第56話 救出・1

 浮遊感を覚えて、意識が覚醒していく。

 目を開けると、正面にレイラの顔があった。

 強気な瞳は鳴りを潜め、心配そうな視線を向けてくる。

 目が合った。

 ボッと、突然レイラの顔が発火したように真っ赤になった。

 何事か。と思い後頭部に柔らかい感触が。この体勢はもしかして……。

 夢かもしれない。堪能しよう。

 目を閉じて体から力を抜く。

 体を揺さぶられて無理やり起こされた。


「大丈夫ですの?」


 声を掛けられた。心配しているのか不安そうな声音だ。


「ああ、あれからどうなったんだ」


 体を起こそうとして、痛みが走る。

 ステータスを見ると、HPが危険領域に。MPは何故か大幅に回復しているな。SPも危険領域だ。自然回復向上の恩恵か、ゆっくりだが回復している。


「オークロードは倒せましたわ」


 レイラが顔を歪めた。見ると、彼女の両の掌が焼きただれていた。


「その手」

「名誉の負傷ですわ」


 レイラを鑑定すると、レベルが10以上上がっているな。

 と、言うことは止めを彼女が刺してくれたのか。発熱したミスリルの剣を手にして。

 意識を失ったあとの話を聞くと、どうやら予想通り彼女が息の根を止めてくれたらしい。最早意識があるのかどうか分からない状態のロイドから剣を引き抜き、首を斬り落としたとのこと。


「そ、それはそうと驚きですわ。仮面なんて付けてるから怪我でもしてるかと思ったのですが、そ、その。綺麗でして」


 何を言ってるんだ? 少し照れながら言う姿は可愛いと思ってしまったが。

 ん? 仮面?

 顔に手をやるとない。仮面が外れている。ロイドに殴られた時か!


「黒目黒髪は目立つみたいだからな。その、黙っていてくれると助かる」


 良い言い訳が思いつかずそんな言葉を吐いた。


「そうですの。いえ、確かにそうかもしれませんわね」


 俺は礼を言って体を起こした。仮面は、ロイドの傍らに落ちてるな。

 見ると首も転がっている。

 顔が焼きただれ、物凄い表情だ。直視すると気持ち悪くなってくるな。

 仮面を拾い装着。落ち着く~ということはないな。

 と、まだふらつくな。回復したとはいえ、MPが一度なくなったからなのか、正直体が重くて気怠い。

 ミスリルの剣も落ちているな。近付くと熱を感じる。

 俺でも火傷するかと手に持ったが、少し熱さを感じるが火傷を負うことはなかった。自分の魔法だからか?

 ただこのままじゃレイラが使えないな。熱を冷ますようなイメージで魔力を流す。

 これで大丈夫か。ふと鑑定してみたら、ミスリルの剣Lv2となっている。

 うん、見なかったことにしよう。


「無理をしてはいけませんわ。本当に、最初はもう死んでしまったのかと思うほどぐったりしてたのですわ」

「そうか。レイラが看病してくれたのか」


 なんか顔がまた赤くなったが、どうしたんだ?


「大丈夫だ。と、その前にちょっと手をだして」


 ポーションの在庫は……もう殆どないな。何かあると困るからこれは使わない方が良いな。

 レイラの差し出された手に「ヒール」をかける。

 焼きただれていた掌が、巻き戻しを見るように治っていく。何度見ても不思議な光景だ。


「どうだ?」

「だ、大丈夫ですわ。ありがとう」


 ミスリルの剣をレイラに手渡した。

 レイラはおっかなびっくり受け取った。火傷したのを思い出したんだろうな。


「それでこのオークだが、どうする?」

「どうするとは?」

「持ち帰らないのか?」

「この数を収納するアイテム袋はありませんわ。私が持っているポーチは装備と道具類を入れて一杯になりますから」

「そうか。なら俺が持っていくか」


 近付いてアイテムボックスに収納していく。ヒカリが喜びそうだが、分配はしっかりしないとだな。オーク肉はそこそこの値段で売れるらしいから。

 計二四体を収納したがまだ入るな。ポーション類の在庫が減ったのも大きいな。


「な、なんなんですのそれは。もしかして収納魔法ですの?」

「あ~、一応秘密な」


 普段はポーチなど経由で取り出しているから、アイテム袋を持っているように見せている。ただ流石にあれだけのオークの死体を収納できるアイテム袋となると、かなり高性能、高額なものになるようだからな。


「それでは私たちも戻りましょう。ケーシーちゃんたちが心配ですわ」

「待ってくれ。一応奥を確認したい」


 ロイドが出て来た洞窟の奥を指す。

 MAPでは二人の反応がある。


「そうですわ。確かにまだいるかもですわね」


 レイラと並んで奥に進む。回復してきているが、まだ歩くのが辛い。疲労ではなく、気怠さなので、ウォーキングの恩恵はないようだ。

 無言のまま歩く。

 なんか気まずい。

 もともと話すことが得意ってわけでもないしな。

 レイラもなんかソワソワしているし。話しかけようとするが、すぐにやめて口をつぐむ。正直不審者の動きだ。

 言いようのない空気は、終着点である部屋に到着するまで続いた。

 違うな。到着した瞬間、空気が吹き飛んだ。

 真っ赤な血の華に彩られた、異様な光景がそこにはあった。

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