第55話 攻防戦・8

 そもそも俺は、剣士ではない。剣は扱うが、それはスキルによるところが大きい。練度も経験も、剣を専門に扱う者にはかなわない。

 俺は言うなれば万能型。手を変え品を変えて虚を付いて戦う。器用貧乏とも言うが。

 銃を握りしめて、ロイドを見据える。今一番心配なのは、銃弾があの硬い皮膚にも通用するかだ。撃ち込むなら顔回りの目と口か? スキルの命中補正があるから狙うことは可能だが、魔法を剣で弾くほどだからな。素直に撃ったら避けられる可能性もなくはない。

 俺はジリジリと間合いを詰める。

 ロイドは頭が冷えたのか、先ほどみたいに感情に任せて襲ってこない。

 厄介な。俺はフェイントを入れながら近付く。

 剣はあくまで威嚇のために使うだけで、これで攻撃はしない。まずは一発、銃弾の効果を確認したい。と、同時に一発目は初見だから効くかもだが、二発目は効果によって警戒されるに違いない。

 それならいっそ、最初から仕留めるつもりで攻撃するべきか。

 迷いが攻撃の一歩を踏み出せない。

 だがこれ以上長引かせる気がロイドにはないようだ。消極的な攻撃を、時間稼ぎと判断したようだ。背後で徐々に回復しているレイラの存在もあるのだろう。

 俺は攻勢になったロイドの攻撃を避けて、いなす。まともに討ち合わないようにだけ気を付ける。特に今は片手だからな、まともに斬り結べば力負けする。

 踏み込みの一撃を躱して、隙が一瞬生じた。

 ここで銃の引き金を引いた。狙うは武器を持つ手と体の中心。連射、2点バーストというやつだ。

 一発目は武器で弾かれたが、二発目は被弾した。

 体を打ち抜くことは出来なかったが、ロイドの顔が痛みで歪んだ。

 表面の皮膚を突き破り、弾丸は体の中で止まっているようだ。皮膚よりも筋肉が硬いのか、それとも勢いが殺されて途中で止まったか。ダメージが入ると分かっただけでも収穫か。

 ロイドはここで初めて後方に退き、間合いをとった。


「なんだ、それは……」


 やはりこれはこの世界には無い、もしくは珍しい武器のようだ。

 異世界人がどれだけこの世界に呼ばれたか分からない以上、誰かが伝えている可能性はある。違うな。そもそも魔物に人間の知識があると考えるのがおかしいんだ。話すからつい勘違いしたが。

 しかし……その姿を見て改めて思う。

 何故ロイドは自分に刺さった剣を抜かないんだ? 引き抜いて相手の手に渡るのを防ぐためか、それとも剣を引き抜くことで出血するのを防ぐためか。見た目がシュールで、なんか違和感ある光景なんだよな。当の本人は気にした様子がないが。


「聞いてどうする? お前はここで死ぬんだ」


 銃を見せつけ挑発する。

 ロイドが悔し気に歯軋りする。


「さぁ、決着を付けようか」


 声を出し、注意をこちらに向けさせる。

 俺の狙いはシンプル。銃弾を如何にして当てるか。本当は距離をとって攻撃するんだけどな。遠距離攻撃用なのに何故か接近して引き金を引く。ただもちろん、ロイドの間合いには入らない程度に。

 それと四代目になるこの銃も、耐久力が上がったとはいえ、使い過ぎれば破損する可能性はある。残弾は、弾倉の予備があるから余裕はあるが。

 ちまちまと嫌らしく、銃弾を放っては後退。ロイドが後退したら近付いて攻撃。被弾も増えていくが、しかしロイドは倒れない。人間だったらもう倒れているだろう。それと本能か、致命傷となる攻撃は避けているのも大きい。

 頭を狙って撃ったら、普通に避けるとかどんな運動神経だよ。

 そして気になることが一つ。傷が塞がっている?

 時間の経過と共に、血が止まっている。弾痕も塞がり始めている、気がする。

 出血による活動停止は見込めない。やはりやるしかないか。

 弾を撃ちきり、弾倉を装填する。

 四代目で初めて付けた機能。フルオートシステム。間違いなく一発で壊れるだろうが、その破壊力は単発で撃つときの比ではないはず。

 俺は意を決するとロイドに向かって走る。

 剣を使って迎撃してくるが、銃を撃って攻撃を妨害する。

 そして接近したら2点バーストで武器を持つ手を吹き飛ばす。

 一瞬の間を逃さず、ここでフルオートで銃弾を撃つ。狙いは胸の中心部。魔石があると思われる位置。

 連続する銃声が洞窟内に煩いほど反響する。

 銃弾が胸を穿ち、ロイドの体を後ろへと押す。

 しかし狙いを察したロイドがすぐに防御の体勢に入る。

 弾かれた手を素早く戻し、剣の腹を盾にする。

 一度手を止めようとして、そのまま剣を撃つ。手から伝わる熱が、今止めたら銃は二度と撃てないことを伝えてきている、ような気がした。

 銃弾が剣にめり込み、ヒビを入れて、剣を途中で砕いた。

 剣が半分に割れて、胸が見える。

 俺はもう一度標準を合わせるが、弾丸は出てこない。

 弾切れ、銃身が壊れている。これは暴発しなかっただけ運が良かったのか?

 攻撃が止んだのを見たロイドは、歓喜と怒りの混ざった雄叫びを上げて、半壊した剣を振り上げ下ろす。

 下ろそうとして、腕が振り上げた状態で止まる。

 結界魔法で、腕の動きを阻害させた。

 ロイドは混乱し、動かない腕を動かそうと暴れる。

 馬鹿力め。長くは持たないな。

 だがその一瞬の阻害で一歩踏み出せる。

 狙うはミスリルの剣。それを握る。と、同時に魔力を籠める。

 魔力がミスリルの剣に注がれると、今までピクリとも動かなかったミスリルの剣を押し込むことが出来た。抵抗なく進む。

 ロイドは叫び声をあげ、さらに暴れる。

 パリンと結界の破砕される音が鳴った。

 ロイドは顔を歪めながら腕を振り下ろす。

 避けられない。

 半歩前に進み、体をロイドに密着させる。

 ダメージはこの際仕方ない。最小限に抑えるために腕の動かしにくい間合いまで詰めた。一撃入ったが、中途半端に伸ばした腕のため耐えられた。

 俺は流す魔力を変化させた。

 皮膚は硬い。筋肉も硬い。打撃も斬撃も、効きが悪い。

 だから考えていた。

 魔力を火属性に変化。


「燃え尽きろ」


 イメージはオークの丸焼き。

 そんなことを考えたからか、一瞬ヒカリの非難する顔が浮かんだ。

 炎を流し込む。内部から焼くように。

 より一層ロイドの抵抗が激しくなる。

 もはや攻撃をするというよりも、痛みにのたうち回るような感じで暴れている。

 振り回す腕が体を打つ。

 振り回す腕が頭を打つ。

 衝撃が駆け抜け、頭を揺さぶられて意識が遠のきそうになる。

 歯を食いしばり、魔力を注ぐ。

 我慢勝負だ。

 打撃でHPが。魔力でMPが消費される。

 吸い取られるようにMPが減っていくのが分かる。一緒に力も抜けていくような感じを受ける。

 この感じ、MPが尽きたかもしれない。

 それでも炎の魔力を注ぎ込む。

 まだロイドは暴れている。

 徐々にロイドの動きが鈍くなっていくような気がする。

 感覚がなくなる。

 意識が、闇に沈んでいく。

 体が支えを失い、倒れていくような感覚を最後に、俺の意識は完全に途切れた。

 

 

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