第21話 別れ
「おはよう。いよいよ出発だけど、準備は大丈夫か?」
「おはよう。ソラと違って経験豊富な私たちが準備を怠るなてありえないよ」
「けどルリカちゃん。昨日夜遅くまで何度も確認してた……」
「ちょっ、それは内緒でしょ」
二人は楽しそうに笑う。ちょっと無理してる感じがしないでもないか。
いつものように朝食を済ませ、部屋に戻る。二人は荷物をまとめて宿の店主に挨拶をしている。今日までお世話になりました、と。
二人と一緒に宿を出て、並んで集合場所に向かう。
誰も口を開かず、黙々と歩く。空気が少し重い。いつもなら軽口をきくルリカも、今日ばかりは何も言わない。
集合場所にはちらほらと人の姿があった。護衛依頼を一緒にしたランクC冒険者のパーティーの姿がある。気付いた一人が手を挙げたので、こちらも返した。
「ルリカにクリス。こういうのはちょっと気恥ずかしいけどさ、本当に色々ありがとう。俺一人だと、きっとまだ王都で配達ばかりしてた気がする。こんな遠くまで来て、色々なモノを見て、経験できたのは二人のお陰だと思う」
「な、なによ突然。ま、私たちも初心にかえることが出来て、忘れてたことを色々思い出せたからお互い様だよ」
「うん、楽しかった。不謹慎かもだけど、楽しかったよ」
不謹慎と感じるのは、きっとセラとエリスのことがあるからだろう。真剣に探さないといけないのに、優先しないといけないのに、俺に色々教えたことで遠回りしたと思っているのかもしれない。
そんなことないよと言っても、きっと二人は否定しそうだ。
「お礼というわけじゃないけど、これを受け取って欲しい」
腕輪とペンダントを取り出し、二人に渡す。腕輪はルリカ、ペンダントはクリス。
「精霊のお守りほどの効果はないけど、持っていてくれると嬉しいかな。邪魔なら装備しないでくれていいからさ」
思えば女性にプレゼントなんてこれが初めてか。下心? みたいなものがあるが、ある意味これも光物だしな。あ、もしかして重いとか言われて拒否されるか?
「あ、ありがとう」
心配をよそにクリスははにかみながら受け取ってくれて、さっそく首にかけてくれた。
「どうしたのこれ? これは魔石? 高かったんじゃないの?」
逆にルリカは懐事情を心配してきた。
「気にしなくていいよ。薬草の素材採取で稼いでいるからさ。それより大事に使ってくれたらいいよ」
早口に言った。ちょっとドキドキしてるな。手を握ると汗ばんでいるし。思っている以上に緊張しているのか? 最初に言った言葉と矛盾してる気がしたが、俺も冷静じゃないな。
「うん、ありがと。だけど私にもいいの? ここはクリスだけに上げておけばポイント高かったのになぁ」
ルリカは照れを隠すように言ったが、それでもからかう姿勢は崩さない。
俺はもう一度「大丈夫」と答えた。
「ソラは当分この国にいるの?」
「まだまだ行ったことのない町もあるからな。一応王都に戻る予定。ルートは迂回路かな? タイガーウルフが怖いんじゃないぞ。せっかくだから別の町に寄りたいんだよ」
「わかったわかった。ただ無理だけはしないようにね」
「ああ」
「今度は友達を紹介できるように、私たちも頑張るよ」
「ああ、楽しみにしてる。だから俺も安全安心をもっと~に冒険者を続けるよ」
「うんうん。無理はしちゃだめだよ。あと働きすぎもね。しっかり休むように」
いつまでも話せそう。言いたいことが、口を開けば次々と出ていく。
だけど別れの時は訪れる。時間と共に一人、また一人と馬車に乗っていく。周囲を見ると、同じように別れを告げる者、激励を飛ばす者と色々な人がいる。
「じゃ、また会いましょう」
「うん、また会おうね」
二人も馬車に乗り込み、振り返って手を振ってきた。
俺も手を振り返した。
馬車が静かに動き出す。二十日後にいはラス獣王国の地に降り立つと、言っていた。
次会うのはいつになるか。出来るだけ早く再会出来るように、色々とやらないといけないことが多いな。
俺はキャラバンが見えなくなるまで見送り、そしてギルドに向けて歩き出した。
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