第12話 帰還
ゴブリンの討伐部位を見せて報告したら、村長からは何度も感謝の言葉をもらった。
夜は喜びの宴に招かれて、ゴブリンの脅威から解放された村人たちからも感謝の言葉をもらった。村の子供たちからはゴブリンと戦った武勇伝を聞かれたが、無我夢中で正直良く覚えてないんだよな。
ルリカが役者顔負けの演技で、ちょっと大げさに話を誇張していたが、子供たちは目を輝かせてその話を聞いていた。大人たちも笑いながらそれを聞いていた。
村を後にし、三日の旅程で王都まで戻ってきた。その間ルリカによる木剣の模擬戦は欠かさず実行された。
「ソ、ソラさん。大丈夫ですか?」
討伐の報告をしに行ったら、ミカルから心配された。
頭に包帯を巻いているけど、傷は治っているんだよな。クリスが心配して巻いてくれたというのもあるけど、ある思惑があってそのままにしていた。
「なかなかの強敵だった。一対一なら戦えたけど、複数同時の連戦だとちょっと辛かったかな」
ゴブリンの数が依頼と違ったことを報告し、討伐部位と魔石を渡す。素材がないから買取カウンターまで行かず清算を済ませる。
「そういえば例のウルフの群れってどうなったの?」
ルリカが進展があったか聞くと、討伐は無事終了したと教えてくれた。
予想通り群れを統率していた特殊個体がいたが、ランクBとランクCの複数パーティーにより、速やかに対処したようだ。本来なら過剰戦力だが、街に近いということもあって多くの戦力を投入したようだ。早く終わらせたかったらしい。
ただ森の中の生態系が少し崩れたかもしれないので、森の奥に入るのは今はやめておいた方がいいと言われた。もちろん薬草採取の依頼を受ける場合も、注意してくださいね、と。
帰るときに何か依頼がないかを確認し、それぞれ分かれて泊まっていた宿が空いているか確認にいった。どちらも無事宿泊することが出来た。
包帯を巻いたまま戻ったら女将さんに驚かれたけど、念のために巻いているだけと説明した。
一日のんびり休み、その次の日に合流して再び依頼を探した。
初心者用の討伐依頼をルリカが見繕い、それをこなしていく。すべて朝一で出発したら日帰りで戻って来れるものを選ぶのも忘れていない。
色々な魔物を狩った。虫系の大きな魔物を見た時は、背中がぞわっとした。あれは駄目だ。けど慣れるしかない。一人だったら討伐目的じゃなかったら逃げるかもしれないけど。
動物系の魔物は毛皮が重宝されて他と比べて稼ぎが良い。癖があって倒しにくいのもいたけど、冷静に対処すれば問題なかった。肉類も食べられるものが多いので、戦闘よりもむしろ解体の方が大変だった。ルリカだけでなく、クリスの解体する姿を見ると、投げ出すこともできず黙々と手を動かした。「解体術」というスキルをとるか、ちょっと、いや、かなり本気で悩んでいる。
ちょっと遠出して、素材の採取にも出掛けた。鑑定が活躍し驚かれた。もちろん鑑定のことは内緒だから、記憶力には自信があるんだと嘘を言った。
一緒に行動していくうちに、最初は嫉妬の視線を送ってきていた男たちも、徐々に生暖かい目を向けて見守るような感じになっていった。ルリカの指導するような姿を見て、まるで弟に教える姉のように見えたようだ。時々、がんばれよ、と声をかけてくる者もいた。
色々依頼を受けたことで、懐も温まり、ギルドランクがEからDになった。同時にルリカたちのランクも上がり、Cランクになった。
それは同時に別れの時でもあったけど、ある考えが浮かんでいた。
「出発まで五日か。ゆっくり休む? それとも依頼をこなす?」
これは俺に言ったのではなくて、クリスに聞いたのだろう。
ルリカの視線の先にあるのは護衛依頼。片道十日の旅程で、馬車を持っていなくても受諾可とある。
行き先もラス獣王国方面に近いため、そのまま獣王国を目指すのだろう。
クリスは一度俺を見て、何事か考えている。クリスもランクが上がって護衛任務を受けるということは、一時的に組んでいたパーティーの解消の時だと思い出したのだろう。
「ならルリカ。その護衛依頼だけど、俺も一緒に受けることって出来るか?」
その言葉が意外だったのだろう、ルリカだけでなくクリスも驚いている。
「護衛依頼ってどういうのか分からないし、出来ればルリカたちに教えて貰いながら受けたい。勿論足手まといになると言うなら諦める」
「……私たちは前にも言ったように、そのままラス獣王国を目指すよ。そうすると帰りは一緒出来ないけどいいの?」
「ああ。街と町の間だったら乗合馬車とかも通ってるみたいだし、最悪それで戻ってきてもいい。他の町にあるギルドだとまた違った依頼があるんだろう? どんなものかも見てみたいんだよ」
「……なら三人パーティーで参加出来るか確認しよっか。中規模のキャラバンらしいし、人数は多めに募集してるようだしね」
ミカルに護衛依頼を持っていったら割と本気で心配された。ルリカたちのことは他のギルド職員はもとより冒険者たちも知っていて、ランクが上がったら他の国に移動するとも公言していたからだ。おかげで先ほどルリカたちにした説明をもう一度繰り返すはめになった。
宿への報告を済ませ、依頼人と会って詳しい内容の確認をし、必要な物資を買い求め、空いた時間は今日もレベルアップのため配達の依頼を受けた。もちろんお金はいくらあっても困らないから。
「そう言えば、こっちに来るのははじめてか?」
四つ目の依頼の配達先は、今まで足を踏み入れたことのない区域だった。
確か治安があまり良くないと聞いていたから、避けていたのもある。顔見知りにちょうど会ったから聞いてみたら、歓楽街を中心に広がっている区域だと教えてくれた。頑張ってきな、と良い笑顔を向けられた。
歓楽街…夜のお店か。昼間からもやってる店もあるらしいが。
地図を確認しながらキョロキョロしながら歩いていたら、ふと袖を引っ張られた。
ん、と目を向けるとそこには見知った人、ある意味予想外の者がそこにいた。
「ここで何してるの?」
いつもよりもワントーン低い声が耳をうつ。
困った時は質問返しだけど、ここでは悪手だ。フードで見えないけど、なんか視線から殺気? を感じる。悪いことをしてないのはずなのに、悪寒が!
「は、配達の依頼で来たんだ。クリスはどうしてここに?」
どもった。得体の知れない緊張感で、口の中が乾く。
「私は人探し」
「人探し?」
「そう……ここだと人の目に付くから、別のところで話します」
「それなら少し待っててもらっていいか? これ置いてくるから」
歩き出したらクリスがついてきた。いや、本当に配達ですよ。変なお店には行きませんよ。
無事配達は終わった。受取人からは奇異の目で見られた。
歩いた距離は短かったけど、どっと疲れた。
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