第15話 護衛依頼・1
朝食を済ませ、ルリカとクリスと揃って集合場所にいく。
約束の時間よりも少し早かったけど、すでに依頼人である商人のキャラバンは待機して待っていた。
依頼人に挨拶を済ませ、護衛の冒険者と合流して最終確認をする。
今回参加する冒険者は五パーティー。ランクCが三組に、残り二組がランクD。ちなみにランクDのパーティーの片方は護衛任務が初めてと申告があった。
冒険者のリーダーは、事前に会った時に話し合い、ベテラン冒険者の「ゴブリンの嘆き」が務めることになった。何故そんな名前がパーティー名か聞いたら、駆け出しの時に先輩冒険者たちから、からかい半分で命名されたと、何かを諦めたような遠い目をして答えてくれた。
名付けられた理由は、触れてはいけない、本能がそう訴えてきた。
「それでは皆さん、よろしくお願いします」
キャラバンのリーダーであるダルトンの号令とともに荷馬車が出発した。
七台の荷馬車が並んで走り出す。
各荷馬車には二人から三人の冒険者が乗り込む。そのため俺たちはまとまって、三番目の荷馬車に乗り込んだ。
奇数番の荷馬車の幌の上には、それぞれ冒険者が上がり周囲の警戒にあたった。
俺は馬車に乗るのは初めてだったため、最初に幌の上に登って警戒にあたったのはルリカだった。はじめて馬車に乗るものは酔うことがあるかもしれないので、まずは慣れるように言われた。
確かに地球の自動車と違い、荷馬車の揺れは酷かった。
サスペンションもないし、ダイレクトに振動が伝わってくる。うん、お尻が痛い。
幸い痛むお尻は、自然回復向上の恩恵ですぐに痛みはひいていき、また痛くなるを繰り返す。これって熟練度が上がりやすくなるのか?
出発して四日間は何事もなく進み、無事中継地点である町に到着した。
ここでも取引があるため、体を休める意味を込めて一泊した。護衛の本番はこれからという意味もある。
最初の町までは、まだ王都から比較的近いから盗賊などは少ない。被害が多いと、冒険者ではなくて軍、正確には騎士団が討伐に動く可能性があるからだ。取り締まりが厳しいのだ。そのようなところでわざわざ盗賊行為を行うような、無謀なものは少ない。
また魔物の方も王都から近いため討伐依頼は多い。そのため常に増えたら狩られるため少ない。
はじめて来た町なので、クリスたちと一緒に冒険者ギルドに行ってみた。どんな依頼があるか気になったからだ。
ギルドは王都と違い、規模が小さい。依頼もそれほど多くない。
討伐依頼が少しと、町の雑用依頼があるぐらいだ。依頼が少ないからか、冒険者の数も少なく見える。
次の日の朝。日の出とともに出発した。
「これからの旅程。森の近くを通る個所がいくつかある。魔物や盗賊が出没しやすい地形になっているから注意してくれ」
ゴブリンの嘆きのリーダーサイフォンが、出発前に注意を促す。主に俺と、護衛任務初心者のランクDのパーティーの面々に。
俺は荷馬車の幌に上がり、気配察知を発動しながら周囲を見渡す。
最初のポイント箇所に到着するのは三日後だけど、それでも油断していい理由にはならない。
途中、他の商人と荷馬車とすれ違ったけど、その時が、今回の護衛はじまっていらい初めての緊張が走った。
向かってくる荷馬車は三台。それを見てこちらの荷馬車は道の脇に逸れて停止。相手の荷馬車が通り過ぎるのを待つ。
御者台には冒険者と思われる者が二人乗っている。商人の姿が見えないのは、馬車の中にいるからか?
この世界の盗賊は、旅商人に扮して近づき奇襲をかけてくる場合もあるため、顔見知りの姿が見えない限り、すれ違う商人がいた場合は警戒を怠らない。
特に荷馬車の場合、中には商品ではなく人が入っていることもある。
皆が警戒を強める中で、俺はそれほど緊張していなかった。気配察知で、荷馬車の中身が分かっていたから。だけどそれを口にすることなく、警戒している風を同じように装った。
日が暮れそうになったので、街道から離れて野営の準備をする。
俺は商人たちの手伝いで、馬の世話をする。食事と水を与え、浄化の魔法をかけてかるくブラッシングする。これで明日も頑張って歩いてくれるはず。
馬の世話の仕方を希望したのは、馬を利用して移動することになった時のための備え。希望が通ったのは生活魔法が使えたのも大きい。
ルリカとクリスは食事の用意をしている。冒険者の中で一番料理が上手かったというのもあるが、やはり女性の手作りは世界が違っても歓迎されるようだ。他に二人いる女性冒険者と一緒に今日も楽しそうに話しながら作っている(主にルリカが)。
残りは周囲を警戒する組みとテントを張る組みに分かれている。きびきびとした動作に隙はない。早く終わればその分だけ休めることが分かっているからだ。
食事中はいくつかのグループに分かれて食事をする。主に一緒に乗っている荷馬車の商人と食べるけど、ローテーションで変わることもある。食事中は商人の苦労話や、回った町の話、将来の夢など多岐にわたっているけど、色々と知らないことが聞けて楽しい一時だ。
それが終わったら交代で見張りをする。
今日は月が出ているからいつもに比べて明るい気がする。
見上げる空には星が見える。星の海に溺れる、そんな陳腐な言葉しか出てこないけど、この感動は何度見ても霞まない。
明日も何事もなければ良いなと思いながら、交代の時間までテントの中で休んだ。
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