第51話 攻防戦・4

「これは厄介ですわ」


 視線の先には集落がなかった。


「あれは洞窟か?」


 岩山にポッカリと空いた穴。その両脇をかためるように立つのは見張りと思わしきオークが二体。


「洞窟内がどうなっているかですわ。ルイルイちゃん、出来ますか?」

「……駄目です、お姉様。ごめんなさい」

「いいのよ。無理言ったのは私ですわ。ひとまず離れて今後の方針を相談しますわ」


 一度離れて話し合うことにした。確かに洞窟の構造次第では、人質を救出誘導するのが困難になる可能性がある。MAPで見る限り一つのところにまとまっているわけではないようだ。といっても、二〇人ぐらいが一つのところにまとめられていて、あとは一人ずつがオークと一緒にいる。普段は牢屋にまとめていて、用がある時だけそこから出す感じか? ん、奥まったところにオーク一体と二人がいるか。


「……聞いているのですか?」


 物思いに耽っていたら、体を揺さぶられた。


「悪い、ちょっと考え事をしていた」

「全く困りますわ。大丈夫ですの? 足を引っ張らないか心配ですわ」

「気を付けるよ。それで何を話してたんだ」

「ソラさんがどんな戦闘スタイルかを聞いていたのですわ」

「ああ、ソラで良いよ。戦闘スタイルか、特に決まった戦い方があるわけじゃないんだがな。一応得意武器は剣。剣中心に投げナイフを使って戦う感じだな」

「魔法は使わないのですか?」


 不思議そうに聞かれた。魔法を使って防壁を作ったから、魔法使いのイメージが強いのか?


「戦闘で使ったのは一回だけだな。別に頻繁に戦うような旅をしてきたわけでもないし」

「そうですの。一応洞窟内ですから、使う時は注意してくださいの。広さによっては剣を使う私とケーシーちゃん、ソラは立ち回りに気を付ける必要がありますわ」

「互いに邪魔しないように、か」


 洞窟内が広くなければ、剣を振るスペースがないかもか。オークの巨体で生活してるから心配はないと思うが、注意は必要か。


「それが理解出来ているようなら大丈夫ですわ。ひとまず休みながら見張りが交代するのを待ちますわ。交代する気配がなければその時はそのまま仕掛けますわ」

「夜ならオークも寝るはず。動けば私が分かるから任せて」

「タリアちゃんにお任せですわ。ただタリアちゃんも休憩して欲しいから、その時は交代するから声を掛けてですの」


 タリアが闇の中に消えていき、緊迫していた空気が少し和らぐ。

 緊張し続けると、それだけで体力を消耗するからな。


「主、私も行く」

「休まなくて大丈夫か?」

「うん、問題ない」


 ヒカリもあとを追うように消えていった。


「大丈夫ですの?」

「ああ、心配ない。俺よりも全然しっかりしてるからな」

「……貴方達は、その、どのような関係ですの? 髪の色が同じですし、兄妹ですの?」


 髪の毛の色。そういえば、ヒカリは瞳も黒色だったな。ん?

 周囲を見る。レイラ、ケーシー、ルイルイは金髪で、瞳の色がそれぞれ微妙に違う。トリーシャとタリアも金髪で、ヨルだけは銀髪だった。

 また今まで会った人の中で、黒色の髪の毛に黒色の瞳。そんな者には召喚された同郷の人間以外に、ヒカリを除いて会ったことがない。たまたまか?


「兄妹じゃないよ。事情があって俺が引き取った」

「そうですの。事情は知りませんが、本当ならあんな小さな子を連れて来るのは反対ですわ。本人にたとえやる気があったとしても」


 善意からの言葉なんだろうな。変な喋り方と言うのは悪いかもだが、彼女のメンバーに対する接し方を見る限り、面倒見が良いのは分かる。


「心配してくれてるようだが、大丈夫だ。ヒカリはしっかりしてるし、俺よりも強いからな」


 うん、あれは信じてない目だ。けど実際、ステータスでは俺の方が上でも、戦闘経験では足元にも及ばないんだよな。


「それでレイラさんは」

「私もレイラでいいですわ」

「……レイラたちは冒険者なのか?」

「今更ですわ。冒険者でランクBですわ、って何をそんなに驚いてるのですか」

「聞いた話だから良く分からないが、ランクBといえばかなりの上級者なんだろ。もしかしてレイラたちは見た目以上に年をとってるのか?」

「失礼ですわ。私が十七歳で、他のメンバーが十五歳ですわ」

「そうなのか。凄いんだな」

「それは違いますわ。私たちのホームにはダンジョンがあるのですわ。ですから他の人たちと違って、私たちはランクが上げやすいのですわ」


 なるほど。それで全体的にレベルも高いのか。確かギルド登録は十二歳からだから、レイラで五年、他の子は三年になるのか。


「それにランクBといっても、まだまだ駆け出しですわ」

「オークとの戦闘経験はあるんだろう?」

「ええ、ダンジョンで嫌というほど戦いましたわ。ですから安心してくれて良いですわ。油断は困りますが」


 と、話をしていたら動きがあったようだ。

 タリアが戻ってきて見張りが交代したことを告げた。

 静かに休んでいたケーシーとルイルイも立ち上がり、準備をはじめた。


「いつも通り、ルイルイちゃんの狙撃で倒しますわ。一応タリアちゃんも準備をお願いしますわ」


 レイラの宣言に、二人は静かに頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る