第16話 護衛依頼・2
お昼の休憩を済ませ、荷馬車が動き出す。
旅程は順調で、今のところ何も起きていない。嵐の前の静けさか? 右手には森、左手は岩山。そして森の奥深くには気配察知にひっかかる反応が多数。
距離的に肉眼で捉えることは出来ない。今、声をかければ備えることが出来る。
しかし何故分かったかと問われると、答えるのが難しい。そういうスキルを持っているから分かった、と説明しても理解されるか分からない。
否、それは言い訳だ。誰かに持っているスキルを知られるわけにはいかない。これはルリカたちでも例外ではない。
一番最初の荷馬車に乗っているレンジャー、その人に期待するしかない。
近付くに連れて反応が大きくなり、自然と武器に手が添えられた。
「おいおい、いきなりどうしたんだ。何か見つけたのか?」
と、それを見ていた御者台の隣に座る商人が声をかけてきた。
「話に聞いてた場所がもうすぐだから、つい」
だから誤魔化した。
相手も護衛任務がはじめてだと知っているから、しょうがないな、と笑った。
反応は確かにある。視界に森を捉えて改めて気配を探ると、結構森の奥の方にある。移動はしているようだが、こちら側に来る進路ではない?
気配からどうやら魔物はウルフのようだ。数的には二〇匹ほどだ。
しかしそのやり取りを見ていたルリカが、何かを感じ取ったのか警笛を鳴らす。
順に荷馬車が停止する。
その時、森の方で大きなざわめきが聞こえてきた。
進路が変わり、ウルフが一斉に森から飛び出してきた。
「ウルフか」
「魔法の準備をしろ」
「待て、何かいる。……タイガーウルフか!」
ウルフを追いかけるように、それも飛び出してきた。
ウルフよりも二回り以上も大きな大型獣。ナイフよりも大きな牙が特徴的で視線を引き付ける。だが実際に危険なのは前足の爪。盾すら粉砕すると言われている。
まだ距離はあるが速い。このままだとウルフに追いつくスピードだ。
どうやらウルフは、タイガーウルフに追われて逃げていたようだ。
「どうする?」
「魔法使いは魔法の準備。もう少しウルフが近づいたらぶっ放せ。他は迎撃準備。タイガーウルフは俺たち嘆きが受け持つ。他は打ち漏らしたウルフを狩れ」
サイフォンが指示を出していく。
特にDランク冒険者には、タイガーウルフのいない方に移動するように。相手も自分の力量は分かっているのか素直に従う。二組いるため、片方のパーティーには商人の護衛に付くように指示している。
「私たちもウルフを狩るわよ。タイガーウルフと引き離して、サイフォンさんたちが戦いやすいようにするの」
「ソラたちも商人の護衛だ。任せたぞ」
しかしサイフォンは商人の護衛をするように言ってきた。
ルリカは一瞬迷いを見せたが、リーダーの指示に従うことにした。
魔法が発動し、ウルフに襲い掛かる。風と水を中心に、比較的音量の小さな魔法を選んで攻撃している。
その間に野営の時のように荷馬車を円の形に並べて貰い、馬が興奮して暴れないように鎮静効果のある薬草を付与した。
ルリカの指示を受けて俺は幌の上にあがる。
魔法の攻撃で混乱するウルフに追いついたタイガーウルフは、大きく口を開くと喰らいついた。鋭い牙がウルフの体を簡単に貫通し、血しぶきがあがる。
ウルフは悲鳴のような声を上げ、仲間を見捨ててタイガーウルフを中心に左右に割れて逃げた。
それに素早く対応して見せたのはCランク冒険者たち。まるで未来でも読んでいたようにウルフの進行方向を塞ぎ迎撃する。いつの間にあれほどあった間合いを詰めていたのだろうか。
タイガーウルフがそれを見て獲物を奪われたと思ったのか、唸り声をあげて威嚇する。
しかし飛び掛かるよりも前に、魔法が襲う。タイミングを外して、2発、3発と魔法が飛来するが、それを何事もなくかわす。威力よりも発動を優先した、牽制用の魔法のようだ。その間にサイフォンが肉薄し、タイガーウルフに攻撃をする。
その攻撃を軽やかにかわしたタイガーウルフは、間合いに入ってきたサイフォンに狙いをつけて飛び掛かる。鋭い爪の攻撃は、盾を構えた冒険者がサイフォンと入れ替わるように前に出て防いだ。
盾特化なのか両手で盾を操り武器を持っていない。いや、違う。あれはタイガーウルフの攻撃に耐えるために、盾だけを装備している感じだ。ただ時々盾で殴りつけて、注意をひくのも忘れていない。
タイガーウルフとの戦いは膠着状態に入った。
その間に残った冒険者がウルフの討伐を行う。Cランク冒険者側は問題なく対処し、一匹ずつ確実に仕留めている。
しかしDランク冒険者があたっていたウルフは、すり抜けてこちらに向かってくる。それはタイガーウルフから逃げるためなのか、それとも追い立てられたストレスを解消するための獲物としてこちらが選ばれたのか、それは分からない。本能が非戦闘員の多い集団をかぎ分けたのか、真っすぐ突進してくる。
ウルフが勢いそのまま飛び掛かるが、ルリカはそれを躱しながら一閃。一撃で仕留める。
残り二匹はDランクパーティーが対処した。まだまだ粗削りだが、息のあったコンビネーションから、ウルフを撃退した。さすがに無傷とはいかなかったが、大きな傷を負うことはなかった。
幌の上の俺は、ウルフが接近してきたから降りようとして止められて、引き続き周囲を警戒する。肉眼で見る範囲にも、気配察知の届く範囲にも敵はいない。
残りはタイガーウルフ一匹。互いに決め手に欠けた戦いは、タイガーウルフの撤退と共に終了した。
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