第45話 聖都へ・2

「おいおい、勝手にそんなところで何やってんだよ」

「全くだ。困るんだよな、そんなところで野営されると」

「そうそう、そこは俺たちが使おうと思ってたんだ。邪魔だからどっか行けよ」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、口々に罵声を浴びせてきた。

 いつの間にか近付いてきた冒険者たちに半円状に囲まれている。


「あんたら護衛じゃないのか? こんな離れたところで護衛するのか?」

「そんなのお前には関係ないだろ。まぁ、どうしてもここを使いたいってなら、出すもん出してくれればいいけどな」


 正論を叩きつけたら、筋の通っていない言い訳が返ってきた。

 周囲を見回すが、特に止めようとする者はいない。無駄に関わってトラブルに巻き込まれたくないのか、集団の近くで野営をするのを快く思っていないかのどちらかだ。寄生虫のように見えなくもないのか?


「ああ、けど俺たちも鬼じゃねえ。払うもん払えば譲ってやってもいいぜ」


 言葉を理解出来なかったと判断したのか、再度金銭の要求をされた。

 ふざけたことを言い始めた。ヤバいな、このまま会話を続けたら、ヒカリが爆発しそうだ。

 相手の物言いに対してではなく、料理の時間が遅れるのに対してだが。食事を邪魔されたと思ったヒカリが段々と不機嫌になっていることが伝わってくる。無表情だからあいつらには伝わっていないようだ。


「そこまで固執してるわけじゃないんで移動するよ」


 ヒカリの頭を一度撫でて、道具類を片付けて歩き出す。

 馬鹿にしたように笑う者、舌打ちする者、悪意ある視線が遠ざかるまで追って来た。


「主、あんな奴らぶっ飛ばせばいい」

「そんな乱暴な言葉は使うものじゃないぞ」

「けど主良く使う」

「俺は、な。ヒカリは女の子だから気を付けないと」

「女の子だと駄目?」

「あんまり好ましくはないかな」

「むう、主は難しいことを言う」

「そうか? そうかもな」


 十分な距離をとって、野営の準備を始める。

 夜は肉多めのメニュー。パンに挟んで食べる用と、スープ用の二種類を用意する。

 料理をしている姿を眺めているヒカリの目は、なんか光輝いていた。

 配膳すると幸せそうに頬張る。よく噛んで食べるようにと、注意することは忘れない。


「主、美味しかった」


 その一言で料理した甲斐があるというもの。

 機嫌も直ったようでホッと一安心だ。

 翌日からは歩くペースを、というか歩く時間を減らした。

 昼食で商隊に追い越されてからは、先に進むことなく距離をとって後ろを歩いた。

 急ぐ旅でもないし、変に絡まれてストレスを溜めるよりはいい。

 空いた時間は鍛錬の時間にあてた。

 ヒカリを相手に模擬戦を何本かこなす。隷属の仮面で身体能力が下がったのと、俺のレベルが上がったのもあってスピードに付いていけてる。


「主、強くなってる。ずるい」


 と、可愛らしく頬を膨らませて拗ねられた。

 どうにかなだめ終わってから考えるのは、レベルアップについて。俺は普通に歩くことでスキル『ウォーキング』のレベルが上がれば、それに伴いステータスが上がっていく。ならこの世界の人たちはどのように成長しているのだろうか?

 ゲームみたいに魔物を倒すと経験値が習得されるのか、模擬戦などの鍛錬で熟練度が上がって成長するのか、謎だな。

 人物鑑定がLv4になって見れる項目は増えたが、それだけでは分からない。


名前「ヒカリ」 職業「特殊奴隷(元スパイ)」 種族「人間」 レベル「27」


 あの商隊に雇われていた冒険者のレベルを見た限りだと、Lv20を超えてたものが数人。一割もいなかった。商人に限って言えば、Lv10を超えていた者がいなかった。これが多いのか少ないのか、今度冒険者ギルドに行って確認した方が良いのだろうか? スキルの恩恵を考えれば、レベルが全てではないと思うが。



 それから二日経ったその夜。寝る前の日課でMAPの確認をしたら、複数の魔物が表示された。数はだいたい三〇匹ほど。ウルフの集団。上位種の反応はない。


「主、なんか嫌な気配がする」


 寝ていたヒカリが目を覚ました。

 かなり距離があるはずなのに。高い索敵能力を持っているのか。


「前方の商隊の集団に向かってるみたいだな」

「そう」


 それだけ聞くと再び眠り付いてしまった。

 一応こちらに流れてくる可能性もあるんだけどな。

 戦いは一進一退の攻防、が繰り広げられているようにMAP上では見えた。

 互いに数を減らさずに拮抗していた戦いだったが、一時間もすると冒険者たちがおし始めて、やがて残ったウルフは散り散りになって敗走をはじめた。

 冒険者たちはその場から動かず、誰も追撃しようとはしない。防衛優先なのだろうか?

 止めを刺さないと再襲撃の危険が増すと思うんだが。

 俺はヒカリを起こさないように立ち上がると、剣を引き抜き構えた。

 今日は月明かりのお陰で、全く見えないということはない。視界が良好かと問われれば、答えはNoだが。

 数は二匹か。逃げているからなのか前方への注意が散漫になっている気がする。

 好都合だ。ライトの魔法をウルフの鼻先に発動させた。

 眩い光がウルフたちの目を焼き、怯ませた。その隙を付き、一刀のもと切り伏せた。

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