第32話 討伐依頼・1

 翌日のギルドは重苦しい雰囲気に包まれていた。

 オーク討伐に参加した冒険者の、三割が帰らぬ人となった。

 騎士団の被った被害に比べれば幾分ましだが、知った者が突然いなくなったという現実を突きつけられて、動揺する者が多くいた。

 冒険者という職業柄、常に死が付きまとうことは理解していたが、魔人による蹂躙じゅうりんという衝撃的な出来事も原因の一端にあるかもしれない。

 魔人とは……魔王がその世に顕現した時に、同じように現れる者と言われている。

 魔王の先兵。それは三年前より魔王が復活したと神託を受けてから半信半疑だった世界に、この邂逅かいこうはある意味魔王が確実に存在しているという証明をした形になったとも言える。

 そんなギルド内の空気を読まず、平常運転な俺。鍛錬の成果を確認する意味もあって討伐依頼を受けることにした。

 やっぱりお金的にはウルフだな。素材も売れるけど、肉も料理の練習に使えるから色々な意味で美味しい。それに前回は銃を使って倒したから、今度は剣で仕留めようと思う。

 ゴブリンの方が対人の鍛錬の成果が分かるって? お金の前には些細なことさ。


「お、ソラも依頼を受けに来たのか」


 振り返ると奴がいた。呼んでもないのに現れる男、サイフォン。


「おはよう。朝食の時に会わなかったからどうしたかと思ったけど」

「……飲み過ぎた。そして怒られた……ユーノに」


 嫁さんに怒られたのか。ユーノさんは怒ると怖いって言ってたからな。あのガイツさんが。

 昨日はドラコを慰めるためにお酒を飲むとか言ってたからな、確か。


「ここに来たってことはサイフォンさんたちも依頼を?」

「ああ、やっぱ討伐の依頼が溜まってるからな。ある程度減らすまでは王都に安心して帰れないからな。それでソラは何を受けるんだ」

「このウルフの依頼」

「未知への挑戦はないのか」

「安全第一だからな」

「そんじゃ俺らはこれだな」

「勝手に決めていいのか?」

「昨日のうちに話し合ってたからな。流石にリーダーだって言っても、勝手に決めることはないさ。と、いうことで、途中まで一緒に馬車に乗っていきな」


 見るとウルフの討伐依頼を出した村は通り道になっている。偶然か? 否、そんなことはないな。顔に似合わず面倒見とかいいんだよな。モテるわけか?

 討伐依頼を受けたら喜ばれた。やっぱ滞ってるんだろうな。

 早いお昼を食べて、馬車に乗る。歩いて二日の距離が、これで今日のうちに予定の村まで到着出来る。

 移動中色々な話をした。サイフォンたちの目標はダンジョン街にいき、大金を稼いで幸せな老後を過ごすことらしい。それってサイフォンとユーノだけじゃない? と思ったら、他の三人もそんな感じらしい。自分の店を持ちたいと、ジンとガイツは言っていた。逆に俺も聞かれたので、色々な国を見て回りたいと言った。ちょっと呆れられたが、ダンジョン街でそれじゃ会うかもな、と言われた。確かエレーシア王国にはダンジョンがなかったな。

 話が盛り上がったが別れの時だ。分岐点に到着して、馬車を降りた。感謝の言葉は忘れない。サイフォンたちはさらにここから馬車で二日行ったところで、スパイダーの討伐らしい。ユーノが嫌がったが、依頼料が破格なので受けたそうだ。大きな蜘蛛とか好き好んで狩ろうとは思えないな。気持ち悪いだろう。

 俺は少し道幅の狭くなった道を歩いていった。街道に比べると舗装具合が悪い。馬車で通れないことはないが、悪路で苦労しそうだ。

 村に到着したのは日が暮れる少し前だった。

 村? だよな。

 目の前には朽ち果てた門がある。門番は……しばらく門に立ち尽くしていたら奥から一人やってきた。


「何の用だ!」


 どの村に行っても聞かれるが、冒険者らしく見えないのかな?


「ウルフ討伐の依頼で来たんだが」

「……ウルフ討伐か……」


 なんか落胆されてません。間違ったこと言ってないよな。


「ああ悪い。村長のところに案内する、付いてきてくれ」


 顔に出ていたのか、謝罪された。


「村長。ウルフの討伐依頼を受けてくれた方が来てくれた」


 奥から初老の男性が現れ、俺を見て、そして周囲を見回した。


「お一人ですか?」

「ええ、Dランク冒険者のソラです。ソロで活動しています」

「……そうですか。わざわざご苦労様です。詳しい話はランツが説明します。ランツのところに案内してください」

「はい。こちらです」


 門番に案内されて、ランツさん宅に到着。今まで村の中を歩いてきたが、なんか見られてるんだよな。村もちょっとボロボロで、ウルフに攻められたんだろうか。あの家なんか傾いてるような気がするんだよな。


「ランツさん、冒険者の方が来てくれた。ウルフの依頼の件だ」


 おう、と出てきたその人は、頭と片腕に布を巻いていた。


「ウルフ討伐だったな。この辺りの地形に関しては分かるか?」

「一応頭の中には入ってる」


 ランツの説明は分かりやすく正確だ。MAPとも一致している。むしろ気になるのは別の反応だ。


「この村の……」


 質問しようとした時、その声を遮るように複数の男女に囲まれた。MAPで近付いてきていたことは分かってましたけどね。


「なあ、あんた冒険者なんだよな」

「お願い、娘を、娘を助けて」

「頼むよ、あいつらを倒してくれよ」

「……妻がさらわれたんだ。どうにかしてくれ」

「他にはいないのか。あんた一人なのか」

「あの人の仇を、仇を……」


 ち、近い。顔が近い。それに目が怖いな。なんか狂気に目が濁っているとか、そんな感じ?


「落ち着けお前たち、俺が説明する。けど彼には無理だ」

「ランツさん、だけど」

「そもそもウルフの討伐に来たんだ。それにランクDって話だ、一人じゃあれは無理だ。お前たちは、彼に死ねと言ってるのも同じなんだぞ」

「けどランツさんだ……」


 尚も言い募る男に対して一睨み。黙らせた。怖ぇ~迫力ありすぎだろ。

 不承不承村人たちは散っていった。


「悪かったな。皆、気が立ってるんだ」

「何が原因だ。それにまるで何かに攻められたように、村がボロボロだけど」

「ああ、つい先日のことだ。と、その前に今日は家に泊まっていけ。一応宿があったが今は利用出来ないだろうからな」


 素直にお世話になることにした。

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