第28話 採取依頼

 馬車に揺られながら、流れる景色を眺める。ガタゴトと木箱の鳴る音をBGMにしながら。

 馬車の荷台に乗るのは俺を含めた五人の冒険者と薬草を詰める木箱。御者台には御者と護衛の冒険者が一人ずつ座っている。


「そろそろ雨が降る時期に差し掛かるか?」

「ですね。雨の中の野営は辛いので、帰るまで持ってくれると助かりますよ」


 この世界でも雨という概念はあるようだ。今まで降られなかったのは運が良かったのか?

 今回の採取依頼は、一泊二日になった。

 薬草の採取場所が近くに複数あるため、分かれて採取することになった。

 もちろん俺は一人で採取する。それが無理なら断ると強く言わせてもらった。心証が悪くなるかもだけど、そもそも指名依頼でもないのだから選択権はこちらにある。


「明日の昼過ぎにここを通る。それまでにここに来てくれよ」


 目印の木の前で馬車が停まると、一人馬車から降りて頷く。

 馬車が見えなくなるまで見送り、早速採取するために移動する。

 一応我がままを言った自覚があるので、それなりに結果を出す必要もあるか?

 薬草の群生地までは歩いて二時間ほど。ここは草原で見晴らしがいいため、何かが近付けばすぐにわかる。逆に相手にも見つかりやすいという欠点もあるが。

 MAPを表示させ、気配察知を発動する。

 特に近くには誰もいないか。

 俺は鑑定を発動しながら草原を歩く。

 今回は薬草を中心に、魔力草と活力草を採取していく。

 元々薬草の比率が高いところなので、少し歩けばすぐ見つかる。

 そういえば根こそぎ採ってもいいと言っていたのは、雨が関係してるのか?

 薬草だって植物。水を与えれば育つのはこの世界でも同じか。

 一心不乱に採取していたら、気付いたら日の高さがだいぶ下がってきていた。

 暗くなる前に寝床の場所だけは決めておかないとかと思い出し、辺りを見回す。

 窪地でもあればいいなと探していると、良さげな場所が遠くにある。

 雨が降るかもという話だったのでシートで簡易屋根を作り、窪地を利用して雨風を防げるように設置する。

 薬草の採取状況は予定の八割をもう満たしている。

 今回は採った分だけ割高で買い取ってくれると言ってたし、時間が許す限り採取は続けるか。

 とはいえ、流石に日が暮れてきたら採取するのは難しい。生活魔法の光ではそれほど視界が確保できない。光魔法なら出来るかもしれないが。

 火を起こし、料理をする。

 鍋に水を注ぎ、スープ用に作った自作の携帯食を投入する。前日に用意しておいたのだ。パンはお店で購入したものを収納魔法に入れておいたので、それを出して食べる。流石に時間停止効果はないので、冷めているので軽く火であぶる。それだけでも味が格段に違うな。あとはそれに塩バターを塗って食べる。

 食事も終えたのであとは寝るだけ。生活魔法の浄化を自分にかけて、寝る準備に入る。

 寝る前に一応MAPを呼び出して気配察知を行う。気配察知は常に使用しているから大丈夫だと思うが、念のためにMAPを併用しての確認だ。

 すると気配察知には引っかからなかったのに、MAP上に反応がある。

 明滅して安定していないが、時々MAP上に赤い点が浮かび上がる。


「何だこれは……」


 突然の出来事に思考が止まる。

 しばらくMAPを眺めていたが、我に返って警戒のレベルを上げようとしてやめて体の力を抜いた。

 もしあれがこちらの様子を伺っている何者かだった場合、こちらが下手に警戒すると相手にも伝わる恐れがある。

 MAPを見ている限り、向こうに動きがない。

 しばらくじっとしていたらMAPから表示が消えた。

 少し考えたのち、簡易的な罠を設置することにした。これは相手を捕まえるためでなくて、接近を妨害するためのもの。一応魔物警戒してます、といった感じで違和感がないように設置する。

 あとは並列思考をフル回転させて警戒しながら寝るしかないか。


 目が覚めたのはかすかに聞こえる音が原因だった。

 浅い眠りだったためか、僅かな音でも反応したのだ。眠りが浅かったのは、謎の監察者? の存在があった。

 MAP表示をさせて気配察知を使ったが、反応はない。相手の隠密力が上なのか、本当にいないのか。そもそも昨日の反応が間違いだったのか。不気味な影を落としている。

 体をほぐし空を仰ぐ。薄暗い雲に覆われて、雨がしとしとと降っている。

 手早く食事を摂って、荷物をまとめると薬草採取に取り掛かる。

 時間が許す限り採ると決めていたが、予定数の採取を目指すことにする。

 とりあえず雨が強くならないことを祈りながら、草原を歩き回る。

 慌ただしいが、採取は雑にしない。せっかく採ったのに使えないなんてなったら目も当てられない。

 体感的にそろそろお昼か? と思い採取を終了する。

 MAP表示させても馬車などの反応がないから、約束の時間まで余裕があると思われるが、雨足が少し強くなってきたので引き上げることにした。

 合流地点の木の根元にロープを張り、シートを被せて雨よけを作る。

 地面に直接座らなくて良いように、椅子になりそうな岩石を置いてその上に座る。

 ローブを脱いで枝にかけたら火を起こし暖をとる。

 ローブは防水加工されていたため体が濡れることはなかったが、少し気温が下がっているため肌寒さがある。

 スープを温めて体の内側からも暖をとる。お腹も膨れてホッと一息。

 休んでいると表示させていたMAPに反応が。徐々に近づいてくる。


「居てくれたか。そっちも雨で早く切り上げたのか?」


 停車した馬車から御者が聞いてくる。

 どうやら約束していた時間よりも早く到着したようだ。

 肯定も否定もしないで荷物を木箱に詰める。シートとロープを回収し、ローブを纏って馬車に乗り込む。

 他の冒険者たちは疲労困憊といった感じでぐったりしている。

 話しかけて余計な体力を使わせるのも悪いと思い、軽く挨拶だけして俺は空いたスペースに座った。

 座るのを待っていたように馬車が走り出す。うん、この馬車の揺れにはどうしても慣れないな。 

 

 

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