第25話 試運転
翌日オーク討伐一行を乗せた馬車を見送り、彼らとは反対方向に歩き出した。
薬草の群生地でも、魔力草が発見され採取出来るけど、今回行く村の近くにある(それでも歩いて半日ほどの距離らしいが)薬草の群生地は、魔力草が多く採れるところで有名らしい。
普通の群生地で魔力草を採取するとなると、薬草一〇枚に対して、魔力草を一枚見付けられたらラッキーと思えというのが共通の認識らしい。
そんなことないよな、と今まで採取した感覚から思うけど、あくまで鑑定を使っているから見付けられていただけかもしれない。普通に探したことなんてないしな。
のんびりと歩いて村まで向かった。予定通り半日かけて歩いた。本来ならそれだけ歩いたら疲れるんだけどな。気配察知を発動させながら歩いたけど、森の中にウルフの気配を捉えた。数は……五匹ぐらいか?
「何の用だ?」
「薬草の採取に来ました。宿があれば泊まりたいのですが」
「分かった。ただあまり村の中をうろつくな。村の者に迷惑をかけるようなら叩き出すからな」
あまり歓迎されていないようだ。
宿は一泊銅貨一枚。部屋の大きさはベッドの他に、荷物を置く棚があるのみ。食事は質素なもの。保存食よりはましかといったレベルだ。必要以上の会話もなくて、居心地はあまり良いものではないな。
村には娯楽もなく、本当に日々を生活するだけで精一杯と言った感じだ。
「薬草さ取りに行くだか。獣さいても狩るようなことはするな。襲われた場合は仕方ねえが」
と注意を受けた。魔物も狩ることがあるようだけど、それは村に脅威があると判断されたら、それこそ村人総出で狩るようだ。
森の中に入り、まずは魔力草の採取。オーク討伐でマナポーションがある程度買い占められたようで、在庫が少なくなっていることを聞いた。俺以外にも、他の採取場所に向かうパーティーがいるとも言っていた。
採取場所には森に入ってから二時間ほどで到着。木の根が邪魔をして歩きにくかった。避けて歩くだけでも、普通なら体力を消費しそうだ。
薬草の群生地は範囲的には狭いか? 鑑定で確認すると、半分以上が魔力草だ。
若芽を除き、ある程度の魔力草を回収。取りすぎないようにだけ注意する。ある程度回収したら休憩、そして魔法を使用する。
「MAPを表示」
空間魔法がLv6になった時に使えるようになった魔法。自分が今いる場所を中心にMAPを表示する。一度に表示される範囲は小さいけど、そこから魔力を流し込むことで表示されるMAPを拡大することが出来る。
さらにこの魔法。自動マッピング機能があるため、通った所を登録してくれる。
単体で使うならギルドにある地図と変わらないから使い道がないように思われるけど、ここにさらにスキルを使うことで真価を発揮する。
代表的なのは気配察知。これを使うことで地図上に反応があったものを表示させることが出来る。その時気配察知で反応があった範囲が未登録だった場合、MAP登録されるので凄く便利だったりする。この時何も反応がなければ、登録されることはないのだが……。
ただ気配察知にも有効範囲があるため、確実なのは歩くのが一番。
「これはウルフ……数は五匹。あっちは獣か? 反応が小さいから魔物ではないはず。ウルフは森の奥だから村に被害は出ないと思うんだがな……」
狩っておくか。周囲に人もいないし、銃を試すには良い機会かもしれない。あれは銃声が大きいからな。改良がまだまだ必要だ。
気配遮断を使いながら標的に近付く。この時MAPを見ながら歩くと、木の根に足を取られたりするから注意が必要。最初は慣れなかったけれども、並列思考を使うことでこのデメリットを克服した。スキルって、本当に便利。使い方次第だけど。
ウルフに近付くが、こちらにはまだ気付いていない。
息を潜めて銃を構える。引き金をひくと反動を感じるけど、筋力のお陰か銃身がぶれることがない。ただ銃声は、うん、大きい。どれぐらい響くかは村に行った時に確認だな。噂になっているようだったら、対策を考える必要があるかもしれない。
放たれた銃弾はウルフの首に吸い込まれるようにヒット。悲鳴を上げる間もなく倒れた。
無警戒だったウルフが顔を上げて周囲を見回す。
そのうちの一体と視線が合った瞬間、引き金をひく。
銃弾はウルフが動くよりも早く到達し、眉間に穴をあけた。
次の標的に銃口を向けた時には、残ったウルフは動き出していた。
木に身を隠すもの、こちらに向かって来るもの。
銃口を向けると左右に飛び、照準を付けさせない動きを見せる。本能で危険を察知しているのか?
動きが速すぎて銃で攻撃が出来ない。
引き金をひいても、上手いこと避けられる。当たらない。
こちらも身を隠し一度離脱する。手早く装備を銃から片手剣に換える。その時気配遮断を一度解除し、再び気配遮断を発動させる。
そして木の裏から飛び出すタイミングに合わせて間合いを詰めて、剣を振るう。
出会い頭に驚いたような表情を浮かべたウルフを、一撃のもと葬り去る。
その陰から、もう一匹のウルフが飛び掛かってきた。
剣を振るうことも出来ず、剣を盾にしてウルフの攻撃を防ぐ。
ウルフは反動を利用して着地すると、すぐにこちらに向かって来る。
銃撃されることを警戒してか、小さく左右にステップを踏みながら近付いてくる。
俺は剣先を正面に向け、動きに惑わされないように構える。そこにはルリカの教えがあった。刻み込まれたとも言うのが正しいか。
最小限の動きでウルフのフェイントを殺し、逆にこちらから攻撃を誘い込むようなフェイントを入れる。
誘い込んだウルフは、簡単に倒すことが出来た。
残り一匹。残ったウルフは形勢が不利だと判断したのか、物凄い勢いで遠ざかって行くのを感じた。MAPで改めて確認すると、やがてウルフを表していた点滅がMAPの中から消えていった。
その後銃で仕留めた二匹はその場で解体した。うん、あまり上達していないな。
収納魔法のことを隠すなら、マジックバックを入手する必要があるが、あれも高いんだよな。いっそ小型のものを錬金術で作成するか?
薬草の群生地まで戻り、今日はここで野営することにした。
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