第46話 聖都へ・3
「主、食糧?」
血抜きしたウルフを見た感想がそれですか。
「昨夜こっちに流れて来たからな、確保しておいた。ウルフ肉の在庫も減ってきたからな」
「お肉大事。けど匂いがしない、不思議」
「風魔法で匂いを散らしてるからな」
「魔法便利。私も使いたい」
「今度教会に行って調べてみるか?」
「……多分無駄」
残念そうに呟いた。何かあったのだろうか?
「ヒカリ、血抜きが終わってるから解体してくれるか?」
「任せる。主には料理を任せる」
解体はするから料理をしてくれということか。
折角だし少し手の込んだ料理を作ってみるか。と、言いたいところだが材料がないから作ることはできない。品数を増やして豪華にするぐらいが関の山か。
ウルフ肉と野菜を串に交互に刺して、バーベキュー風の料理を作るか。味付けは塩コショウではなく、秘伝のタレ(未だ未完成)をふんだんに塗る。ヒカリには好評だけど、満足いく味には程遠いと俺は思っている。
「主、解体終わった」
見事な手捌きで解体を終わらせた。俺がやってたらまだ一体も終わってなかっただろう。
浄化魔法でヒカリを綺麗にしてから、素材ごとに仕分けられたものをアイテムボックスに収納した。
パンにスープ。串焼きを並べ、食べ始める。タレの味を堪能してるのか、串焼きを噛みしめながら食べてる姿が微笑ましい。
ゆっくりと食事を済ませ、MAPを確認する。ウルフの姿は森の中か。それよりも気になるのは商隊が未だ動いていない点。いつもならもう出発している時間のはず。
「主、前に何かいる」
商隊な。ただし荷馬車の幌がボロボロだったりと、以前見た面影はない。無事な馬車もいくつかあるが、被害にあった馬車の方が多いような気がする。
周囲を見ると怪我人の姿もちらほら。ポーションを使えば一発なのに、経費削減で使うのを渋っているのか? 一応神官職っぽい人も数人いるのだから、回復魔法でも良いような気がするが。
「すまない、少し良いだろうか?」
気にせず街道を歩いていたら、一人の商人から話しかけられた。
「何ですか?」
少し声が低くなった。絡まれたり、歩く速度を遅くしたりと少なからずストレスが溜まっていたから、ついつい不機嫌な声になってしまったようだ。
相手は怯んだようだが、それでも尚話しかけてきた。
「ポーションが残ってないだろうか? あるようだったら売って欲しいのだが」
その声に周囲にいた冒険者やら商人の視線が集まった。
「これだけ数がいるんだ。そっちで用意できるだろう?」
ポーションはある意味旅の必需品だ。冒険者はもちろん、商人だって万が一の場合のために持っているはずだ。
「そうなんだが……」
苦虫を潰したような表情を浮かべている。話していると徐々に怒りが蘇ってきたのか、こめかみがピクピクしている。血管がすげえ浮かび上がっている。今にも切れちゃいそうで心配になったほどだ。
そもそもの原因は昨夜起きたウルフの襲撃。まず見張りをしていた冒険者の対応が遅れて被害が出た(職務怠慢)。負傷者の治療をしつつ撃退にあたったが、ウルフの数が減らない(腕が悪いのと酒が原因)。戦いが長引き負傷者が増え、討ち漏らしたウルフによって商人や馬車にも被害がでた。結果、ポーションを使い切ってしまった、と言うことらしい。
今は回復魔法の使える冒険者のMPが回復するのを待つ傍ら、馬車の修理をしているところらしい。幸い死者は出なかったとのこと。
「困っているのは分かった。だけどそれを俺に頼む神経が分からないんだが?」
ヒカリが大きく頷き同意している。
この商人にも、この商隊の一部の冒険者がどんな態度をとったかは理解しているはずだ。
「そこを曲げて頼みたい。どうか持っていたら売ってくれないだろうか?」
頭を下げる。持っている前提で話しているんだろうな。仮に持ってないと断っても、信じてくれないだろう。それこそバッグの中身を全て調べさせろ、と言われかねない。
「そうだな。ポーション一本金貨一枚。マナポーション一本金貨五枚。それでいいなら売るよ」
「ふざけんじゃねえ。なんだその価格は。なめてんのか」
様子を伺っていた冒険者が吠えた。前に絡んできた一人だな。
「それでどうする?」
無視して商人に尋ねた。
悩んでいるのか返答が、反応がない。
「だからふざけ……」
再度冒険者が口を開いた瞬間、ヒカリが音も無く動いた。
「殺す?」
背後に回り、背中にナイフを突き付けている。
抑揚のない声が、静まり返った場に響いた。
俺は一度そちらに視線を向けて、商人に再び戻した。
商人が口を開く前に言った。
「ポーション金貨二枚。マナポーション金貨一〇枚。それなら売るよ?」
絶句してるな。だが下手な小細工をするような奴に容赦する必要はない。
「脅せば従うとでも思ったのか? 払うのか払わないのか、早く決めてくれ。もちろんカード払いは受け付けない」
「…………」
「返事がないってことはいらないってことだな。それじゃ俺たちは先を急ぐんでな」
「……ま、待ってくれ。そっちの冒険者は関係ない」
「それをどう感じるかは俺たちだ。本当に関係ないかどうかなんか、知りようがないからな。それとも脅せば、こちらが引くとでも思ってたのか?」
「わ、分かった。その値段で良いから売ってく、売って下さい」
ポーション五本と、マナポーション五本が売れた。お金は全員からかき集めてきた。金貨六〇枚が手元に残った。
「そうそう、このことはギルドにも報告させてもらう」
最後に文句を言ってきた冒険者たちを一瞥し、ヒカリを伴い歩を進めた。
心なしかヒカリの足取りが軽いように見えた。
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