣を受け取り尋ねる。


「それは無理ですわ。確かにミスリルは強度こそ普通の鉱石で作った武器よりも上ですが、それを斬るとなると別ですわ」

「確かにそのままだと無理だな。刃こぼれさせるぐらいは出来るかもだけどな。けどこのミスリルに魔力を流すと話は変わる」


 俺はレイラにオーク武器を渡して構えて貰う。危ないから他の皆には壁際に寄って貰うのも忘れない。

 ミスリルの剣に魔力を流す。魔力察知を発動していると、魔力がミスリルの剣本体を覆うのが目に見えて分かる。


「いくぞ」


 俺は声を掛け、軽くミスリルの剣を打ちつけた。

 ミスリルの剣は何の抵抗も感じずにオーク武器を真っ二つにした。

 欠けた先端が床に落ちる重い音だけが、静まり返った室内に響いた。

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