第17話 護衛依頼・3
討伐したウルフの解体をしている間に、ダルトンたち商人とサイフォンが今後のことについて話し合っていた。
問題となっているのは逃げたタイガーウルフ。逃がしたのもそうだが、タイガーウルフがこんな森の浅いところまで来ているのが異常だと言う。
「今日は出来るだけ進みましょう。日が暮れても可能な限り進むつもりでいてください」
森から距離を置くために馬の脚が許す限り進むことになった。
ダルトンの号令のもと荷馬車が動き出す。
「確かにタイガーウルフが森の外周まで来るなんて異常かも。縄張り争いに負けて出てきたなら森にそれ以上の脅威となる存在がいることになるし、餌がなくて外側に来たとすると、森の生態系が崩れてるかも」
事前に調べたことによると、この森でタイガーウルフを目撃した場所は、森の奥まったところらしい。知能が高く、不利と判断したら逃走するしたたかさもあるため、狩るのが難しい魔物と言われている。もちろんタイガーウルフ自体が強いのもある。そのため毛皮は、嗜好品を好むお金持ちには高く売れるらしい。うん、あの柄、色彩はいいよね。
その日は日が暮れても、しばらくの間荷馬車は進んだ。最終的に馬の脚が停まったのでそこで野営することになった。
馬の世話をし、食事を手早く済ませると、見張りにいつもより人を割いてあたることになった。最悪明日の移動中に寝るのもよしとした体制だ。
時々遠吠えが聞こえて、その音に反応してビクッとしているのを見たが、それは仕方がなかったかもしれない。俺? 気配察知があったかぐっすり休んだ。大物なのか、考えなしなのか、二つの意見に分かれて呆れられた。
はじめて見たタイガーウルフに緊張して、疲れてたからと言い訳するはめに。
緊張に包まれながら夜が明け、口数少ないまま朝食を済ませて荷馬車は出発した。
何人かがしっかり休めなかったのか、目の下に隈をつくっていた。
ルリカとクリスも旅慣れているとはいえ、流石に疲労の色が見えたので休むように言った。
今日も幌の上にのぼり周囲を見渡す。
いつもよりも風を感じる。雲の流れも心なしか早い気がする。遠くで黒く染まった雲が見える。
そういえばこの世界に来て、今まで雨に降られたことがないことに気付いた。
雨が降りにくい地域なのか、それとも雨が降らない時期なのか、それとも雨なんて降らないのか。どれが正しいか分からない。今まで気にもしなかったことに気付いて、自分が考えている以上に色々と余裕がなかったのかもと思い知らされた。
この世界の一般常識も結構欠如してるかもな。けど気軽に聞ける内容でもないんだよな。きっと聞くと何言ってんだこいつ! みたいな目で見られるに違いない。
半日が過ぎ、森との距離が目に見えてはっきりわかると、重い雰囲気がやっとなくなった。解放された、と言った方が正しいのかもしれない。
「しかしタイガーウルフか。町に到着したら報告しておいた方がいいな。王都でもウルフの群れが出来ていた。何かの前触れかもしれん」
「ここ最近魔族の侵攻がなかったが、それが影響してると?」
「分からん。だが警戒するに越したことはないだろう。少なくとも調査隊は組んだ方がいい。討伐出来ればいいが、最悪でも奥に押し返さんと安心して通行できなくなる。一番厄介なのは、タイガーウルフが浅い場所まで出てくるような原因があった場合だな」
「最悪迂回路を通って王都まで帰らないとか」
サイフォンたちの話に耳を傾ける。
今回撃退できたのは、こちらの人数がいて、それぞれが対処出来たからだ。
これがもし自分たちだけの時に遭遇していたら、一目散に逃げていたと言う。
タイガーウルフの討伐依頼はCランクから受注出来るが、しっかりとした事前準備をしてから討伐に向かうのが普通。代表的なのは罠や魔法を利用して、逃亡出来ない環境を整えてから狩りにかかる。討伐依頼を受けた以上、狩れなかった場合ペナルティーが発生するからだ。そのため事前にタイガーウルフのことを調べていないものは、良く討伐依頼を失敗する。
「私たちだったらタイガーウルフの討伐はしないかな。名を上げるために冒険者やってるわけじゃないし。お金は貯まるだろうけど、堅実が一番よ」
とは、ルリカ談だった。
タイガーウルフと遭遇した日に無理な強行軍をしたせいか、一日に進む距離が激減した。そのため目的の町に着いたのは、予定より二日遅れた夜だった。
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