第8話 修練

「せっかく今回出会ったのも何かの縁だし、良かったら今度一緒に依頼受けてみない?」

「俺は冒険者になったばかりだぞ? そっちはもうすぐCランクに上がるって言ってなかったか」

「いくつか依頼を達成出来たらなれるかな。クリスはどう思う?」

「……うん、いいと思う」

「だよね。正直言っていままで二人でやってきたんだけどさ。今日みたいなことがあると二人だとちょっと辛いかな、って思ってね」

「一緒に組んでくれそうなのは結構いそうだったぞ」


 ギルドに入った時の視線。あれは今思い返せば嫉妬だったんだろう。


「確かに声はかけられるんだけどね。こう、ビビッとくる人がいなかったんだよね。それになんか下心みたいのも感じたし。それにクリスがあまり良い顔しないから」


 それはある意味仕方ないんじゃないかと思う。少なくとも容姿は間違いなく良いし、話してみたら二人とも性格が良いことも分かる。

 ルリカは快活で話しやすく、クリスはあまり積極的に話すことはないが、いるだけでなんか落ち着くような不思議な雰囲気がある。

 会って間もないから見当違いかもしれないけど。少なくとも俺はそう思ったね。


「それにさ。先輩として冒険者のイロハを色々と教えちゃうよ。あとは……模擬戦とかして戦い方とかもね。鋭い斬撃だったけど、どうも剣に振り回されているっていうか、違和感を覚えたんだよね」


 剣の扱い方は素人だしな。実際スキルによって、無理やり剣を使っているようなものだ。

 しかし、と思う。こちらに条件が良すぎる。

 何か裏があるのではと疑ってしまう。

 けどこれはある意味チャンスだとも感じている。戦い方の基礎は知りたい。最悪ギルドに依頼を出すことだって考えていた。お金がなかったから出来なかったけど。


「分かった。とりあえずお試しで頼むよ。ルリカたちだって、いつまでもこの国に滞在しているわけじゃないんだろう? その間だけでも助かるよ」

「そうね。ランクCになって、良さげな護衛依頼があったら移動かな。とりあえず、明日は半日時間をちょうだい。ちょっと行きたいとこがあるから」


 それなら明日は午前中に配達の依頼を受けて、午後に付き合うと約束した。

 朝一でギルドに行くと、やっぱり混んでいた。壁に貼り付けられた依頼を眺める者が多く、一部依頼を取り合って喧嘩しているものもいる。

 配達依頼の前には誰もいないので、依頼内容を確認して三つほど選んで受付を済ませた。受付が混んでなくて良かった。

 依頼は予定通り昼前に終わった。

 ウォーキングのレベルが20になったので、これでスキルポイントの余剰が4になった。

 何を覚えるか悩ましい。ここは回復系の魔法か、それとも攻撃魔法か。ただどんな魔法を覚えられるか分からないので、一度しっかり調べる必要がある。


「待たせたか?」


 約束の場所にいくとルリカが一人待っていた。


「それじゃ行こっか。あ、クリスはちょっとお留守番。やっぱ疲れがまだ抜けきってないみたいでね。あの子どっちかというと運動苦手だから」


 連れていかれたのは装備一式を揃えたあのお店だった。


「なんだ嬢ちゃんか。それにそっちは装備を買ってくれた坊主か。なんか売ったものに不備でもあったのか?」

「今日はちょっと模擬戦で使える武器を見に来たんだ。良さそうなのあるかな?」

「剣先を潰したものか木剣になるがどっちがいい? 値段は木剣の方が安い」

「重さの調整は出来るかな? もちろんサービスだと嬉しいな~」

「嬢ちゃんには叶わねえな。片手剣と双剣でいいのか?」


 購入後、街中にある修練所に向かった。

 主に衛兵が利用しているが、空いていれば他の人も利用することが出来る。冒険者ギルドにもあるが、あっちだと目立つからな。

 運良く修練所の隅が空いていたため、そこで模擬戦を行う。

 前半は基本的な剣の振り方というか、戦い方のレクチャー。後半は実際に戦いながら問題点を指摘され、その改善を繰り返す。

 やはりただ素振りをするよりも、実際に剣を交えた方がためになる。熟練度の上がり方も違う。特に素振りだとただ振るだけなのに、誰かに攻撃をするというのは、相手の動きを考えながら振らないとだから、体だけでなく頭も使う。

 何度も何度も繰り返し、すべてが終わったあとには疲労でしばらくの間立てなかった。ルリカは平気そうに佇み、息も切らしていない。これが経験の差か?

 激しい打ち合いをしたから、生傷も多い。

 最初女と二人きりで鍛錬かと、軽い嫉妬と、興味深そうに見ていた人たちも、徐々に激しくなる討ち合いを見て同情の視線を送ってきた。


「ま、初日にしては頑張ったと思うよ。あとは依頼中も常にそれは持ってくること。時間があれば訓練したいからね。あ、荷物になって面倒だったら真剣でもいいけど、どっちがいい?」


 言われるもなく木剣。さすがに人に向かって、真剣を振るう勇気がない。もちろん木剣だって当たり所が悪ければ大きなダメージを与えることになるだろうが、それでも気持ち的に違う。


「それじゃ明日は依頼を探しに行こうか。魔物の討伐依頼があればいいけど、なかったらその時考えよう」


 立ち上がり生活魔法の浄化をかける。もちろんルリカにも。

 凄く喜ばれたのと、魔法が使えてずるいと拗ねられた。




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