第42話 特殊奴隷
森を
主な原因はヒカリにある。
長いこと諜報活動をしていただけあって、年齢にしたら体力はあるほうだが、連続して歩き続けるには体力が持たなかった。ちなみに年齢は十歳ぐらいらしい。
「大丈夫か?」
「うん」
「無理だけはするなよ」
口うるさく言っているのは、一度無理をして歩けなくなったからだ。
これは俺のミスでもあった。どんなに歩いても疲れないため、それを忘れて自分のペースで歩いてしまったからだ。
ヒカリは元々口数が多い方でないうえ、前の職業柄弱音を吐くことが許されなかったためか、文句も言わず歩いてしまったからだ。豆がつぶれて痛々しかったのに、それも表情に出さず我慢してしまっていた。最初ポーションで治そうとしたら、それも拒否したほどだからな。
「人が来る」
街道まで出ると、ヒカリの言う通り人の反応がちらほら見えた。
あとは街道沿いに歩いていけば町に到着するはず。MAPで確認する限り、日が暮れるまでには到着できそうだ。
「今日はのんびりベッドで休みたいな」
「私はどこでも大丈夫」
あの日以来、抱き着いてくるんだよな。ロリコンなら狂喜乱舞か? 俺的にはあと五年欲しいところだ。
通り過ぎていく馬車は、乗合馬車もあれば商隊らしいキャラバンもある。一様に俺たちを
仕方ない。今の俺は目元が隠れる仮面をしている。隷属の仮面を参考にして錬金術で作成した。森の中を歩いてる時に、素顔を晒すのは危険だと気付いたからだ。
一応偽装工作をしたが、知った人間と会えば身バレしてしまう。
なので怪しい仮面と、幼女という。怪しい二人組になってしまった。
「ソラ、それはやっぱ怪しい」
「我慢してくれ。理由は説明しただろう」
君も前まではこんな姿だったんだよ、という言葉は飲み込んだ。
いくつもの馬車に追い越されながら頑張って歩いた結果町に到着した。
門の前は混雑していたので最後尾に並び、順番を待つ。
人の往来が激しいのか、順番を待っている間にも後ろに並ぶ人が増えていく。
「次……」
呼ばれて前に出た。
「身分証はあるか?」
首を横に振ると相手の警戒が上がるのを感じた。
「身分証はない。出来ればこの町でギルドに登録したいと思っている」
背負ったバッグを見せて言う。
「あと聞きたいことがあるがいいだろうか?」
「何だ」
「この子のことだが、ここに来る途中で保護したんだがどうすればいい?」
「保護? どういうことだ。少し待て、詳しくは詰所で聞かせえてもらう」
促されて詰所に向かった。拒否権は許さない雰囲気だった。もっとも逃げるという選択肢はないのだが。
「それでは詳しく聞かせてもらおう」
「俺も良く分かってないんだが。旅の途中でボロボロの服を着たこの子を見つけたんだ。何処からきたかも分からないし、かといってそのままにしておくわけにもいかず、ここまで連れて来たんだ。どうしたらいい?」
逆に助けてくれと言いたげに門番に尋ねる。
ここで根掘り葉掘り聞かれると更なる言い訳を重ねないといけない。なので助けてオーラを出して困ってますと必死にアピール(自分の中では)。
「そうだな。一番は孤児院に預けるのが良いと思うが……」
言った瞬間、ヒカリはビクリと震え不安そうに俺の袖を持った。
それを見た門番は少し困った表情を浮かべた。職務に忠実だが、性根はお人好しなのかもしれないな。
「どうも色々と世話してたら懐かれたみたいで、どうしたらいいと思う? 確か身分証を申請するには年齢制限があったと聞いた気がする。それで……」
「町での登録があれば別だが、確かにこの子では身分証の申請は無理だろうな。少なくとも町の出入りには必要だし。嬢ちゃん、孤児院に行くかい?」
ヒカリはこれでもかと大袈裟に首を振る。
「困ったな。なあ、あんたこの町には何かあてがあってきたのか?」
「出来れば商業ギルドに登録して、何か商売をと考えている。冒険者は俺には無理そうだから」
「自分で商売をするのか。伝手がないと難しいとは思うがな……そこは自己責任だから俺が心配することじゃないが……そうだな。奴隷制度は知ってるか?」
「少しは。確か犯罪奴隷、戦争奴隷、借金奴隷があるんだよな?」
「ああ、それとは別に、特殊奴隷というのがあってな。身分証を持てない者を保護する制度なんだが。あまりこれを利用する奴はいない」
初めて聞くな、それ。
「ほぼデメリットしかないってのが一番の原因だな。内容は借金奴隷とは似てるんだがな」
説明によると特殊奴隷とは、身分保証のない未成年者を、成人して自分で身分証登録が出来るまで養ってやるというものだ。もちろん養うかわりに手伝いなど、働かせることは可能。稀に大店の商人が利用する。これは幼い頃から教育し、店のための人材を確保するという色合いが強い。
人はより良い環境を用意すれば、それを維持し、向上させようとする。ここで働けばそれが可能だ、と植え付けて逃れられないように囲う側面もあるが、当局はこれを黙認している。狙いはどうあれ、本人はそれを幸せと感じ満足してるのだから。
「わかった。それで登録してみるよ、このままじゃ離してくれそうもないからさ」
二人分の町への入場料を払い、門番に奴隷商の位置を聞いて町の中に入っていった。
「上手く誤魔化せた」
ヒカリが悪い笑みを浮かべてる。傍から見ると表情はほぼ変わってないが、これまでの付き合いで感情の動きが多少分かってきた。
「人の好い門番で良かったよ。性根の腐った奴だったらもっと色々と聞いてきただろうからな。門番としてはどうかと思うが」
「それには同意」
教えて貰った道順を進み奴隷商のある一角に行く。やはり中心地からは離れた場所にある。王国に比べると規模は小さい気がする。小さな町だからか?
「これはこれはお客様。どのような御用件でしょうか?」
俺を見て、ヒカリを見て、もう一度俺を見て聞いてきた。
「この子と特殊奴隷契約を結びたい。出来るか?」
「もちろんですとも。すぐにご用意させていただきます」
契約料の銀貨一〇枚を支払う。これは手数料というよりも、魔道具代だ。安いのはそれだけ特殊奴隷の契約が特別だからだ。
普通の奴隷が装着する首輪とは違い、黒一色の首輪に銀色の線が三本入っている。
ヒカリと一緒に魔法陣の上に乗り、奴隷商が呪文を唱える。首輪に俺の血を一滴垂らし、再度奴隷商が呪文を唱えると契約は完了した。アッサリしたものだ。
「解除する時は最寄りの奴隷商に寄ってください。どこでも可能ですので」
「分かった。あと別件なんだが、ここで獣人やエルフの奴隷は扱っているか?」
「ここでは扱っておりません。聖都にいけばいるかもしれませんが。お客様はこの国は初めてですか?」
「何故そう思う?」
「この国の人はそのようなことをお聞きしませんので。そうですね、聖王国では奴隷の扱いをあまり好まれません。理由は女神信仰が強い、からでしょうね」
「それでも禁止はされてないんだろう?」
「はい。信仰はあれど、奴隷が有用であるのはかわりありません。言葉でどんなに綺麗ごとを言っても、現実は違いますから。もちろん潔癖症な方はいるので、拒絶反応の強い方はいます」
「だから何々がいるかと問う者はいない、か」
「絶対ではありませんが。ほぼいません」
「分かった。参考になった、礼を言う」
「ではまたのご利用をお待ちします。あ、私どもの商会は別の国にもあるので、よろしくお願いします。あと、聖都にも店を構えています」
奴隷商は胡散臭い笑みを浮かべ、恭しく頭を垂れた。
俺はヒカリを伴い外に出て、掲げられた看板を見た。
そこには『ハウラ奴隷商会』と書かれていた。
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