第59話 攻防戦・10(ルイルイ視点)

「どうしました?」


 あと少しで森を抜けるというところで、ヒカリちゃんが立ち止まりました。


「何か、聞こえる」


 私には何も聞こえません。タリアを見ると首を横に振ります。

 けどヒカリちゃんが無意味なことを言うとは思えません。

 私はケーシーに同調を使うことを言います。

 目を閉じ、探ります。鳥類がいれば助かりますがどうでしょう。

 ……いました。

 意識を合わせると、次の瞬間鳥の見ている景色が見えます。

 さらに深く意識を同調させて鳥の意識を乗っ取ります。

 これで鳥を操り私の意志で移動することが出来ます。

 この同調の問題点は、使用中は自身が無防備になることと、同調した対象と私との距離が離れると魔力の消費が大きくなること。特に有効距離を超過すると、魔力の消費量が一気に増えます。魔力がなくなると強制解除されて、その反動で体調が悪くなります。

 私は村のある方に鳥を飛ばします。

 騒がしい声が聞こえてきます。

 あれは……オークです。オークと戦っています。数は五体。ヨルが頑張って魔法で攻撃していますが、倒すには至っていません。

 ロックさんたちも防衛優先のようで、無理に倒そうとしていないようです。

 追い払えれば良いと思っているのかもしれません。

 ですがこのままではこちらが近付けません。

 私たち四人だけなら可能ですが、村の女性の方々が一緒だと難しいです。

 他に近くにオークがいるか調べます。

 村の周囲にはいません。

 街道の先を見ます。

 いません。

 さらに先に進みます。

 馬車の残骸が見えてきました。

 オークがいます。数は十五体。

 馬車の中身と、無数に転がる人間と、人間だった者がいます。

 あれは、一体だけオークじゃない個体がいます。

 見覚えがあります。オークジェネラルです。

 急いで合流しないといけないかもしれません。

 私は同調をきりました。


「どうだった?」


 タリアが聞いてきます。心配そうな声でです。


「襲撃を受けていました。数は五体。すぐに落とされることはないと思いますが、長引くと分かりません」


 今は魔力も残っているから大丈夫です。

 ただあの宿屋には一般の方も多くいます。何かの拍子に爆発しないとも限りません。


「私が、行く」


 ヒカリちゃんが名乗りを上げます。

 誰かが助けに行くのは賛成ですが、大丈夫でしょうか?


「私も行くよ。ケーシーとルイルイはこっちに残って。オークが来たら守ってやって」


 ケーシーを見ます。少し悩んでいるようでしたが、頷きました。


「オークを倒したら合図をお願い」

「どっちかがこっちに伝えにくる。狼煙のろしとかは目立つからやめた方がいい」


 確かにその通りです。大丈夫と思いますが、あちらにいるオークの目にとまる可能性のある行為は控えた方が良いです。

 同調して見守るには魔力が足りませんし、その間ケーシー一人にこちら側の護衛をしてもらう訳にもいきません。

 二人は装備を確認すると、連れ立って走っていきます。

 早いです。私も素早さには自信がある方ですが、あの二人には敵いません。


「お姉様が追い付いてくださると良いのですが」

「……そうね」


 ケーシーは言葉少な目な子ですが、心配しているのは伝わってきます。

 上手いこと逃げてくれれば良いのですが。

 ソラさんの魔法で入口を崩すなどすれば可能でしょうか?

 少なくとも、あれとまともに戦ってはいけないのは確かです。

 オークロード。災厄の魔物と呼ばれる魔物の一体。ダンジョンで一度会いましたが、その戦闘を見て身が竦みました。

 あの時はAランク冒険者の二つのパーティーが組んで、やっと倒しました。死者こそ出ませんでしたが、重傷者が多数出ました。

 思い出しただけであの時の恐怖が蘇ります。


「大丈夫。姉様は強いし、引き際は見誤らない」

「うん、そうです。お姉様なら大丈夫ですね」


 心配されました。

 信じましょう。

 信じて待つしかありません。

 それに私たちが不安にしていたら、彼女たちにも悪い影響を与えてしまいます。


「……誰か近付いてきています」


 森の方から気配を感じます。

 タリアほどの索敵能力はありませんが、私も気配を感じることが出来ます。

 ケーシーが回り込み前に立ちます。剣を引き抜き、警戒します。


「あれは……お姉様!」


 木を掻き分け姿を現したのはレイラお姉様でした。

 その後ろには二人の少女。ソラさんが続きます。


「良かったですわ。皆さん無事なようで」


 お姉様が笑顔です。

 いつもと変わらない笑顔です。

 喜んでくれています。

 けどそれはこちらの言葉です。

 お姉様が無事で良かったです。

 ですがあの二人の少女はどうしたのでしょう。


「お姉様、その二人は……」


 聞こうとしたら助けた女性の一人が走り寄り抱き締めました。

 目には涙があり、もう離さないというようにギュッとしています。声を殺して泣いています。


「奥に残されたのを見つけましたわ。危ないところでしたが、無事意識を取り戻してくれましたわ」


 その姿を見て、お姉様も喜んでいます。

 奥にまださらわれた方がいたなんて、気付けませんでした。

 いえ、確か洞窟から逃げる時に誰かがまだいると言っていたような気がします。


「姉様。ロードはどうしたの?」

「安心してですわ。無事倒すことが出来ましたわ」


 え、今、何て言いました。

 聞き間違いですか? 倒した?

 お姉様を見ます。ソラさんを見ます。

 何が起こったのか分かりません。

 聞きたいことが増えました。


「それでタリアちゃんとヒカリちゃんの姿が見えませんが、どうしましたの?」


 逆にお姉様に聞かれてしまいました。

 その時、何かが目の前を横切りました。


「主、おかえり」


 ヒカリちゃんが物凄いスピードで駆け抜け、ソラさんに飛び付きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る