第9話 ゴブリン討伐・1
「これか~。まだ残ってたか」
ルリカが一枚の依頼書の前で唸っている。
肩越しに見ると、近くの村からのゴブリン退治の依頼だった。
ゴブリンはスライムと並ぶ最弱の魔物とされていて、初心者が最初に戦う魔物の代名詞とされている。魔石以外は素材にならないので稼ぎとしては微妙。だけどリスクなく狩れて経験を積むにはもってこいの魔物だ。
それが五日前から張り出されているにもかかわらず、誰も受けようとしない。
理由は単純。村までの距離だった。
王都からだと歩いて三日。馬車を利用すれば一日で行ける。ただし馬車を借りると依頼料がほぼ相殺されて、下手をすると赤字になる。
自分たち専用の馬車を持ってれば問題ないけど、馬車を持つようなものはそもそも高ランク冒険者に多いため、わざわざゴブリンを狩りになどいかない。
「ん~。近くを通る乗合馬車がちょうどあったらいいんだけどな。歩くと三日かぁ~」
「何か問題でもあるのか?」
「いい。野営するのは大変なのよ。それはもう大変なのよ。一人は見張りをしないとだし、ゆっくり休むことも出来ない。二人で十日歩いた時はほんと辛かった……あの頃はお金もなかったしね」
何か遠くを見ている。あまり触れてはいけないことのようだ。
「それは三人でも辛いことなのか? 正直野営の経験は多くないから、あまり実感がわかないんだ」
あるのは現実世界でソロキャンした記憶。確かにあれも専用のサイトにテントを張って寝泊まりするだけだし、別に何か危険を警戒してるわけなじゃいから状況が違いすぎるか。それに道具も簡単に使えるものばかりだったし。
そもそも街道沿いに歩いて行って、魔物との遭遇する確率が分からない。
「確かに三人なら少しは楽になるかな。練習を兼ねて経験するのもありだし。まだ暖かいし、ローブでもあれば十分夜も過ごすことができるかな? 街道に沿って進んでいけば魔獣との遭遇率も低いし、あとは盗賊に気を付ければ……」
ぶつぶつと自分の考えをまとめた結果。クリスと何事か話したあとに依頼を受けると宣言された。
「それじゃこれお願いね」
「えっと、三人で受けるのですか?」
ミカルがルリカを見て、クリスを見て、最後に俺を見て確認してきた。
「そうそう。少し新人君に冒険者のイロハを教えてやろうと思ってね。なんて偉そうなこと言うけど、前回助けてもらったその借りを返すってのもあるんだけどね」
「そうですか。ならそのように手続きさせてもらいますね」
問題なく受理されたようだ。
「今日は必要アイテムの買い出しをして、出発は明日かな。宿にも伝えないとダメだしね。一応いつ戻ってこれるか分からないから、宿泊はキャンセルしておいた方が良いよ。理由を話せばある程度理解してくれると思うから」
食料に回復ポーションを買い、あとは野営に必要なアイテムを確認し、なければ補充する。回復ポーションは意外と高いな。けどお金で命を買うと思えば安いのか?
一応魔物除けのアイテムも購入したが、これは使わない予定。保険のために持っていくことになった。
あとは保存のきく食料。簡単な調理器具はルリカたちが持っているのでそれを使うことに。食器だけ自分用のを購入した。
その後時間が余ったので修練所で鍛錬。今回はクリスも少し身体を動かしたが、見学している時間の方が長かったのは言うまでもない。
疲れを残さないように早めに切り上げて、明日の朝一で門の前集合ということで、今日は解散した。今日も生傷が絶えない。
「うん、出発日よりの良い朝だ」
朝からテンションが高い。張り切りすぎて途中疲れることはないのだろうか?
「お、今日は遠出するのか?」
野営装備を見た門番が声をかけてくる。頷きギルドカード見せて街の外へ。
街道沿いに歩いていくので迷うことがないが、進行方向の周囲に人の姿がない。
依頼先の村がある方向に、件のウルフがいると思われる森があるため、余程の理由がなければ、今はそちらの方に行くのを回避しているのではないかと、ルリカが言った。
もっともウルフの群れは森の奥深くの方にいたから、こちらまで来る確率は低いとのこと。基本的に森の中で生活する習性があり、食糧不足か縄張り争いに負けない限り出てこないらしい。
旅路は特筆すべきことがないほど順調で何も起こらない。延々と代わり映えしない景色を眺めながら黙々と歩く。
それでもウルフのいると思われる森から徐々に離れていくことで、心なしか気が楽になった気がする。口では大丈夫といっていたが、ルリカも警戒しながら歩いているようだった。
無理をせず、何度も休憩を挟みながら歩いた。水分補給は大事だ。それにまだ初日、疲れていないからと言って考えなしに歩くと、それは後々響くから注意が必要とは、ルリカ談。
俺にとっては歩く分には疲れないんだよな。ただそれは肉体的なものであって、精神的には疲労を感じる。主に女性と一緒に行動する緊張感が、街を離れるにしたがって高まっていくのを感じる。
うん、正直に言おう。女性慣れしてないんだよ。
ルリカはさっぱりした性格からそれほど女性を感じないが、クリスは違う。男慣れしていないのか、従来の性格なのか、一歩引いて恥ずかしそうに接してくる。深窓の令嬢を想像させられるような儚さがある。勝手な思い込みだが。
だからついこちらも意識してしまうというか、なんというか。
ルリカは、私は分かってます、と言うかのようにからかうような表情で頷いてきた。
あ、ちなみに木剣はしっかり持ってきました。休憩中にしごかれた。
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