第11話 ゴブリン討伐2
朝食を済ませ、移動を開始する。
遠くに見えていた山の形は相変わらず変わらない。見通しのいい草原が続くだけなので、歩いていると飽きを覚えてくる。
それを紛らわすために話しながら歩くけど、警戒は怠らない。もちろん気配察知も使っている。
旅程は予定通り進み、二日後には無事村に到着した。
その間、見張りは一人体制になった。慣れてきたのもあるけれど、クリスの負担が大きいようだったので進言した。並列思考による気配察知の効果を試したかったというのも大きい。
「なんだあんたら。この村に何か用か?」
「ギルドからゴブリン討伐の依頼を受けた冒険者よ」
警戒する門番に、ルリカがギルドカードを提示して要件を伝えると、人を呼び、交代すると村長の家まで案内してくれた。ただ案内中、どこかその門番は落ち着きがなく、そわそわしていた。
「あとは村長から話をきいてくれ」
と、村長を呼んでくると逃げるように去っていった。
「冒険者の方ですか……」
村長の謝罪からはじまった説明によると、ゴブリンの被害によりギルドに依頼した当初は、確認できていた数も少なく一〇体ほどと報告していた。
ただここ最近、村を襲ってくる頻度が増えてきて、その数が予想より多いことが分かったらしい。
「少なくとも二〇体以上はいると?」
「はい。ゴブリンを見つけてから村を囲む柵などを補強したので、なんとか防ぐことはできていたのですが……ただ完全に防ぐことが出来ず、危ない時は家畜を放ったりしてどうにか今日まで保つことが出来ました」
「前回はいつ襲われたの?」
「二日前になります。最初は自分たちで倒すことも出来ていたのですが、数が多く、こちらの被害が大きくなると防戦一方に」
「そっか。なら今日は先に休ませてもらうよ。今から森に入ると夜になるから、入るなら朝の方がいい。もし今日、襲撃されるようなら起こしてくれていいから」
「あ、あの。依頼料の方なのですが……」
「気にしないで、と今回は言っておくけど。依頼料を出し渋ると怒って帰る冒険者もいるから注意してね。こっちも命をかけてるし、場合によっては狩れないと判断する場合だってあるから」
「はい、ありがとうございます」
その日の襲撃はなかった。ただ村を遠巻きに見る群れの反応を気配察知が捉えていた。
「ゴブリンを見たってところを見てくるけど。すれ違うこともあるから警戒だけは怠らないようにね」
ルリカが門番に忠告すると、重々しく頷いていた。
「先頭は私が行く。クリスは真ん中で、ソラは背後を警戒しながら付いてきて。来る間にも説明したけど、ゴブリンは
弱いゆえに、生き延びるために知恵をつける。これがオークなどの力が強い魔物ならその圧倒的な力で突貫してくるが、ゴブリンはそれがないため搦手を使ってくる場合がある。もちろん個体差があるため、オークすべてが脳筋なわけではないが。
歩いていると、気配察知の範囲気に一匹のゴブリンを捉えた。近づいていく。
あと少しというところでルリカが立ち止まりハンドサインを送ってきた。
俺が先頭を歩き、クリスがそのあとに続く。ルリカは気配を消して離れていく。
気配察知にゴブリンは捉えているけど、一応周囲に注意を向けながら歩く。怖いのは罠。足元だけでなく木の枝にも気を付ける。
一歩一歩進むことでゴブリンに近づく。肌でその存在感を感じるところまで来た時、大きな木の裏側に身を隠していたゴブリンの反応が、気配察知から消えた。
剣を構えた先には、背後から一突きしたルリカの姿がそこにあった。
「私はこのまま別行動するから、二人はそのまま先に進んで。急ぐ必要はないからゆっくりね。ただ朝注意したところより先には進まないように」
言葉を残すとルリカが走り出す。早い。
俺はクリスを気にしながら、ゆっくりした歩で進む。
目的の場所まで来る間、それからゴブリンの気配が五つ消えた。こちらは一度も戦闘していない。残りは集団で固まっていて、約二〇体ほど残っている。
だいたい村長の話通りの数か?
「ちょっと開けたところにいるね。数は二〇体ぐらいかな? まず私が右側から姿を現して注意をひくから、クリスが魔法で攻撃して。同時に私は突撃するから、一拍置いてソラも突撃して。ゴブリンは小ぶりだから、大振りしないようにね」
配置に付いたルリカから合図が来た。
同時にクリスが詠唱を開始する。
クリスの詠唱が終わる直前、ルリカが飛び出しナイフを
ゴブリンの意識がルリカに向いた瞬間、背後からクリスの範囲魔法がさく裂した。今回は森ということもあって、風の魔法トルネードを使用していた。火の属性魔法の方が威力はあるけど、森の中ということもあって今回は控えたのだ。
おっと、見惚れている場合じゃない。混乱するゴブリンの群れに突撃をかける。
ゴブリンは背が低くて子供のように見えるけど、成人男性と同じか、それ以上の腕力を持っている。侮ることなかれ。
間合いをつめて、一撃、二撃と急所をついて倒す。勢いそのまま三撃目を放とうとして、慌てて回避行動にうつる。二体のゴブリンが左右から同時に攻撃してきた。
一体の攻撃をはじいて体制を崩し、もう一方のゴブリンを切り裂く。
次の獲物を探し、クリスを狙うアーチャーの姿を視界に捉えた。
倒したゴブリンが持っていたこん棒を投げる。当たらなくても注意を逸らすことが出来ればいいと思った。
足元に落ちたこん棒の音に、クリスを狙っていた矢が逸れる。次を構える前に近づき切り裂いたと同時に、死角からの打撃を受けた。衝撃は少しあったけど、服の効果で緩和される。
それからは乱戦だった。囲まれないように立ち位置だけ気を付けて、倒すことよりも防ぐことに重点を置いて戦った。その間に、ルリカが、クリスが数を減らしていってくれた。
そして最後のゴブリンがクリスの魔法で倒されて、長いようで短いゴブリンとの戦闘は終了した。
そうと理解した時、体が崩れ落ちた。ダメージを負ったわけでもないのに、体から力が抜けていった。呼吸は荒く、体中から汗が噴き出していた。
「お疲れ。と、ちょっと怪我してるじゃないか。大丈夫?」
言われてこめかみを手で触ると、血で真っ赤になった。
ただ痛みはそれほど強くなく、血が出ているけど大きく切れているわけでない。攻撃を受けた記憶もないので、掠って切れたようだ。
「掠って切れただけだから大丈夫だ」
「そっか。クリスは治療してやって。ああ、回復魔法は使わなくていいからね」
クリスは傷口に浄化をかけて、消毒すると包帯を巻いてくれた。
小さな傷なら、回復魔法で治すよりも自然に治るのを待つ方が良いという。ダンジョンや急を要する場合は別だけど、今回はこれで終わりだから自然治癒に任せた方が良いと説明された。
「うんうん。クリスは治療が上手いから安心だね。それじゃゴブリンの討伐部位と魔石を回収して、あとは燃やしちゃおう」
ゴブリンは耳が討伐部位で、売れる素材はない。なので魔石を回収したら、あとは燃やすのが普通。下手に死体をそのままにすると、アンデッドになったり、死体に引き寄せられて他の魔物が住み着いてしまうことがあるため、それを防ぐためだ。
最後死体をまとめてクリスの魔法で燃え尽きるのを確認し、依頼の報告をしに村に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます