第50話 攻防戦・3
「主、頼まれたもの」
一仕事終え、夜に備えて休憩をとることにした。
その前にポーションを作っておこうと思い、ヒカリには村人に薬草が残っていないか確認してもらっていた。
「状態は良し悪しがあるが贅沢は言えないか。それにちょうど良い実験にもなるか?」
今までポーションを作る時は、品質の良い薬草を使って作っていた。
だから実際に品質の悪い薬草を使ったら、どういうポーションが出来るかが分かっていなかった。これは確認するのに絶好の機会と言える。
早速錬金術でポーションを作る。完成したポーションの色が、薬草の品質によって違うことが分かった。そこに魔力を込める量は関係なかった。
検証は呆気なく終わり、出発の時間までひと眠りすることにした。
ん、誰かいるな。ドアの前に気配を感じる。
目を開けると同時に、ノックもせずに中に入ってくるのが見えた。
「な、な、な、何をしてますの!」
開口一番、動揺した声が出て来た。
その音に反応して、腕の中で寝ていたヒカリがもぞもぞと動き目を覚ました。
「主、うるさい」
寝惚けているのかな? 騒がしくしたのは俺ではないのだが。
「ヒカリ、そろそろ起きろ。出かける時間だ」
「ん、主とデートする」
目を擦りながら立ち上がる。まだ意識が覚醒してないっぽいな。
俺も立ち上がり、入口でフリーズしているレイラに声を掛ける。
「起こしにきてくれたのか。寝過ごしたか?」
「しょ、食事の用意が出来たのですわ。そ、それよりも男女が抱き合って寝ているなんて不潔ですわ」
良く見ると頬が朱色に染まっている。
「主のここは私の特等席。譲らない」
乗合馬車で寝る時には流石に抱き着いてこなかったが(言い聞かせた)、久しぶりに個室で休んだから抱き着いてきたんだった。
「あ~、まだまだ甘えたい年頃みたいでな」
「むう、もう立派なレディー」
「立派なレディーはそんなベタベタしませんわ」
レイラは俺から引き離すようにヒカリを抱きかかえる。潔癖症なのだろうか? それよりもレディーって言葉、こっちの世界でも使うんだな。
どうでもいいことに感心してたら睨まれた。抱き着きを止めないのは確かに俺が悪いかもだが、拒否すると悲しむからな。表情はあまり動かないけど、全身で不機嫌オーラと捨てられた猫のようなオーラを器用に出すからな。
レイラはヒカリを連れてさっさと部屋を出ていった。俺も後を追う。
夕食は既に食堂に用意されていた。レイラは傍らにヒカリを座らせると、甲斐甲斐しくお世話をしている。ヒカリはお腹が空いているのかされるままに食べている。
「ソラさんこちらにどうぞ」
俺はヨルに声を掛けられてそちらの席に座る。
食事を摂っている間、ちらちらとこちらを伺い、何やら聞きたそうにしている。理性が勝っているようで我慢している。大人な対応だな。
「そうだ。これを渡しておくよ。遠慮なく使ってくれ」
先ほど作ったマナポーションをヨルに、回復ポーションをロックに渡す。
「これは?」
「薬草があったから作っておいた。危なくなったら使ってくれ」
「ありがたく使わせてもらおう」
「あ、あの、ソラさんは錬金術も使えるのですか?」
「一応な。簡単なものしか作れないけどな」
渡したのはグレードの低いポーションだけだ。
「す、凄いです。多才です」
それでもヨルの俺に対する株はうなぎ上りのようだが。
食事を終え、レイラを先頭に宿屋を出る。村を出てからは先頭がタリアに代わる。
タリアを先頭に次にレイラとケーシーが並び、その後ろに俺とヒカリ。最後にルイルイが歩き、隊列を組んで森の中を進んでいく。
今日は曇っていて月が隠れているが、新しく覚えたスキルのお陰で苦労しない。
スキル「暗視Lv1」効果「暗闇でも見通すことが出来る」
これは暗くなると勝手に発動するスキル。レベルが上がると見通せる距離が長くなっていくようだ。熟練度も勝手に上がっていく感じか。
今までこのスキルをとってなかったのは、闇の中で活動したことが殆どなかったから気にしてなかったからだ。夜はMAPと気配遮断で魔物の位置を確認したことはあったが、実際に魔物と戦ったことはなかったからな。
今回は夜の中の行軍と、もしかしたらそのまま戦闘もあるかもということで習得しておいた。
スカウトとしての能力が高いのか、タリアの歩みは淀みなく進み、オークの集落に真っすぐ向かっている。何処を見て判断しているんだろう。
「ヒカリにはわかるか?」
「ん、地面と木に僅かな痕跡がある」
小声で尋ねたら、ヒカリは自信満々に教えてくれた。正直わからん。素直にMAPを見ての索敵の方が良さそうだ。否、学べる場にいるのだ、少しでも技を盗めるようにしよう。スキルだって万能ではないのかもしれないのだから。
ヒカリ先生の教えを受けながら、歩くこと三時間(途中休憩をはさみつつ)。オークの集落と思わしき場所に到着した。
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