第57話 救出・2

 息を呑んだ。

 言葉が出なかった。


「だ、大丈夫ですの?」


 最初に我に返ったのはレイラだった。

 俺もその声に我に返り、後を追う。

 そこには顔面蒼白で、最早呼吸をするのも辛そうな少女が二人いた。

 体中血まみれで、痛々しい。暴行のあとか、一人の少女の目は潰れている。

 近付いたレイラはそれを見て立ち止まり、差し出した手が途中で止まった。


「レイラ、少しどいてくれ」


 俺は二人に近付き、それぞれにヒールをかける。

 間に合うか?

 傷が瞬く間に治っていくが、反応が薄い。血を流し過ぎているのか?

 この部屋に散らばる血が全て彼女たちのものだとすると、かなりの血を失っていることになる。

 ヒールでは傷は治すことは出来るが、失った血まで回復することは出来ない。

 どうする。

 レイラを見るが、少女たちの手を握り祈るように、涙を流している。

 呼吸は安定しないで、徐々に弱くなっていく。

 俺は……

 …………

 ………………

 ……………………

 ……錬金術を呼び出した。

 項目を検索し、探す。あった。

 アイテムボックスからオークの死体を二体取り出した。

 突然のことにレイラが驚いている。何か言おうとしているようだが無視して急ぐ。

 体を割き、魔石を取り出す。

 材料は魔石と血。血液型とか大丈夫なのかと思ったが、万能増血剤とあるから気にしなくていいだろう。説明にも特に血液型云々の項目はない。

 俺は魔石に自分の血を垂らし魔力を籠める。

 二つ出来た時には、貧血で逆に俺が倒れそうになった。

 どうにか踏みとどまり、一つをレイラに渡す。


「飲ませてやってくれ」


 本来なら注射とかで注入するのが普通だが、飲ませても大丈夫とあるからいいだろう。味は……分からないが少なくとも自分で飲みたいとは思えない。我慢してもらおう。

 俺は少女を抱え、瓶の口を添えて流し込む。

 ゆっくりと、喉に詰まらせないように注意しながら飲ませる。

 瓶の中の増血剤が半分以上減った頃、少女の顔に赤みが戻ってきた。気のせいか、呼吸も安定してきているような気がする。

 休み休み、どうにか全て飲ませることが出来た。レイラの方も終わったようだ。


「今のは何ですの!」


 オークの死体を収納しているとレイラが叫び声を上げた。

 おいおい、彼女たちは今穏やかに休んでいるんだぞ。静かにしような。


「何とは?」

「えっと、ですからポーションのようなものを作った方法のことですわ。あと作ったポーションのようなものそのものもそうですわ」


 なんか変な言葉の言い回しだな。言ってることはまあ理解できたが。


「最初のは錬金術だ。あと作ったものは増血剤だ」

「錬金術? 増血剤?」

「……失った血を補充するものだと思ってくれればいい。錬金術は見たことがないのか?」


 俺も他の人がどうやって錬金術を使ってるか見たことないけどな。


「そ、そうですの。知り合いの錬金術師と違う方法だから分かりませんでしたわ」


 やはり、というか一般的な方法ではないようだ。

 詳しく聞かれたら俺はそう習ったんだと言い張るしかないか?


「とりあえずこの子たちを連れて外に出よう。起こすことは可能か?」

「よく眠っていますし無理ですわ」

「なら背負っていくか。本当はゆっくりしたいが、外に出たオークが戻ってきても困るからな」


 MAPを見る限りは大丈夫だが、眠っている間に戻って来られても困るしな。入口を塞がれたら厄介だ。


「そうですわね。洞窟から離れた方が良いのはその通りですわ」


 少女はどちらも小柄だから助かるな。

 来た道を戻り、洞窟を後にする。


「ソラはこの穴を塞ぐことが出来ますの?」


 オークの帰る場所を潰す意味もあるが、どうやら洞窟があると魔物が住み着いてしまう習性があるため、放っておくのは危険とのこと。

 俺は土魔法を使って入口を破壊する。掘り起こされないように念入りにだ。

 それから体感時間として、一時間ほど村に向かって歩いた。


「大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですわ」


 全然大丈夫じゃないな。


「今日はここまでにしよう。レイラだって疲れてるだろう。今無理して倒れられても困るからな」


 それに少女を背負って森の中を歩いているんだ。元々疲労が溜まっていたんだ。むしろ良くここまで持ったと褒めてあげたい。

 俺は土魔法を使って地面を均すと、野営の準備を行う。

 なんかレイラが呆れた表情を浮かべているが無視だ。

 シートを敷き、少女たちを寝かせる。

 ついでに鍋を火にかけ簡単なスープを作る。血抜きしてないからオーク肉は使えないから、残っていたウルフ肉と野菜を使用。味はコンソメ風でいいか。日々調味料の研究をしているからな。完成にはほど遠いが。


「少し食べておきな。そんでひと眠りして、また歩こう」

「分かりましたわ。だけど見張りを交代でしないとですわ」


 自分でも体力の限界が来ているのだろう。素直に従ってくれたが、森の中の野営ということで魔物に襲われるのを心配しているようだ。


「魔物除けがあるからそれを使うよ。今はとりあえず休もう」


 俺も正直戦闘の疲れが抜けきってないからな。血も結構失っているし。栄養を摂って、休んで明日に備えたい。

 MAPで周囲を確認する。

 出張っているオークは馬車の近くまで移動してるな。まだ接触はしていないが、襲うつもりなんだろう。

 ヒカリたちの一団も、今は動いていない。だいぶ村の近くまで移動しているが、流石に村まで歩くことは出来なかったようだ。

 考え事をしていたら寝息が聞こえて来た。

 緊張の連続だ。レイラも一息ついたことで眠気に襲われたんだろう。シーツをかけてやり、俺も一眠りすることにした。

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