第30話 稽古
一日休んでギルドに顔を出した。
採取依頼は数が減っている。割高になってたから、何だかんだと手が空いている人たちが受けたんだろう。
逆に討伐系の依頼が残っている。討伐依頼は冒険者のメイン依頼ということもあって、競争率が激しい。朝早く来て取り合うほどには人気がある。血の気が多い奴がなんだかんだと多いからな。
それが残っているのはオーク討伐の弊害だろう。単純に人手不足だ。
サイフォンたちみたいに別の町から流れてくる者もいるから、完全に手が回らなくなることはないと思うけど、長引けはどうなるか分からない。
「おう、ソラも依頼を探してるのか」
「朝から元気だな。サイフォンさんはもう依頼を受けるのか?」
昨日到着してすぐ依頼を受けるとか。俺も人のことは言えないけど、元気すぎるだろう。
「さすがに今日は受けねえよ。俺一人だったら受けたかもだけどな」
豪快に笑う姿は、長旅の疲れをまったく感じさせない。
補給とかもあるし、他のメンバーは久しぶりに寄ったから町の様子を見たりしてるらしい。
「やっぱ討伐系の依頼が残ってるな」
やっぱそう思うよな。
「ソラは何か受けようと思ってるのか?」
「討伐系はあまり得意じゃないんだよな。出先で遭遇したら仕方ないと諦めるけど、わざわざ率先して戦いたいとは思わない。安全第一だよ」
一度討伐した魔物だったら安心して戦えるけど、初見の敵をわざわざ討伐しに行こうとは思えないんだよな。正直言って怖い。
「今まで何の魔物と戦ったんだ?」
「ウルフとゴブリンだな」
他にも狩ったけど苦手意識がな……。そもそも一人では狩れなかったし。
「初心者の登竜門だな。比較的戦いやすい部類に入るか。蛇とか蜘蛛とか蜂は癖があって戦いにくいしな」
蛇というのはブラッドスネイク。蜘蛛というのがスパイダー。蜂というのがキラービーのことだろう。
それぞれ特徴があるらしく、図鑑にも注意点が書かれている。
「確かにソロだと討伐系は辛いのか? 魔物との戦いなんて経験を積んで慣れてくもんだし、パーティーを組んでたら互いにカバーすることが出来るんだけどな」
「サイフォンさんたちは昔から今のパーティーでやってたのか?」
「俺とユーノがもともと組んでて、ジンたち三人と合流した感じだな。合同の討伐依頼があってな、そこで意気投合した。他だとあれだな」
ギルド掲示板の一角を指して言う。
そこにはパーティー募集の張り紙がある。メンバーの構成やスキルが書かれ、どんな人を求めているのか。自分のスキルを書き、入れてくれるところがあるか。
「けどあれって、基本その町で活動するって人のもんだろ」
「一応将来の目標ものってるぞ。ここのパーティーなんてダンジョンを攻略したいって書かれてるぞ」
確かに書いてあるな。だいたい低ランクの人が多い。
「あとはあれだな」
視線の先は……通路?
「あっちに修練所があるんだよ。いわゆる腕試しをする奴が集まってな、それがきっかけでパーティー組む奴もいるな」
交流の場になってるのか。
「ソラも探してみるか?」
「俺はいいよ。今はそこまでパーティー組もうって気が起きないし」
半分本当。もう半分は馴染んでないってのがある。
この世界に来て五十日近くになるのか? だけど地に足を付けて生きているという実感がない。外国に旅行で訪れて、珍しいものを見て回っているような感覚か。
頭では分かっているけど、まだ割り切れていない。どこかであいつらが魔王を倒し、気付いたら元の世界に戻ってるんじゃないかとか、思っている自分がいる。願っているというのが本音か。
魔法やスキルというワクワクするような要素はあるけど、生活の快適さが違う。
「これは紛れもなく現実なのにな……」
ルリカたちと出会って、一緒にいた時は確かに何か力になってやりたいと思っていた。
だけど一人になって、その時間が長くなればなるほど、その決意が揺らいでいる。
やる気になったけど、時間を置いたことでその時に抱いた熱意がなくなっていく感じだ。
「お、ガイツも来たのか」
「……用事が済んだから体を動かしに来た」
「それはちょうど良い。この迷える新人を俺たちで助けてやろうじゃないか」
物思いにふけっていたら、突然肩を叩かれた。
「何だ」
「お前は考え過ぎなんだよ。そういう時は、何も考えずに体を動かすのが一番だ。な、ガイツ」
「リーダーは考えなさすぎ。だがその意見には一理ある。鍛錬に少し付き合ってくれ。いつもの面子でやると、どうしても刺激がなくなる」
「そういうこった。いくぞ」
強引に連れていかれる。抵抗しようと思ったけど、やめた。
確かに何も考えずに体を動かすのも良いと思ったからだ。
「ガイツの盾捌きは一流だからな。まずは打ち合ってみな」
木剣を渡され、ガイツと向かい合う。
ガイツは短めの木剣と、盾を装備している。腰を落とし、攻撃を待つ構えだ。
俺は左右にステップを踏んで回り込もうとするけど、最小限の動きで常に盾が正面にくるように動く。試しに打ち込んでみたら、軽くいなされ、こちらのバランスが崩れたところを反撃してくる。
たまらず後退し、今度は力を込めて木剣を振り下ろした。
鈍い音が響いた。まるで岩を殴ったような衝撃が手に返ってきた。ピクリとも盾が動かない。見ると先ほどよりもどっしりと腰を落としている。かわりに防御に専念したためか、反撃はこなかった。
ならばと思い、力をこめた攻撃とそうでない攻撃を織り交ぜながら斬りつける。
最初は上手くかみ合い、動きの止まった一瞬で追撃を仕掛けることが出来たのに、徐々に慣れてきたのか、攻撃の質による変化に対応し反撃を仕掛けてくる。
どうにか一撃でもと思い、考えながら攻撃したが全て防がれて、やがて最後は木剣が手からすっぽ抜けて鍛錬は終了した。
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