第49話 攻防戦・2

「しかし無謀なことですわ。今、出発するなんて」

「どちらかが安全か考えるなら、こちらだからな」

「あらあら、良くお分かりで」

「これぐらい普通だ」


 レイラとロックが悪い笑みを浮かべている。


「主、どういうこと?」

「あくまで可能性の問題だがな。一度攻め落とした場所をすぐに攻撃する可能性は低い。もちろんそこが未攻略なら別だが、資源をほぼ回収した後だと、そこに再び訪れても旨味がないからな」

「それに加えてぞろぞろ動く獲物が支配領域に現れたのなら、強欲で働き者のオークさんなら襲撃しかねませんわ」

「本当なら少し間を持った方がいいんだがな」


 ロックの一言で、それまで黙っていた面々は顔を見合わせた。


「そ、それじゃ危ないじゃないか。助けにいかなくていいのか」

「どなたがいくのですの?」

「そもそも勝手にいったのは奴らだが?」


 二人の物言いに言葉を失う発言者。


「主、どういうこと?」

「助けたければ自分で行けばって言ってるんだよ、あの二人は」

「けどオーク退治するって言ってた」

「それはあくまで自分たちが危険に晒されてるからだな。理不尽なことを言われ続けたら、さっさと見限って自分たちだけで移動した方がいい。だって俺たちは護衛の依頼を受けた訳でもないからな」

「確かに、主とだけだったら簡単に逃げれる」


 いい加減、自分の言っていることを顧みてもらいたいな。我慢するにも限界があるんだよな。正義感を掲げるのはいいが、自分の中だけにしてもらいたい。


「それでは私たちは私たちで話し合いましょう。と、私が仕切っても大丈夫ですの?」

「ああ、特に問題ない」

「俺も構わない。意見は言わせてもらうけどな」

「……では早速。オークの拠点を叩くかどうかですが、意見があればお願いですわ」

「そこは任せる。俺たち三人は防衛が得意な方だからな」

「俺はすぐに立つならありだと思う。もちろん、オークが餌に釣られて人数を割いているならだけどな」

「なるほどですわ。そこはルイルイちゃんに情報収集をお願いしますの」

「任せてください」


 ルイルイは頷くと離れていく。何かしらの手段があるんだろう。

 俺は口を出さず、MAPでオークの動きを追うだけにした。


「仮に拠点を強襲する場合ですが……え、と」

「ソラとヒカリだ」

「ソラさんとヒカリちゃんはどうしますか?」

「拠点攻めでいいよ。守りながら戦うのは経験不足で足を引っ張りそうだから」

「では拠点を攻める場合のメンバーは、私、ケーシーちゃん、ルイルイちゃん、タリアちゃん、ヒカリちゃん、ソラさんの六名で行きましょう」

「他の二人は残るのか?」

「魔導士と神官なので、防衛の方が力を発揮してくれると思いますわ。本当は二手に分けるのもリスクがあるのですが、かといってこちらを手薄にするのも危険ですし」

「なるほど。それはありがたい。俺たち魔法は苦手だからな」

「か弱い子たちですから、しっかり守ってくださると嬉しいですわ。と、どうでしたルイルイちゃん?」

「はい、お姉様。オークの移動を確認いたしました」

「まあまあ、それでは襲撃はいつぐらいになりそうですの?」

「早ければ夜中に。遅くとも明日の昼頃には接触しそうです」

「分かりましたわ。拠点のおおよその方向はタリアちゃんが調べてくれると思いますし……先に防衛拠点を構築して休憩させてもらいますわ」

「分かった。拠点はここじゃなくてあっちの宿屋がいいだろう。そこを中心に拠点を構築したい」

「分かりましたわ。そのように皆さんに伝えてきますわ」

「なら俺も魔法で簡易な防護壁を作ろう。指示を出してくれ」


 どれぐらいの効果があるかは分からないが、やらないよりはましだろう。

 俺はロックに土魔法が使えることを伝え、ヨルと一緒にバリゲートを構築していった。彼女も土魔法が使えるそうだ。

 アイザックとドレイクは廃材を使用して宿屋の補強を、残りは手分けして荷物の移動をさせて着々と防衛の準備を進めていった。



「イメージとしては宿の周囲を壁で囲い、その反対側に穴を作りたい。出来るか?」

「分かった。深さと高さはどのぐらいがいい?」

「俺が落ちるぐらいあればいいな。高さは一階分は欲しい」


 俺はロックの指示に従い、土魔法で穴を掘ると同時に、掘った時に出た土を積み重ねて壁を作る。


「えっと、ヨルだったか? 土の防壁に強化魔法をかけることは出来るか?」


 啞然あぜんとした表情を浮かべ、作業を見守るヨルに声を掛ける。

 ヨルはビクリと体を震わせ、得体の知れないものを見るような目で見てくる。


「あ、あの……これは何の魔法ですか?」

「土魔法だが?」


 なんか驚かれた。

 時間が勿体ないので反応の悪いヨルはひとまず置いといて作業を続ける。穴、というか溝の幅は一メートルぐらいにした。

 囲いは宿屋の正面入り口のある面には壁を置かず、馬車が通れる分のスペースを作った。そこはアイザックたちに簡易の門を作って貰う。

 作業を半分以上終わらせた頃に、ヨルがおずおずと尋ねて来た。


「私はこのような魔法を使うことが出来ません。どうすれば使えるようになりますか?」


 最初何を言われているか分からなかった。

 詳しく聞いてみると、俺が使う魔法とヨルが知っている魔法には明確な違いがあることが分かった。ヨルの知る魔法とは詠唱を唱え、キーとなる呪文名を言うことで魔法を発動させる。俺のように、土をそのまま動かすことは出来ないと言う。

 それだと俺が今使っているこれは魔法ではないのか?

 そもそもロックは出来ることを前提に話しているようだったが?

 後で聞いたら、ロックも魔法について特に詳しくないため、出来るだろうという感じで希望を述べたということだった。


「それじゃとりあえず、ここの穴を水で満たすことは出来るか?」


 それならと生活魔法で水を精製して注いでいる。魔力効率は悪そうだ。

 俺はマナポーションをあおり、残りの作業を終わらせる。

 防壁を作り終わったら、それを強化するために魔力を込める。イメージは硬化。それが全体にいきわたるように流す。それが終わった頃には再びMPが枯渇していた。


「……こちらも終わりました」


 疲労困憊といったところか? 顔色も悪い。MPをかなり消費したんだろう。


「お疲れ様。マナポーションならあるが使うか?」

「大丈夫です。休めば回復するので。そ、それよりも、ソラさんはどうやって魔法を使っているのですか? この壁も、さっき触ったら固くなっています。どうやったんですか?」


 最初に感じた物静かな印象は壊れ、物凄い早口で捲し立てられた。

 なんか興奮してるのか、鼻息も荒いんだが……。

 今度時間がある時に話す約束をさせられて、この時は解放された。


 

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