第7話 目的
「それじゃ今日はありがとう、ということで。乾杯」
ルリカの言葉で食事がはじまった。
料理はどれも見たこともなく、一口含んだだけでその美味しさに驚いた。
普通に美味しい。どの料理もそれぞれ個性的な味があり、食事を楽しませることを念頭に作られていることがうかがえる。
「うまい……」
思わず言葉が漏れる。
こちらの世界に来て、はじめて向こうの世界にも負けず劣らずな味だと思えた。
最初は噛みしめるように食べていたが、気づいたら一心不乱に食べていた。
ふと笑い声が聞こえた。
顔を上げるとクリスが笑っていた。
今はツインテールをほどき髪をストレートにながしていて、一見大人びてみえたが、笑っている姿を見ると幼い印象を受ける。
視線に気づいたのか、わたわたして助けを求めるようにルリカを見た。
仕方ないなぁ、と言いたげにルリカが言う。
「喜んでくれてるようで良かった。ここは王都の宿でも味が良いって評判でね、それで選んだんだ。もっともこの料理を食べるには追加料金を支払わないとだめだけどね」
料金分の価値はあるのかもしれない。いくらかは、聞くのが怖いが。そして普通の料理もちょっと食べたいと思った。
食事を終えて一段落したらちょっとした雑談になった。
まずはハチミツ採取の依頼がペナルティーにならなかった話からはじまり、徐々にルリカたちの冒険者として活動してきた話になった。
冒険者がどんな活動をしているかを知りたかったからだ。
話の中で分かったのは、ルリカたちが他の国から来たということ。
ランクDに上がるまでは地元で冒険者として活動し、護衛依頼を受けながら国から国へ移動しているとのことだ。
「エルド共和国から来てね。いいとこだったんだけどね」
確かエルド共和国とは人間や亜人種が共同で生活している国だ。
ここでいう亜人とは、獣人やエルフ、ドワーフなどをさす言葉らしい。さすがはファンタジー、向こうでは空想の種族だったものが普通に存在する。
まだ会ったことがないんだよな。冒険者になら一人ぐらいいても良さそうなのに。
この世界には七つの大国が存在していた。
人類至上主義を掲げ、他は悪と唱えるボースハイル帝国
人類こそ優れているという思想のエレージア王国
多種族が共存して生活しているエルド共和国
獣人の王が支配するラス獣王国
女神信仰を唱えるフリーレン聖王国
魔導研究をする者たちが集って出来たエーファ魔導国家
竜を崇める者の国ハフレ竜王国
歴史を紐解けば小さな争いこそあったが、ここ百年の間、国同士がぶつかるような大戦は起こっていなかった。
しかし十年前。ボースハイル帝国がエルド共和国に対して宣戦布告を行い戦争を始めた。
それは最初小さな灯だったが、やがて七大国すべてを巻き込む戦いに発展した。
攻める国。守る国。不干渉を貫く国。
世界は疲弊し、先の見えない戦いが続いていた。
そんな中、三年前にフリーレン聖王国の聖女をはじめとした、主だった司祭が女神の啓示を受けた。
「魔王が復活しました。どうか全ての愛すべき者たちよ、力を合わせて戦いなさい」
最初その言葉は妄言と取り合わなかった時の支配者たちも、統制のとれた魔物たちの出現により、停戦を結び撃退した。
それは黒い森と呼ばれた魔の森よりあらわれ、今も隣接する国々を襲っている。
「そういうソラはここの生まれなの? 初心者にしては装備もいいし、もしかして良いところの生まれだったりして」
「違うよ。ちょっと遠くからきてね、生活するために冒険者になった。お金を貯めて、戦い方を学んで、最終的にはこの世界を歩いて見て回りたいと思ってる」
魔王のことは正直言って興味がない。実感もわかないし、特にこれといって恨みらしい恨みはない。
あえてあげるなら、魔王のせいでこの世界に呼ばれたことだ。特にあの王城の奴らには腹立たしさしかない。頭を下げられたって戦いたくない。
ただもしも、この世界で力を手に入れることができたらと思わないでもない。
力に憧れないといえば噓になる。実際このスキルがあれば、将来的には力を手に入れることが出来るかもしれない。
もしかしたらこの感情には、あいつらを見返してやりたいという思いもあるのかもしれない。
「世界を見て回るね~。なんか面白い動機ね」
「そうか? 結構俺としては本気なんだけどな」
「そっかそっか」
こちらの話を聞いたルリカが、じっとこちらを見てきた。
その視線からは何か品定めをしているようで、探られているという感じを覚える。
「それでソラは明日はどうするの? やっぱり依頼を受けたあとだから休むのかな」
「一応配達の依頼を確認かな」
「配達の依頼? もしかして噂の配達人ってソラのことなの!」
なんだ噂の配達人ってのは。
詳しく聞いてみると、誰もやらない配達を黙々とこなす変わり者ということで、冒険者の間では結構噂になっていたらしい。
「町中は安全だしな。まだ来たばっかだったし、道を覚えるためにもちょうど良かったんだよ」
歩くことでお店の位置も覚えられるし、道を覚えることで何かあった時の逃走経路にも使える。
「あの大変な依頼を良くもまぁ」
「凄いです」
素直な賞賛の言葉がこそばゆいが、スキルのためってのもあるからな。
それに街の外に出る勇気もなかったし。
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