第47話 聖都へ・4

 ペースを上げた甲斐があったのか、次の町に到着したのは五日後だった。

 商隊がついに追いつくことはなかった。

 到着した足で商業ギルドに報告だけはしておいた。後であることないこと言って、苦情がきても困る。もっとも暴利な値段だろうと、それを買うと了承したらそれは当人同士の問題なのだから関係ないのだが。


「次は馬車の旅?」

「ああ、今回は予約が取れたからな。出発は二日後だから、その間町を色々見て回ろうな」

「美味しいもの探す」


 いつも以上に気合が入っているのは気の所為ではないはず。

 先に宿をとって、それから町を散策した。匂いに釣られて屋台に引き寄せられたけど、夜ご飯が食べられなくなっても困るため我慢させた。

 その分珍しい果物や野菜、肉類を購入した。魚はこの町でも見かけなかった。

 翌日約束通り屋台をはしごした。美味しいものがいっぱいあり、出来ればストックしたいと思うものもあった。空間魔法が早くLvMAXにならないかな。Lv8になってから熟練度の上がりが悪く、まだまだ上がる気配がない。今のレベルだと本来一日で賞味期限を迎えるものが、ボックス内なら一五日保つようになっている。

 他には薬草と魔力草をお店で購入した。状態の良いやつばかり選んで買ったら、驚かれた。薬草の質はポーションの質にも影響があるため、出来るだけ良いものを用意する必要がある。粗悪品を使えば、どんなに腕の良い錬金術師でも高品質のポーションを作ることは出来ないのだから。

 必要物資を用意し、準備万端の状態で乗合馬車に乗った。

 出発した時に、商隊の到着が遅れていると慌てている人がいた。例の商隊の関係者だろうか?


「兄ちゃんも聖都メッサに行くのかい?」

「そのつもりだが」

「やっぱりな。もうすぐ降臨祭だからな」

「降臨祭?」

「何だ知らないのか。女神様がこの世界に降臨し、祝福を与えてくださったのを祝うお祭りだよ。国中から人が集まるのさ」

「そうだったのか。それで聖都行の馬車が多いのか」

「まあな。それに今回は新しい聖女様の認定式もあるらしいからな。前々から噂があったけど、ついに大々的なお披露目になるらしい。もっとも問題がなけば、変わらずだからこっちはおまけみたいなもんだ」


 それが本当なら早めに聖都に到着したい。宿が取れなければ野宿か? 安くて大部屋に泊まるとなったら野営した方が良さそうだが。

 もっともこちらの目的は降臨祭じゃなくて、聖都にある奴隷商だからな。いなかったらその日のうちに聖都を出ても問題ない。問題は屋台巡りをヒカリが断念してくれるかどうかだ。もちろん言えば最後は従ってくれるが、楽しみにしているのを知っているからな。最低でも一泊はしたいところだ。


 馬車の旅は順調だった。いくつかの商隊も一緒に移動してたし、護衛の冒険者もその職務をしっかりと全うしていた。

 異変が起こったのは、中継地点である村に近付いた時だった。


「おい、何か変じゃないか」


 誰かが呟いた。

 前方に見える村。本来門がある場所が壊れている。

 馬車は止まり、何人かの冒険者が先行して走った。

 他は周囲を注意深く伺っている。

 俺はMAPを表示させてあることに気付いた。

 久しぶりの乗合馬車。集団行動で油断していた。以前はチェックしていたのに、怠ってしまっていた。

 村は規模こそそれほど大きくないけど、それでも人の反応が少なすぎる。


「主、血の匂いがする」


 そして村の中には、数体の魔物の反応がある。あれはオークだ。

 現在進行形で襲われているということか?

 悲鳴が聞こえ、金属のぶつかる音がする。

 状況が分からない。

 村の中から誰かが出て来た。冒険者じゃない。ということは村人か?

 冒険者が近付き話を聞いている。顔面蒼白の村人は、体を震わせながら、それでも必死に言葉を紡いでいるように見える。

 それを聞いた冒険者の何人かが商人の元に走り、村の中に消えていく。


「主どうしたの?」

「俺たちも村に行こう。何かと戦っているようだ」

「おいおい兄ちゃん、危ない真似はやめな。こういうのは専門家に任せるのが一番だ。むしろ俺たちがいったら邪魔になるだけだぞ」

「それは大丈夫。優秀な護衛がいるので」


 ヒカリの頭を撫でながら言ったら、何言ってんだこいつ、みたいな顔をされた。

 構わず馬車から降りると二人揃って村に向かった。


「おいおい、何処行こうとしてるんだ」


 村に入ろうとしたら、冒険者に止められた。


「今戦闘中だ。危険だぞ」

「何と戦ってる?」

「……オークだ」

「数は?」

「分かっていない」

「中に入った奴らはオークを狩れるのか?」

「……数人で当たれば狩れる」


 それを聞いて無言で走り出す。背後で何事か叫んでいるけど、聞いている暇はない。


「ヒカリは右へ。家の中にいる人を保護してくれ。オークと遭遇したら撃退していい。ただし村人の安全優先だ」

「分かった。主も気を付けて」


 二手に分かれる。ヒカリなら近くに人がいれば気配で見つけてくれるはずだ。

 俺は左手側にいる村人の救出だ。近くにオークと戦っている冒険者と村人がいる。そっちを優先させた方が良いか?

 気配遮断で気配を消して近付く。視界に入っているはずなのに、戦っている三人はこちらに気付かない。剣を振り下ろし、背後から一刀。何が起こったのか分からないまま、オークは絶命した。それを見ていた三人も、オークが倒れた音を聞いてやっと我に返った。


「あ、ありがとう。助かった」

「生きている村人を探している。案内してくれ」

「わ、わかった。こっちだ」


 合流して村人を保護していく。最終的にこちらで保護出来たのは七人だけだった。ヒカリたちと合わせても一二人しか助けることが出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る