第60話 方針

「と、オークを倒しに行ってきたのか?」

「うん、主倒してきた」

「そっか。良くやったぞ」


 頭を撫でると目を細めて喜びの表情を浮かべる。まだぎこちなさは抜けてないが。


「抱き付き禁止ですわ。それよりも詳しく説明して欲しいですわ」


 レイラがヒカリを引き剥がし尋ねた。


「村にオークが攻めて来た。退治してきた」


 胸を張って堂々と宣言した。


「周囲にはオークはいませんの?」

「うん、いない」

「それなら村まで移動ですわ。合流してから次の話し合いをしますわ」


 二人の少女は休憩なく歩き続けることになってしまうが、もう少しだから我慢してもらおう。

 他の子たちが気にかけて手助けしてくれているようだし大丈夫そうだ。

 一つの集団となって歩く。先頭をレイラたちが、最後尾は俺とヒカリが務める。

 ヒカリは少し嬉しそうに横を歩く。色々話をしたそうだが、空気を読んで我慢しているようだ。成長したな。

 村に到着したのは日が暮れる前だった。

 相変わらず破壊の跡が残る。

 宿屋に向かうと、囲っていた壁に傷が見えるが、破損はしてないようだ。

 正面の扉が一番酷い。刻まれた痕がある。

 開閉できるように、魔力を籠めたとはいえ材料が木材だからな。仕方ない。


「姉様。無事だった?」

「タリアちゃん! 私は大丈夫ですわ。心配かけましたわ」

「うん、無事ならいい。今開けるから待ってて」


 扉が開いていく。

 門をくぐると見慣れた宿屋がそこにあった。傍らに縛られた人が二人転がっているけど、気にする必要はないか。


「ロックさん、ただいま帰りましたわ。そちらも無事で何よりですわ」

「ああ、そっちも目的を果たせたようだな。詳しい話はあとで聞かせてくれ」


 宿の中で再会した村人たちは、抱き合って喜んでいる。それは恋人だったり、夫婦だったり、兄妹だったり。もちろんそこは喜びだけでなく、悲しみの涙もある。それでも生きていることに感謝し、嬉し涙を流している。

 女性たちがゆっくり休めるように部屋割りは任せ、俺たちは外に出て話すことにした。


「まずは俺たちの方から話す。襲って来たのはオーク五体。嬢ちゃんたちの助太刀もあって倒すことが出来た」


 倒されたオークは絶賛血抜き中か。食料不足緩和に役立ちそうだ。


「その際あいつらが一五人ほど逃げて来た。そこに転がってる二人は見せしめだな。状況を理解出来ない馬鹿ともいうが」


 上から目線で助けろと喚いたようだ。救いようがないな。


「どうする? 邪魔だし処分してもいいと思うが」


 わざと聞こえる声で話しているようだ。それを聞いた二人の顔は真っ青だ。


「それは反対」


 ヒカリが異を唱えた。二人の顔に希望の色が射した。


「あれは餌にすればいい」

「何かあった時の囮ってことか?」

「そう」


 すぐに絶望に染まったが。


「ただ困りましたわ。女性を助けられたのは良かったですが、今の人数だと少し手狭になってしまいましたわ」

「それには同意だ。食料に関してはオーク肉である程度賄えるがな。前の町まで引き返すには距離がありすぎる。このまま待って次の便と合流すべきかどうかだが……」


 もともとがそれほど大きくない村の宿だ。一応町と町を繋ぐ中継点ということでそれなりの広さではあるけど、五〇人を超す人数を収容するほどのポテンシャルはない。


「シンプルに考えればいいんじゃないか? 逃げて来たあいつらはとりあえず宿の外で野営。道具ならこっちの馬車に入ってるだろう。文句があるなら出て行ってもらえばいい」

「確かにそれが一番か。宿に入ることも禁止させた方がいいかもな。揉める原因にもなりそうだし」

「二つ目は残りのオークを討伐するかどうか。住処である洞窟を潰したからな、どう動くか予想は出来るか?」

「向こうで食糧の確保をしたと考えますと、一度住処に戻ると思いますわ。あとは統率者次第ですけど、戻って来なかった仲間を探しに来る可能性はありますわ」

「お姉様そのことですが、オークジェネラルを確認しました」

「本当ですの? ……それですと第二の集落を作る可能性もありますわ」

「上位種がいるとなると行動が読みにくいな。相手も拠点を潰されたとなると警戒する可能性がある、か。数日様子をみるか」

「それが良いですわね。皆さんには説明して納得してもらうしかありませんわ」


 休んでいる女性を除き、食堂に人を集めた。今後のことについての話というか、こちらの考えを伝える。

 逃げ込んできた者たちが予想通り文句を言ってきたが黙殺した。ロックたちが前に出て脅したとも言う。取り残されていた乗客や、村人たちの冷たい視線もきいたのだろう。

 食事に関してはオーク肉を無料で提供することにした。飢えた人間は何をしでかすか分からないからな。


「余計なことは考えるな。誰か一人でも下手なことをしてみろ、連帯責任になると思え」


 ロックが最後凄んで、宿屋から追い出した。


「一応戸締りはしっかりとな。ある意味オークよりも厄介かもしれんな」


 戻ってきたロックがため息交じりにぼやいた。


「それではこれからの予定を相談しましょう」


 オークの洞窟を潰したこと。オークが住処に戻ってどう動くか。

 その動きを見て次の行動を決めることにした方が良いだろうということで、話はまとまった。

 一番良いのは次の馬車が通りかかることだ。事情を話して援軍を呼んでもらうなり出来る。

 次点でオークが攻めてきてそれを殲滅する。そうすれば憂いなく次の町へ行ける。ただし、被害が出る覚悟は必要と言い聞かせた。オークジェネラルの存在と共に。

 一番困るのはオークに動きがない時。持久戦になると苦しくなるのは間違いなくこちらだ。

 なら助けを求めに誰かを走らせるにしても、一人で行くには道中は危険だ。

 そうなるとロックたちが行く場合は三人で行ってもらうことになるだろうし、その時に村がオークに襲われたら被害が大きくなる恐れもある。

 身動きが取れなくなったのは、救出した人が予想以上に多かったことが原因だった。

 だがそれに文句を言っても仕方がないので、誰もそのことに触れることはなかった。

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